神化論:ZERO 06
「で、俺はパンドラを探すちょっと天然な相棒と世界中を旅してるわけなんだよ」
「そんなこと聞いてない。っていうかさっきからでかい声で雑音撒き散らすな、迷惑だ」
「そんな悲しいこと言わないでよ、アーリィちゃん。互いの事情を話して、お互いもっと親密になろうぜ。っていうわけで、アーリィちゃんはなんでこんな危ないとこにいたの? 迷子?」
「……何故だ? お前とは会話が成立しない。言語は互いに共通語を使用しているのに、どうしてだ?」
さっさと一人になってマヤと合流したいアーリィはユーリを振り払おうとして急ぎ足で進むが、ユーリは一人は寂しくて心細いので意地でもついていこうとする。そして勝手に自分の話を始めて、彼はアーリィと友好関係を築こうとしていた。ゼロからのスタートどころか好感度マイナスからのスタートなので、それはだいぶ難しいというか絶望的な目標だったが。
「ねぇアーリィちゃん、そういえばさっき『ますたー』とか叫んでたけど、あれ何?」
ユーリはふと先ほどアーリィが叫んでいた『マスター』なる気になる謎単語を思い出し、相変わらず自分を置いてさっさと先に進もうとするアーリィに問いかけてみる。するとアーリィはユーリに背を向けたまま、ぶっきらぼうな口調で「お前には関係ない」と答えた。
「う~ん、そう言われると思ってたけどでも気になる。なに、もしかしてアーリィちゃんはますたーとか言う人を捜してるの?」
「……」
もう会話が面倒くさいのか、アーリィは本格的にユーリを無視することにする。アーリィが話しをしてくれないので、ユーリは「ねぇアーリィちゃ~ん、無視しないで~」と言いながら後ろからアーリィの服の裾を引っ張った。その瞬間、アーリィは般若の顔で素早く的確な回し蹴りを放つ。アーリィのつま先が見事またユーリの 顎を打ち、彼は濁った悲鳴をあげて軽く後ろに吹っ飛んだ。
「ほぐぇぇっ!」
「触るな変態!」
もはやアーリィのユーリに対する評価はマイナス方向にぶっちぎりで突き進み、方向修正は不可能レベルにまで達しているようだ。この徹底した嫌われっぷりに、ユーリはそろそろ砕けそうな顎を押さえながら起き上がってちょっと泣いた。
「アーリィちゃんは俺のことがそんなに嫌いなのでしょうか?」
「変態はお断りだ。視界にも入れたくない」
ドきっぱりとそう言うアーリィに、ユーリは「ひどい」と力なく呟く。アーリィの態度は確かに酷いの一言だが、しかし原因は自分にあるのでユーリはしょんぼりと肩を落すしかなかった。しかしユーリが肩を落としている間にも、アーリィは一人でずんずんと先へ進む。
「あ、待ってよアーリィちゃん! だから俺を一人にしないで! っていうか君はどこに行くつもりなの?!」
自分を置いてさっさと前に進むアーリィを見て、ユーリは慌てて立ち上がりその後ろ姿を追う。するとアーリィはさすがにもう早足で逃げるのに疲れたのか、一旦足を止めてうんざりした様子で振り返った。
「なんでついてくるんだ」
「だって、だから一人は寂しいので……」
「大の男が『一人は寂しい』だと? 軟弱な変態め、生きてて恥かしくないのか?」
「うあぁ、なんかだんだんそうやってアーリィちゃんに罵られるのが快感になってきた……」
危ない発言をし始めたユーリに、アーリィはイライラを通り越して本気で怯え始める。アーリィの身を守る本能が、またアーリィに無意識に呪いの言葉を吐かせた。
『NoLImEtANgE……』
アーリィが聞き覚えのある不吉な言葉を再び呟きだしたので、ユーリは顔を真っ青にして「ちょっと待って、それなんかヤバイよね?!」と言って後ろに下がる。
「ちょ、待ってそれさっきの? まじあれ洒落にならないからやめ……」
怯えるユーリの訴えも虚しく、アーリィの呪詛は止まらない。そしてアーリィの正面に円形の不思議な図形が青色に光り輝き出現する。一度アーリィによる恐ろしい攻撃を受けていたユーリは、この光の後が危険だと学習していた。なので咄嗟に彼は悲鳴を上げて横へと逃げようとする。
「ぎゃああああぁぁぁぁっ!」
ユーリのマヌケな悲鳴が周囲にこだまする。直後、二人の声ではない別の声が彼の悲鳴に重なった。
『ギュオオアァァァアァァァっ!』
それは紛れも無い魔物の声だ。その声はユーリの遥か後ろから発せられた。そしてアーリィは再び原理不明な方法で氷の刃を生み出し、人の拳大ほどの大きさの鋭利な凶器のそれを前方へと複数発射する。即座に横へ転がるようにして逃げたユーリの直ぐ脇を、直線の軌道で冷たい凶器が通り過ぎて行った。そのまま氷の刃は真っ直ぐ飛んで行き、ユーリたちに近づいていた狼に似た大型の獣へと襲い掛かる。氷塊に襲われた魔物は、濁った悲鳴をあげてその場に倒れた。
「え?」
予想外の展開に呆気に取られるアーリィとユーリ。そしてそんな二人の視線の先で、ぐったりとして動かなくなる魔物。
しはらく唖然と魔物を見つめていたユーリは、しばらくしてアーリィに視線を戻してこう言った。
「……もしかしなくてもアーリィちゃん、まさか俺を助ける為に今……」
ユーリが最後まで言葉を言い終えるより先に、我に返ったアーリィは「ち、違う!」と首を横に振る。しかしユーリは謙虚なアーリィが否定していると勘違いし、感動した様子で「二度も俺を助けてくれるなんてマジでいい人だ!」とアーリィに言った。
「だから、ちが……っ!」
ぶっちゃけ間違いなくユーリに向けて攻撃を行ったアーリィだが、とんでもなく予想外の展開でさらにユーリに好意をもたれてしまう。アーリィはひどく困った様子でうな垂れた。
◇◇◇