神化論:ZERO 03
◇◇◇
「おーい、ユーリどこだー?」
ユーリが大変なことになっている一方で、その彼を捜して歩くローズは彼の落ちた崖を離れて、何故か道無き道を逞しく突き進んでいた。
「う~ん……何となくこっちの方に人がいるような気がしたんだが……気のせいかな?」
根拠の無い謎の勘でユーリのいそうな場所へと突き進んでいる(らしい)ローズは、獣道を突き進むことでどんどんと自分が迷子になっていることに気づいていない。いなくなった仲間を捜す事で頭がいっぱいの彼は、心配そうな表情でひたすらユーリの名を呼んで歩いた。
しばらくそうしてローズが獣道を突き進んでいると、彼は魔物の気配を近くに感じて足を止める。同時に人の気配のようなものも感じる。もしかしたらユーリが魔物に遭遇してるのかもと咄嗟に心配し、彼は神経を辺りに集中させて魔物のいる場所を特定しようとした。
そう遠くない場所、興奮した獣の唸り声が聞こえる。
「……あっちか」
彼はそっと駆け出した。
向かった先でローズが見たものは、狼に似た中型の魔物と対峙する一人の少女の姿だった。
少女は冒険者だろうか。それにしては軽装備の服装で、だがその手には武器を持っている。刃幅の細い、柄部分が淡い青に光る綺麗な刺突剣だった。
『グルルルルアァァァァァ……』
「ちっ……雑魚相手にしてる時間も勿体無いってのに……」
少女はそう呟くと、ローズが助けに行く間も無く刺突剣を片手に構え持って果敢にも魔物に向かって駆け出す。魔物も咆哮をあげながら、四肢で大地を蹴って物凄い速さで正面に立つ少女へ向かう。二つの影はぶつかり、そして勝負は一瞬で決着した。
『ギュアアアァァァァァァ!』
悲鳴をあげたのは魔物の方だった。少女は無駄の無い動きで回避と攻撃の動作を、魔物と接触する一瞬で行ってみせたのだ。正直それほど鍛えられているような体つきには見えないし、戦いなれもしていなさそうな雰囲気の少女が、明らかに訓練された剣技で魔物を一瞬で仕留めてしまったことにローズはひどく驚く。そして自分の出番が無かったことに、ちょっとローズはへこんだ。まぁ、少女に怪我が無かった事は幸いなのだが。
「……あら?」
ローズがぼーっとしていると、少女は彼の気配に気づいたらしく、振り返って「どちらさま?」と少し警戒した声で話しかける。ローズは慌てて剣を下ろし、「すまん、怪しい者じゃないんだ」と少女に言葉を返した。
「あの、はぐれた仲間を捜して歩いてたんだ。それで偶然君を見つけて……た、助けようとしたんだが、必要なかったようだな」
ローズがそう説明すると、少女は直ぐに笑顔になって「そうだったんだ」と言って警戒を解く。ローズに敵意が無いのは明白だったので、彼女は彼を直ぐに信用したのだろう。そして彼女はローズに近づき、「実はあたしも人捜し中なのよね」と言った。
「そうなのか」
「うん、こっちもはぐれちゃってね」
「あ、俺はローズだ。ローズ・ネリネ」
「ローズね。あたしはマヤよ。こっちもそうさせてもらうから、呼び捨てでかまわないわ。じゃあよろしく、ローズ」
「あぁ、よろしく」
軽く互いに自己紹介をした後、二人は同じ仲間とはぐれた者同士協力し合うことにする。
「えーっと、じゃあそっちがはぐれたのはユーリっつー男ね。特徴は?」
「あぁ。そんなに長くはない銀髪で、目は灰色だ。結構背は高いな。あと、かっこいい顔をしていると思う」
「かっこいい顔ね……そういえばローズは可愛い顔してるわね」
「えぇ?」
ローズが驚いたように声をあげると、マヤは悪戯っぽい笑みを浮かべてローズに接近する。自分の顔を間近に近づけてローズの顔を覗き込み、マヤは「うんうん、結構好みの顔かも」と言った。
「なっ!」
元々愛らしく綺麗な顔をしているマヤなので、間近に彼女の顔が迫るだけで結構ドキドキするのだが、さらに彼女は驚くべきことを言ってローズを動揺させる。ちょっと頬を赤くしたローズの反応を見て、マヤは「あはは、やっぱ可愛いねローズって」と言って笑った。
「か、からかわないでくれ」
「やん、からかってないわよ。本当にそう思ったの。それにローズってヒュンメイの人でしょう?」
ローズの黒い髪の毛と瞳でそう判断したマヤだが、ローズも「あぁ」と頷く。
「それがどうしたんだ?」
不思議そうに首を傾げるローズに、マヤは笑顔のままでこう答えた。