010 アレンのお茶会
ある日の午前中、授業は午後(午前中はシュミットお兄様の勉強時間なので、ナタリア先生はそちらにいる)なので、朝食後の時間をまったりと過ごしていると、メイドの一人が大慌てで入室してきた。
「どうしたの?アンナ」
「お、お嬢様。侯爵家からお嬢様あてにお手紙が」
侯爵家?なんだっけ?あ、アレンか。多分お茶会に誘うって言ってたからそれだな。
「落ち着いて。おそらくお茶会のお誘いではないかしら」
アレンからの手紙くらいでそんなに取り乱すなよ。
受け取った封書の封蝋をレターナイフで丁寧にはがし、中にあるカードに書かれている文言を読むと、やはり招待状だ。
「お父様とお母様にご報告して。ナタリア先生には午後の授業の時にその日を休みにしてもらうように私から伝えます」
テーブルの上にレターセットを取り出すと、さらさらと招待を受ける旨のお返事をしたためていく。
それを信じられないものを見るかのような目でメイド達が見ていることに気付いた私は、ごまかした。
「こういう手紙の書き方や返信についてはナタリア先生からしっかり習っているのよ」
にっこり。
まぁ、やらかしかけたけど、なんとかごまかしたぜ。ふぅ。
お茶会の当日。
馬車で侯爵邸に乗り付けた私はお母様とともに出迎えを受けた。
5歳なので親同伴だ。
「マリアさん、よく来てくれたね。待ってたよ。メアリ様も本日はおいでいただき誠にありがとうございました」
こいつ本当に5歳か?そつがない。
「お招きありがとうございます。本日はよろしくお願い申し上げます」
こちらもそつなく対抗だ。
お母様も挨拶をしてから移動する。どうやらアレンの母ちゃんとお話しするようだ。
「マリアさん、こちらへどうぞ。今日はお茶会といっても僕と二人きりなので、緊張しないで大丈夫ですよ」
は?いやいやお披露目会でアレン以外と話せてないのをここで挽回するつもりで来たんだぞ。
誰もいねぇのかよ。
なんかこいつヤンデレストーカータイプな気がしてきたんだが、逃げたほうが良いだろうか?
「ねぇマリアさん、僕、魔法を勉強してるんだ。見せてあげようか?」
ふっ、鼻で笑っちゃうぜ。まぁいい。見せてもらおうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを。
お茶会セットのあるテーブルを素通りし、裏庭の訓練場みたいなところにやってきた。
20メートル先くらいに3本の的らしきものが立っている。
良い訓練場だな。うちにも欲しいぞ。
「じゃあいくよ。水の精霊に対し奉る、我が指先から水流の噴出する奇跡を賜らんことを。ウォーターカッター」
蛇口につないだホースの先端を指でつぶした際に出るような割と細い水流が弧を描いて噴出した。
花壇の水やりには便利そうな魔法だ。
でもカッターはないだろ。岩とか石とか切れそうにないぞ。
「どうかな?」
ちょっと誇らしげにアレンが聞いてくるが、一応ほめておこう。私は空気が読める令嬢なのだ。
「素晴らしいですわ、アレン様。私ができるのは小さな火をともすくらいなので」
そう言って素早く詠唱して火を出してみる。
「指先に小さな火を灯せ。スモールファイア」
なんだか驚愕の表情でアレンが私を見ているが、別にたいしたことはやってないはずだ。
「な、なんか僕の習った詠唱と違うんだけど、誰に習ったの?」
「うちの家庭教師のナタリア先生ですわ。とても優秀な平民の先生なんですの」
本当は先生に習った詠唱呪文とは違うんだけど、面倒だから先生に押し付けちゃえ。テヘペロ。
アレンが難しい顔をして私を見ているが、なんでだ?
「魔法の発動がめちゃくちゃ速いんだけど、魔力を練る時間が短くなるような何かを習ってるの?」
あぁ、そういうことか。鑑定魔法で練習しすぎて、魔力を出すことに関してはもはや息をするようにできるんだよな。
「魔力の移動だけはしっかり練習してますの」
これでごまかせるか?
「僕も練習すれば速くなるかな?」
「もちろんですわ。私にできることがアレン様にできないはずはありません」
なんか嬉しそうだ。ショタ萌える。
それからアレンと私はお互いの家庭教師から習っていることについて情報交換したり、実際の魔法発動の練習をしたりして楽しく時を過ごした。
あれ?お茶飲んでないような気が…。