神化論:ZERO 05
ユーリの一言に、アーリィの顔色が変わる。ひどく険しい表情となった相手を見て、ユーリは「あれ、やっぱり違った?」と困ったように頭を掻きながら言った。
「いや、なんかあの噂の聖女様に似てるな~って思って言ってみたんだけど……」
「アーリィだ」
「え?」
唐突に自分の名を名乗ったアーリィに、ユーリは意表を付かれたような顔をする。アーリィは相変わらず鋭い眼差しでユーリを睨みつけ、「わかったら二度と俺をその名で呼ぶな低脳」と吐き捨てるように言った。
「え、あ、はい……すいません」
何故かとても気を悪くさせてしまったようなので、ユーリは思わず謝る。謝るついでに「あ、俺はユーリ」と繰り返し自分の名を名乗った。
「だから興味ない」
「そんな悲しいこと言わないでよ、アーリィちゃん」
「『アーリィちゃん』? き、気持ち悪い呼び方するな!」
「えー、気持ち悪いってひでー。いいじゃん可愛いでしょ、アーリィちゃんって。ご不満ならじゃあ……アーリィたん」
「ひっ! や、やめろ!」
本気で嫌がるアーリィは、ユーリから逃れるように走り出す。
「あ、待ってよアーリィちゃん! 一人は寂しいから一緒に行こうぜー!」
「ついてくるな! 一人で好きなところに行けばいいだろ!」
厄介なものを助けてしまったと心底後悔するアーリィは、走りながら「マスター助けて!」と泣きそうな顔で叫んだ。
◇◇◇
「ん?」
「どうしたんだ、マヤ」
突然足を止めたマヤは、訝しげな様子のローズの問いに、「いえ、今なんかアーリィがアタシを呼んだような気がして」と答える。
「何かしら、なんか助けを求められたような……」
「なんだって!? だ、大丈夫なんだろうか……?」
不安げな顔をするローズに、マヤは「まぁ、魔物に襲われても戦えるから大丈夫だとは思うんだけど」と返事を返した。
「そうか……その人は君みたいに強いのか」
「そうね、アーリィは凄いわよん。魔物もマーダーも容赦なくボッコボコにするからね」
「う~ん……でもやっぱり心配だよな。ユーリもだけど、早く見つけないと」
「それはそうね」
ローズの言葉に頷き、マヤは再び木々の生い茂る道を歩き始める。彼女の後を追うように、ローズも足を進めた。
「ところでローズは冒険者?」
「ん?」
マヤは前を向いたまま、ローズにそう話しかける。
「ほら、すっごいおっきい剣持ってるじゃない。それにここはお宝があるって噂されてる場所だし、お宝目当てで冒険してる人?」
「あぁ……」
マヤに問われ、ローズは一瞬どう答えようか迷う。しかし隠す事でも無いし、彼は正直に自分の目的を話した。
「パンドラを探しているんだ」
「ぱんどら?」
マヤが目を丸くしながら振り返る。ローズは苦笑しながら「あぁ」と頷いた。
「えーっと、確かそれってうさんくさいお宝のことよね?」
”うさんくさい”と言われ、ローズは苦笑する。マヤは直ぐに「あ、ごめん」と謝った。
「いや、実際俺も『なんでも願いが叶う』なんていうお宝は、うさんくさいと思ってるから」
「でも探しているんでしょう?」
「まぁな」
ローズは頷き、「だから冒険者というか、探求者だ」と答える。マヤは何か興味深そうに「そうなんだ」と呟いた。
「パンドラをねー……」
◇◇◇