神化論:ZERO 04
「昔、好きな人がいたんだけどね、その人がヒュンメイの人だったの。だから、ね……ちょっと気になったの」
「……そう、か」
どう反応したらいいのかわからないローズが曖昧に頷くと、マヤは苦笑して「ごめんごめん、気にしないで」と言ってローズの肩を叩く。
「あ、あぁ……」
「ローズってば真面目さんなのね。なんていうか……今までの言葉でからかったつもりのものは無いけど、でも今みたいなノリで話すのはあまりしない方がいいかしら?」
「えっ……と」
やはり答えに迷うローズを見て、マヤは控えめに笑う。そして彼女は「まぁいいや」と言い、先ほどの話の続きをまた喋り始めた。
「こっちはアーリィって子とはぐれちゃってね。……あの子よくボーっとしてて、いつの間にかいなくなってるってことよくあるのよ」
「アーリィか。名前からして女の子か?」
「んー……まぁ、見た目はそうなんだけどね」
「ん?」
何か気になる言い方をするマヤに、ローズは「どういうことだ?」と問う。マヤは苦笑しながら、「男の子よ」と答えた。
「あぁ、そうなのか。いや、てっきり……」
ローズは言ってから、そういえば自分の名前も女性名だったと思い出す。マヤは「見た目も女の子だけど、それ言うと本人怒るから気をつけて」と苦笑のまま言った。
「ん……そうか、わかった。うん、そういう人も世の中にはいるよな」
ローズが何故か神妙な面持ちでそう言うと、マヤはやはり苦笑いを返す。そして彼女の捜す人物の特徴を語った。
「えっとねぇ、結構わかりやすい特徴的な容姿だから見つけたらすぐ『アーリィ』だってわかるはずよ。目は赤くって、髪はローズと同じで真っ黒なの。で、髪には黒い薔薇の髪飾りを付けてるわ。背はアタシよりは大きいけど、ローズよりは小さいかな」
「黒い髪に赤い目で、薔薇の髪飾りか……」
”アーリィ”の特徴を聞き、ローズはそんな容姿の人物に心当たりがあって考える。そして直ぐに彼は思いついた。
「なんだかアリアみたいだな」
「!?」
特徴だけを聞いてそんなことを思ったローズだが、マヤが小さく「みたいっていうか、もしかしたら本人かもよ」と呟き、それを聞いて思わず「え?」と驚く声をあげた。
「そんな馬鹿な……アリアはだって故人じゃないか」
「ふふっ、冗談よん」
また悪戯っぽく笑ってそう言うマヤに、ローズは「なんだ、ちょっと驚いたぞ」と息を吐きながら返事する。
「ごめん! でもさ、もしアーリィが見つかった時驚かせたら悪いから先言っとくと、アリア本人じゃ無いけどアリア本人って間違えるくらいあの子彼女にそっくりなの。ね、わかりやすい特徴でしょ?」
「それは……本当にそうだったら確かにわかりやすいが……」
マヤの言葉を半信半疑でローズは聞く。いくらアリアに外見的特長が似ていると言っても、さすがに本人と間違えるくらいそっくりというのは大袈裟なんじゃないかと彼は思ったのだ。
「それにそのアーリィさんは男なんだろう?」
「うん。女の子にしか見えないけどね」
「んん?」
なんだかよくわからないと思いながらも、とりあえずローズはマヤと二人で互いにはぐれた仲間を捜しに行くことにした。
◇◇◇
その頃捜索されているアーリィとユーリの二人は、なんとか崖の上に戻ろうと道を探してさ迷っていた。というか、崖の上に向かおうと道を探すアーリィに、何故か体中痣と凍傷だらけのユーリが勝手について歩いているという状況だ。
「待ってよ命の恩人ちゃ~ん!」
「うるさい! ついてくるな変態!」
わずか数分の間に二度も死に掛けるという経験をしたユーリは、色々とぼろぼろになりながらも異常な頑丈さで何とか生きていた。そしてアーリィに邪険に扱われつつ、一人は心細いのでユーリは必死についていく。二人は草木の無い岩だらけの道を崖に沿って歩いていた。
「ねー命の恩人ちゃん、さっきのあの氷攻めの手品は一体何だったの? 凄すぎて俺マジで死に掛けたんだけど」
先ほどキレたアーリィが謎の呪詛を呟いた結果、ユーリは何故か無数の氷の塊に襲われて死に掛けたのだ。その超常現象の種明かしをして欲しいとユーリは頼むが、しかしまだまだ怒っているアーリィは当然のようにユーリの疑問を無視した。
「ねぇー、命の恩人ちゃん無視しないで教えて~」
「うるさいと言ってるのが聞こえないほどの馬鹿なのかお前は! あとその変な呼び方止めろ!」
「そんなこと言われても俺、君の名前教えてもらってないしー……あ、俺はさっきも言ったけどユーリね。ユーリでいいよ~」
「変態に教える名前は無い! それに変態の名前なんて興味ない!」
「そんなひでぇ……あ、そうだ。じゃあ俺、君の名前当ててみせよっか?」
「……なに言ってるんだ?」
怪訝な顔で振り返ったアーリィに、ユーリは何故か得意げな表情をみせる。そして彼はこう言った。
「アリア?」
「!?」




