神化論:ZERO 08
「あ、アーリィちゃん。こっちに上へ行けそうな道あるぜ」
ユーリのその言葉に、アーリィは一応足を止める。ユーリが指差した方向には、少々急勾配で足場は悪いが確かに崖の上へ行けそうな道があった。
「ちょっと歩くの大変そうだけど……アーリィちゃんどう、行けそう?」
ずっと歩きっぱなしだったためか、見るからにへばる寸前なアーリィを心配してユーリがそう問う。疲れた様子で肩で息をするアーリィは、どうやら恐ろしく体力が無いらしい。しかし強がってか、アーリィは「大丈夫だ」と返事をした。
「マジで? 登る前にちょっと休む?」
「いい。……っていうか」
いつの間にかユーリと一緒に進むことを前提で会話している自分に気づき、アーリィはひどく複雑な表情で「お前、一人で勝手に行けばいいじゃないか」とユーリに言う。
「俺のことはほっとけ」
「えー、アーリィちゃん一人置いては行けないってー。一緒に行こう」
「……」
言い方は軽いが自分を置いては行かず一緒に行こうと言ってくれるユーリに、ちょっとだけアーリィは好意的な感情を抱く。しかしやっとアーリィのユーリに対する好感度がマイナスからゼロになったかな、というタイミングでまたこの男はやらかした。
「あ、疲れて歩けなくなったら俺が抱っことかおんぶとかしてあげるから遠慮なく言ってねー。俺、力は結構あるから人一人くらい余裕で運べるし。ほらっ!」
「……って、ふぁあぁっ!」
ユーリは物凄い早業でアーリィに急接近、そして抱きしめ持ち上げるという動作を行ってみせる。ユーリはアーリィを抱きかかえながら「なっ?」とか得意げに言ってみせるが、突然抱き上げられたアーリィはまだ状況が把握できないらしく目を白黒させて返事どころではなかった。
「あ、やっ、だめ、ちょっと……ひゃあっ!」
「……やっぱりこの柔らかさは女の子だよなぁ」
アーリィを抱きしめるユーリの手が不穏な動きを見せ、アーリィは悲鳴と共に顔を赤くし、そして……
「貴様いい加減にしろ!」
「おぐふっ!」
アーリィの怒りの膝蹴りが、ユーリの胸元を強烈に打つ。いくら疲れていても身を守る為には全力を出すアーリィは、悲鳴をあげて地面をのた打ち回るユーリをさらに鬼のように蹴りまくった。
「このっ! 変態っ! 恥を知れ! 生きてることを恥じろっ!」
「いたっ! 痛いっ! ごめんなさい! ちょっ……まじすいませんでしたっ!」
ユーリが涙目で謝っても、アーリィの怒りは収まらない。そして今回のこのおふざけによって、アーリィのユーリに対する評価はマイナス方向へさらに突き進んだのは言うまでも無かった。
◇◇◇
「んー、やっぱりじっとしてるのは駄目だわ! 三十分も無理! ローズ、捜しに行きましょっ!」
結局十分ほど待っていたが何も進展は無いので、痺れを切らしたマヤは立ち上がってそうローズに言う。ローズは苦笑しながら、「そうだな」と彼も立ち上がった。
「マヤも仲間とここらへんではぐれたんだよな?」
「そのはずなんだけど、アーリィっていつの間にかいなくなって妙なとこで見つかるってことが多いからなー……」
マヤはまた「アーリィ、どこー!」と大声で叫び始める。ローズもユーリの名を呼び、二人は再度歩き始めた。