神化論:ZERO 18
◇◇◇
「そういえば、昔マヤとアーリィの魔法を初めて知った時は驚いたな……」
「へ?」
久々に四人で酒場で飲みまくろうということになった夜、元々そんなにお酒に強くは無いローズが、マヤの隣で赤い顔をしながらぽつりと言葉を呟く。マヤは今にも寝そうなローズの呟きに、酔ってるみたいだし面白い発言が聞けるかなという好奇心で耳を傾けた。
ローズはうつらうつらとしながら、小声で話を始める。昔を思い出しているのか、彼は席の向かいで何か楽しそうに話すユーリとアーリィを見つめながら、過去を語った。
「初めてマヤたちと会ってから、もう半年以上か……なんか早いな……」
「そうだねー。もうそんなに経ったんだよね」
「初めて会った時は、マヤはユーリと喧嘩ばっかりするし、アーリィは怖いしですごい不安だったし、魔法とか説明されてもよくわからなかったし……でも、今も何とかなってるからよかった……」
「いきなりどうしたの、そんな話」
「なんか……何となく思い出して……マヤと会ったときのことを……」
「ふふっ……ローズ、酔ってるね。眠そう」
「うん、ねむい……」
素直に頷くローズが可愛く見えて、マヤはちょっと顔が熱くなるのを感じる。お酒は物凄い強い彼女なので、酔ったとは言い訳できない。俯いて顔が赤くなったのを隠し、マヤはローズに話を続けた。
「……アタシも実はちょこっと不安だったんだよ? ローズにウザがられないかなーとか」
「そんなわけ……俺、マヤのこと好きだし……」
「それはよか……えぇ!?」
ごく自然に告白され、マヤは珍しく動揺したように「なに言ってるの!?」とローズを見る。が、酔っ払いローズはこうも続けた。
「ユーリもアーリィも、好きだ……大事な仲間だから、大切に思ってる……心配はしてたけど、ウザイなんて思うわけないだろ。お前たちに会えてよかったって、思ってるよ……」
「あー……そう」
ローズの続く言葉にマヤは少しがっかりして、直後にがっかりした自分に恥かしくなって、意味も無くローズを小突く。ローズは「やめろ」と、今にも寝そうな声でマヤに言った。
「やだ。やめたらローズ寝ちゃうだろうから止めない」
「寝ないって。眠いけど……」
ローズは言ってるそばから目を閉じる。そろそろ眠気が頂点に達したらしい。マヤが「寝たらチューしちゃうわよ?」と言っても、ローズはテーブルに顔を突っ伏して沈黙してしまった。
「ちょっとローズ、マジで寝ちゃった?」
「……」
ローズから返事は無い。マヤは「ホントに寝ちゃったんだ」と、ちょっと寂しげに笑いながら呟いた。
「もう、どうせ寝るなら寝顔見せながら寝なさいよ。顔隠されたらつまらないじゃないの」
マヤはそう文句を言いながら、また一本酒瓶を開ける。豪快に直接瓶に口を付け、彼女は甘い果実酒を瓶の半分ほど一気飲みした。そして彼女も「アタシもローズに会えてよかったよ」と呟く。勿論ローズには聞こえていないだろうけど、でも彼女は満足そうに笑んだ。
「お? なんだよマヤ、ローズ寝やがったのか?」
ユーリがローズの様子に気づいて声をかけてくる。マヤは「そう、寝ちゃった」と唇を尖らせて残念そうに言った。
「ローズって酔うと寝ちゃうタイプなんだよね。泣き上戸だったら色んな意味で面白かったのに」
「寝ちゃうタイプには顔に落書きをして楽しむって手もあるぞ」
ユーリがそう悪戯っぽい笑顔で言うと、アーリィが「ペンならここに」と言ってペンを取り出す。マヤは苦笑しながら、「可哀相だから今回はゆっくり寝かせといてあげましょう」と言った。
「ローズはアタシたちのことだ~い好きみたいだし。せっかく好かれてるんだから、嫌われないようにいじめないであげときましょ?」
「なんだそりゃ」
ユーリが不可解そうな顔をするが、マヤは「いいから」と言って自分の上着を寝ているローズの背中に被せる。ユーリはニヤニヤと意地悪く笑い、「随分とお優しいんですね、マヤ様は」と言ってマヤをからかった。そしてマヤは余裕の笑顔で、「でしょう?」と返す。
「ローズとアーリィには無償の優しさを提供するのよ、アタシ。あなたには一回五万ジュレで優しさを分けてあげるわよ」
「なんで俺だけ金取るんだよ」
「なんであんたに無償で優しくしなきゃいけないのよ」
いつも仲がいいのか悪いのか、マヤとユーリがまた言い争いながら睨みあう。アーリィはそんな二人を、少し羨ましそうに眺めていた。
まどろむローズの意識が、騒ぎ始めたユーリとマヤの声を背景にして眠りに落ちていく。マヤの呟きを今にも睡魔に負けそうな意識の中で聞いていた彼は、今は夢を見ていた。懐かしい感情を抱きながら、突っ伏した顔に微笑を湛える。
「……ローズ、寝ながら笑ってる」
マヤとユーリの喧嘩が続く中、アーリィはローズの顔を無理矢理覗き込む。そして彼がなにか幸せそうに笑っているのを見て、「馬鹿面」と呟きながら笑った。
【END】