神化論:ZERO 09
しばらく大声で叫びながら歩くと、マヤが突然足を止める。ローズも同様に足を止め、マヤに「どうした?」と聞いた。
「……なんか来てるわ。多分、複数」
「え?」
マヤは険しい表情をしている。彼女のその表情と雰囲気で、ローズは直ぐに事態を察した。ここは魔物も多く出る場所、つまりそういうことだろう。
それにしても見た目十代の少女でしかない彼女だが、自分よりも早くに魔物の気配を察して警戒する姿に、ローズは内心でかなり驚いていた。彼女は自身のことをただの冒険者風に言っていたが、なんだかそれだけじゃないような気がする。
「ローズ、あなた強い?」
「ん? あ、えっとだな……足手まといにならないように努力はするさ」
ローズは答えて背の大剣の柄を握る。マヤは少し笑って、彼女もまた自身の武器である細身の剣を手に取った。
◇◇◇
アーリィに半殺しにあったユーリだが、地面に額こすり付けて謝った結果なんとか命だけは助かる。
「命助けてもらった相手に殺されそうになるって、なにこの奇妙なサイクル」
「自業自得だろ、超絶馬鹿」
二人はユーリの見つけた獣道を上へと上がり、ユーリが落ちてきた崖の上までたどり着く。
「そういえばアーリィちゃんもうっかり崖から落ちたの? もしかしなくても、君も誰かお仲間を捜してる?」
無視してもしつこく聞いてきそうなので、アーリィは素直に「はぐれた人を捜してる」と答える。ユーリは「じゃあやっぱり俺と同じか」と、何故か嬉しそうに言った。
「崖から足滑らせて落ちたお前と一緒にするな」
「ひでぇ……じゃあアーリィちゃんはどうしてその人とはぐれたんだ?」
「そ、それは……」
何故自分が仲間とはぐれたか……ひらひらと飛ぶ綺麗な紫の蝶々を追いかけ、気づいたら崖の下で迷子になってたなんて絶対に言えないとアーリィは口を閉ざす。この男にそれを知られることは物凄い恥だと、アーリィは真面目にそう思った。
「もしかして綺麗な蝶が飛んでて、それ追いかけてたらいつの間にかはぐれてたとか?」
「!?」
ずばりな理由を(何故か)言い当てたユーリだが、笑って「んなうっかりなことしねぇか」と言葉を付け足す。アーリィは顔を赤くさせて「うっかりで悪かったな!」とユーリに怒鳴った。
「え、うそ! マジでそんな理由?! やだアーリィちゃん、可愛い!」
「うるさい黙れ! くそっ、お前と会話してると無性にイライラしてくる!」
またアーリィを怒らせ、ユーリはがっくり肩を落す。もう自分が何を言ってもアーリィは怒るんじゃないかと、ユーリはそんなことを思ってうな垂れた。
「ねぇ、アーリィちゃん……」
「話しかけるな。潰すぞ」
「何を! 目ぇこわっ!」
アーリィの自分を見る目が殺る気満々なものになったのに気づいて、ユーリは引っ付いて歩きながらも怯える。しかし突然情け無く涙目だった彼の表情が変わった。
「アーリィちゃん」
「だから話しかけるなと……」
アーリィが苛立った様子でユーリを見ると、彼は険しい表情で口に手を当てている。『静かに』というサインだろうか。事態を察したアーリィも口を閉ざし、周囲の気配を探った。そして冷静になり、アーリィも直ぐに異常に気がつく。人ではない何かがこちらを狙う、そんな気配がしたのだ。
「魔物か?」
ユーリはそう言うと腰の後ろにベルトで吊っていた短剣を手に取る。その後二人の目の前に、それは堂々と姿を現した。そしてその瞬間に、二人の表情は変わる。驚いたように目を丸くし、二人はそれぞれにこう呟いた。
「んなっ……なんだありゃ」
「……でかい」
◇◇◇