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神化論 ZERO  作者: ユズリ
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神化論:ZERO 02

 同じ頃、同じ樹海遺跡の中心部森の中で、旅人らしき一人の少女が獣道を一歩一歩進んでいた。

 長い金髪を軽快に揺らしながら、美しい少女は生い茂る木々の間の道なき道を逞しく突き進む。

 

「アーリィ? んもう……どこ行っちゃったのよぉ!」

 

 肩に細身の剣を背負った少女――マヤはひどく困った顔で「アーリィ?!」と、ほんの数分前にはぐれてしまった仲間の名を周囲の森に向けて叫んだ。


「ホントにどこ行っちゃったのかしら、あの子……また好奇心で厄介なもの見つけてなきゃいいけど」

 

 そんな呟きを溜息と共に吐き出し、マヤは少し疲労した様子でもう一度仲間の名を叫んだ。

 

 

◇◇◇

 

 

 目覚めは見覚えの無い崖の下だった。

 

「……あ?」

 

 仰向けの視界でユーリが見たのは、切り立った赤茶色い崖とその上に見える綺麗な青い空。そして自分の顔を覗き込むようにして見つめる、東方系の容姿をした見知らぬ美女。

 

「紫じゃ、無い……」

 

 ユーリの見知らぬ美女は目覚めたユーリを見て、ひどく虚ろな赤の瞳を細めてそんな奇妙な呟きを漏らす。ユーリが思わず「何がでしょうか?」と聞くと、美女はそこで初めてユーリの意識が戻ってることに気づいたように、深紅の瞳を大きく見開いて驚きの反応を示した。

 

「あ……えっと、別に……」

 

 謎の美女は何度も首を横に振り、艶めく黒髪を揺らす。見た目の年齢とギャップのある幼い仕草に、ユーリは暢気に『なんか可愛い子だな』とそんな事を思った。それに誰かに似ている気がする。誰だっけ? と少し考えるが、直ぐに彼は自分の今の異常な状況に意識が向く。

 

「あれ、ここどこ……」

 

 辺りに仲間のローズの姿は無く、謎の美女と崖の下らしき場所で二人っきり。一体自分になにが起きたのかと、気を失う直前までの記憶が直ぐに思い出せなかったユーリは、ゆっくりと体を起こしながら考えた。

 

「あー……俺は一体?」

 

 頭を掻き、頭上の青い空を見上げて呟く。すると美女は小さな声でぽつりと、「落ちてきた」と言った。

 

「ん、落ちてきた?」

 

 ユーリが確認するように問うと、美女はこくりと頷く。さっきから単語でしか喋らないなぁと、謎の美女の様子に首を傾げつつ、ユーリは「落ちてきたって、どこから?」と聞いた。そして美女は崖の上を指差す。ユーリは彼女が指差す方向に視線を向け、途端に青ざめた。

 

「嘘、だろ……この高さから落ちたら普通死ぬって」

 

 切り立つ崖の天辺は、頭上の遥か上だ。何メートルあるんだろう。考えたくも無い。美女も真顔で「死体が落ちてきたと思った」とか言った。

 

「でもお前、運がよかったみたい。それかやたらと丈夫。……どうでもいいけど。ここに落ちてきた時血塗れだったけどまだ生きてたから一応助けた。もしかして自殺志願者だったか?」

 

 美女は顔に似合わないぶっきらぼうな口調で、さらに微妙にユーリを突き放した態度でそう話す。ユーリはブンブンと激しく首を横に振り、「自殺したわけじゃないです、事故です事故」と言った。

 

「そう」

 

「あ……ええっと、君が俺を助けてくれた?」

 

 確認するようユーリが聞くと、美女は不機嫌そうに「何度も同じ事言わせるな」と返す。しかしユーリは美女の態度など全く気にせず、むしろ彼は助けてもらったことに感動して彼女に好意を持つ。

 

 どう助けてくれたのかはまだ不明だが、でもこの美人さんは自分を死の淵から救ってくれた(はず)。ちょっと残念なくらい胸無いけど、彼女は命の恩人だ。きっとこのツンツンした態度はただの照れ隠しで、本当は彼女は心優しく親しい人には甘えちゃう可愛い子に違いない。自分はなんて運がいいんだろう、こんな可愛い子に助けてもらえるなんて。胸無いけど。

 

「ありがとうっ!」

 

「ひっ!」

 

 感極まったユーリは、目を潤ませながら美女におもいっきり抱きつく。美女は驚きのあまり一瞬悲鳴のような声を発し、そして直ぐ我に返ったのかブチ切れた様子で自分を抱きしめるユーリを突き飛ばした。

 

「な、なにするっ!」

 

 最もな美女の抗議に、ユーリは「あ、ごめん。つい……」と言ってへらっと笑う。全く反省の色無しなうえ、「優しく美人な命の恩人のあなたに惚れました、結婚してください」とかのたまる始末。美女はついにブチ切れた。

 

「ふざけるな!」

 

「おぐふっ!」

 

 美女はグーでユーリの頬をおもいっきりぶん殴る。そんなに力ある一撃ではなかったが、予想外の美女の反撃にユーリは完全に油断していて、結果見事美女の拳はユーリの顎を打ち抜いて彼を吹っ飛ばした。

 

「な、なに……」

 

 色々な自分の非を都合良く忘れて、ユーリは「何でいきなり殴るの?」と目を丸くして美女に問う。美女は怒りの形相で、ユーリにこう力強く言った。

 

「俺は男だこの変態っ!」

 

「え……うそだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 美女の宣言にユーリはさらに目を丸くして驚きを絶叫する。美女は「嘘じゃない!」と念を押すように言うが、しかし目の前の黒髪の人物はどこからどうみても美人な女の子だ。ちょっと胸は悲しいくらいにまっ平らだが。ユーリは疑惑の視線を美女に向けた。

 

「いやいや……女の子でしょ」

 

「違うって言ってるだろう!」

 

「えぇ~? だって声もそんな低くないし……っていうか体つき、それ男じゃないよ。抱きついたからわかるけど、その柔らかくて安心する抱き心地の良さは女の子に間違いない」

 

「なっ……お、お前に俺の何がわかるって言うんだ!」

 

 妙な事でちょっとした言い争いになる二人。やがてユーリは「じゃあわかった、こうしよう!」と何か閃いた笑顔を美女に向けた。

 

「……なんだ?」

 

 さっきからろくでもないことしか言わない男だと思いながら、それでも一応美女はユーリの言葉を聞く姿勢を取る。しかし次のユーリの言葉が、美女を完全に怒らせる一言となった。

 

「脱いで! それで証拠見たらさすがに俺も君が男だって信じるわ!」

 

「死ね」

 

 一言で怒りを簡潔に表し、美女は突然ユーリの知らない異国の言葉のようなものを呟き始める。

 

『GrAvISirAReGUmEstseM……』

 

「え、ちょ、なに? 何言ってるの? なんかいい予感が全くしないんだけど……って言うか何、何なの何か光って……」

 

 その数秒後、ユーリの予感は見事に的中した。

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