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001 管理者

 まぶしく感じるほどの明るさで目覚めると、違和感を感じた。

「おかしい」

 私はしっかりとカーテンを閉じて寝るので、朝でも薄暗いはずなのだ。


 いつもの場所にあるはずの眼鏡を取ろうとするが、何も手に触れない。

 しかし、いつもはぼんやりと焦点の合わない視界は、なぜかくっきりしている。

「眼鏡かけっぱなしで寝ちゃったかな?」

 いや、違うようだ。

 そもそも自分の身体が無い…。

 身体を起こす動作をする必要もなく水平線の彼方(!)が見えてるし、手を目の前にかざそうとしてもできない。

 いや、目覚めた後、【目を開ける】動作をしていないような…。


『目覚めたか?』

 誰かに問われたので、あたりを見回す。というか、意識を360度回転させるが、そこには何もない。

 真っ白な空間にポツンと自分の意識が存在するだけだ。

「あ、これ夢だ」

 どうやらまだ目が覚めていないようだ。

 いわゆる明晰夢(めいせきむ)というやつか。すげぇ、貴重な体験!


『夢ではない』

 誰かがしゃべりかけてくるが、やはり存在は感じられない。

「あなたは誰ですか?」

 とりあえず尋ねてみた。てか、夢だし…。


『我は世界の管理者である』

 へぇー、自分の夢ながらスケールの大きな話だな。

 自分の潜在意識の中にそういう願望でもあったのか?…って、中二病かよ!はずかしい。


『いや、まじで夢じゃないから…

 いいかげん、話が進まないからちゃんと聞いて』

 あ、なんか心の中で思っただけで、こっちの考えが通じてるみたい。テレパシーなの?日本語では精神感応っていうんだっけ?


『もういいや、勝手にしゃべることにするよ』

 どうやら(あき)れられたらしいが、私は悪くない。


『君は死んだ』

 えっ?まじ?夢の中で死ぬと現実でも死ぬんじゃないか?やべぇ。


『違う、現実で死んだからここにいるのだ』

 うむ。するってぇとここは【死後の世界】ですか?

 思ってたのと違う。

 三途の川があって、閻魔様がいて…ってのを考えてましたが、ずいぶん殺風景な場所ですね。

 てか、ほかの死者の方々はいらっしゃらないので?


『死後の世界なんてものはない、死んだ者は輪廻するだけだ』

 おぉ、仏教でいうところの輪廻転生ですね。つまり、魂のリサイクル!


『ここは転生前の準備空間と考えてくれたまえ』

 死者は必ず全員ここへ来るのでしょうか?


『いや、通常の場合は魂をクリーニングして、記憶を消したあと転生先へ送るだけだ』

 はぁ、なるほど。洗濯機にぶち込んで洗うと…。まさか手洗い?


『手洗いするほど暇じゃない』

 いや、別に洗濯方法を答えてくれなくても良いのですが…。


『ごほごほ、どうもやりにくいな

 とにかく、君は死んで転生前の状態にいるのだ』

 なぜ私だけ特別扱いなんでしょうか?はっ!まさか選ばれしもの?勇者?聖女?


『人間とは自分で自身の生き方を決めるもの、勇者や聖女などというものは後世の評価に過ぎぬ』

 そりゃそうだ。職業が【勇者】って何だよ。お笑いだよ。

 最初から職業が決められてたら職業選択の自由がないじゃん。


『ただし、選ばれしものというのは間違っておらぬ

 君は今までの世界とは異なる世界への転生権を得たのだ』

 えー、死んだのなら来世はやっぱり日本人が良いです。

 異世界転生とかちょっと…。プークスクス。


『いらっ、君は他人の神経を逆なでするやつとか言われたことはないかね?』

 私、友達いないので。あ、仕事ではちゃんとやるので問題なし。


『と・に・か・く、君の異世界転生は決定事項、くつがえせません、プークスクス』

 いらっ!…い・や・だ、日本人が良いってば!

 そもそもなんで私なの?


『ランダムだ』

 うぐっ、交通事故や自然災害みたいなものか。断腸の思いで納得しよう。いやだけど。

 しかーし、だったら転生特典3点セットくれ!あと、それ以外にもなんかすごい能力くれ!

 当然、記憶は消さないよな?てか、消すなよ。知識チートするんだからよ。


『転生特典3点セットとは【鑑定】【全言語理解】【アイテムボックス】のことか?』

 そうそう、それそれ。転生者に必ず備わっているデフォルト装備。


『無理だ』

 へ?まじで?じゃあ、どんな能力をくれるの?一覧から選ぶ形式?


『それより君、死んだ理由とか聞いてこないけど気にならないの?』

 半分以上、夢だと思ってるからどうでもいいかな…と。

 それより能力だよ。能力。なんかすごいやつくれ。


『転生すれば夢じゃないことに気付くだろうし、もういいか

 特殊能力なんだが、転生先の世界にはなんと魔法がある

 この魔法に関する能力や剣術などの身体的能力なんかが選べるな』

 おぉ、やっぱ魔法あるのか。てか、定番だよな。魔法の無い異世界って、異世界の存在意義がねぇよ。


『いや、魔法の無い異世界もあるのだが…、というか、君のいた世界にも魔法は無いだろう』

 そういえば、複数の世界が存在してるっぽい話をしてるけど、多元宇宙論(マルチバース)は真理だったのかな?


『理解が早くて助かる

 我は10万あまりの世界を管理しているのだが、君のいた世界もこれから行く世界もその中の一つだ

 似たような物理定数を持つ世界をまとめて管理しているから、転生先の世界にも自然があり、街があり、人間や動物が存在している

 だからそんなに心配はいらないよ』

 虫はいますか?特に黒くて素早いG。


『いるな、ほとんど君のいた世界と変わらないと思ってくれたまえ

 違いは魔法の有無くらいだ』

 うげぇ、まじか。Gのいない世界への転生を希望します!

 ところで今更ですが、あなたは神様ですか?


『違う、ただの管理者だ

 まぁ、普通の人間から見たら神っぽくは見えるだろうが…

 あと、Gのいない世界は存在しない』

 すげぇな、G。実は世界の支配者じゃねぇの?G

 ところで話は戻りますが、もらえる能力の件、3点セットが無いのはおかしいと思います。

 断固抗議する!


『【鑑定】は鑑定魔法があるし、【全言語理解】なんて転移じゃなく転生なんだから不要でしょ、【アイテムボックス】も空間魔法で実現できる』

 ふむ、ということは魔法の能力さえもらえば、ほとんど何でもできるってことですか?


『まぁ、そうだな、でも魔法は誰でも使えるよ

 魔法陣という図形を思い浮かべて、そこに魔力を流して励起(れいき)させ、手の先から結果を出力するだけだから

 問題は複雑な魔法陣を正確に記憶しておく記憶力だね

 だから普通は魔法陣を描いた魔導書を見ながら発動させるけど、優れた魔法使いはよく使う魔法陣を暗記してるね』

 ほほう。では魔法に関する特殊能力って何?


『使う魔力は自然界から吸収するんだけど、魔法の規模によってある程度のバッファリングが必要になる

 そのバッファメモリの容量増大だけだな』

 成長するにつれ容量が増えるとか、空にしたら翌朝容量が増えてるとか、そういう定番の話はないんですか?

 あと、属性ごとの適正とかは?


『容量は体重に比例するよ

 あと空にしても増えるなんてない、容量を増やしたければ体重を増やしなさい

 魔法体系は便宜的に火や水などの属性に分類してるけど、別に属性ごとの適正なんてないよ

 基本的に魔法は誰でも使える』

 まさか【容量増大】という能力を取得すると、体重を増やしやすい肥満体質になるとか?


『そうだよ』

 わぉ、聞いといて良かった。あやうく選ぶところだったよ。


『あとは体術関連の能力が選べるよ

 こればかりは素質がものをいう世界だからね

 【剣術】【刀術】【槍術】【斧術】【棒術】【弓術】【格闘術】の中から一つだけ選べる』

 これらの能力が無くても技術は覚えられるんですよね?


『当然だね

 軍の兵士であっても、能力を持たない者がほとんどだな

 訓練によって戦闘力は向上するし、逆に特殊能力が有っても努力を怠れば弱いままだけどね』

 なるほどね。ところで今更ですが、性別はどうなるんでしょう?


『言い忘れていたね

 魂のレベルで決まっているので、当然女性に転生する

 たまに魂と肉体の性別が異なって生まれるケースもあるけど、そういう場合は問題が生じることが多いな』

 あぁ、性同一性障害ね。

 女性に生まれるとなると、魔法メインでいきたいな。魔女っ()に憧れるよね、やっぱり。


『では【容量増大】か?』

 いやだよ。デブ決定じゃん。

 やはりここは【全言語理解】で!

 それとも無理なのかな?管理者様ともあろうお方が…。


『いらっ(2回目)、できるとも

 だが無駄な能力だと思うが…』

 いえいえ、異世界にも複数の国家がありますよね?

 当然、言語も異なりますよね?

 外国を旅行する際にめっちゃ便利じゃん。

 あと人間型モンスターのゴブリンやオークの言葉とか分かるようになれば面白い。


『いねぇよ、モンスター…もといモンスターなどというものは存在しない

 違いは魔法の有無だけだと言っただろう

 あと、この惑星上には5つの大陸とそれを囲う海があるが、君の転生先はその内の一つの大陸で、そこには20数か国が存在している

 確かにそれぞれの国で使っている言語は異なっているので、【全言語理解】も意味がなくはないが、勉強すれば良いだけの話だろう?』

 いやいや、自国以外の言語を勉強することの難しさを知らないのかよ。

 私は小中高・大学で英語を学んだが、英会話はさっぱりだぞ。

 大学で学んだ第2外国語のドイツ語もアイン、ツヴァイ、ドライ以外全て忘れてしまった。

 そもそもプログラマだからある程度の英語は読める。ググった先で見つけた資料が英語であることが多いので仕方ない。

 でも、ヒアリングはまともにできないし、しゃべれない。

 なんというか、向いていないんだろうな。

 プログラム言語だったらバイリンガルどころかマルチリンガルなんだけど…。


『そういうことなら【全言語理解】を付与しよう

 話す・聞くだけでなく読み・書きまでサポートできるようにしておこう』

 やったー。国語や外国語の勉強をしなくてすむ。


『ではそろそろ転生開始するよ

 君の意識が浮上するのは君の新しい転生体が5歳になったときだからね』

 あぁ、やっと夢から覚めるのか。なかなか面白い明晰夢だったな。

 起きてからもし覚えてたら、忘れないうちにメモっとこう。

 てか、今やってるプロジェクトのコードレビューが近いんだけど、コーディング間に合うかな?デスマーチは勘弁…。


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