神化論:ZERO 16
「だからー、俺を変態呼ばわりすんのやめろよな! 俺は女の子が好きだって!」
「なるほど。両方いける、という奴か。守備範囲が広い変態ほど恐ろしいものはないな」
「やめてアーリィちゃん、そういうこと言うのやめて! 俺マジで無実だから!」
「ユーリ、お前……そうだったのか?」
「ぎゃあああぁぁあぁあぁぁっ! ついにローズまでもが深刻な顔で俺を追い詰めるようなこと言い出した!」
ユーリは泣きそうな顔でローズの襟首を掴み、「誤解だローズ!」とローズに必死に訴える。彼にまで”変態”呼ばわりされたらもう周りは敵だらけになるので、ユーリも本当に説得に必死だった。しかしユーリが変態だろうがなんだろうが微妙にどうでもいいマヤは、ユーリなどほっといてさっさと話題を切り替える。
「んじゃもう質問無いわね。じゃあ……」
「あ、おい待て! なに勝手に受付終了してんだよ!」
ユーリはローズを解放して、マヤに「まだ聞きたいことあるって!」と詰め寄る。マヤは心底面倒くさそうに、「何よ」とユーリに聞いた。
「もしかしてアタシのスリーサイズが聞きたいとか、彼氏いるのか聞きたいの? あ、それは無いか。だってアタシあなたの興味の対象外だもんね」
「マスター、こいつ男も女も範囲に入れてる変態ですよ」
「あ、そっか!」
「ちょっとまて。だから勝手にそういう話をするなって! とにかく俺の話を聞け!」
話が進まないので、ユーリは無理矢理自分の言いたいことを言う事にする。それはローズも疑問に思っていた、アーリィの使う謎の”力”について。
「アーリィちゃんは何者? なんかさっきの凶悪な氷の塊とか、アーリィちゃんが出してたんだろ?」
「……やっぱりアレ、気になった?」
マヤが逆に問うてくるので、ユーリは頷く。ついでにローズも首を何度も縦に振った。その二人の反応に、マヤは「そうよね~」と困った様子を見せる。なにやら説明に困ることをアーリィはやっていたらしいと、それを二人は察した。
「あの、マスター……ごめんなさい、つい……あの変態がムカついて、魔法を……」
マヤが説明に困っていると、アーリィが申し訳なさそうに彼女へ声をかける。そのアーリィの言葉を聞いて、ユーリは「まほうって、まさかあの魔法?」と怪訝な顔をした。
「まほう……やっぱりあの魔法か?」
ローズもやはり”魔法”という単語が気になったようで、マヤとアーリィを交互に見やりながら問う。マヤはちょっと考えた後、「説明してもいいんだけど、その前にアーリィちゃんと二人で相談してい~い?」と返事をした。
「あ、いや。別に俺たちに説明出来ないことなら無理にしなくてもいいんだ」
ローズの慌てた返事にマヤは小さく笑い、「いえ、ちょっと緊急でアーリィに相談したい事もあるし」と言ってアーリィと共にちょっと遠くへ離れていく。残されたローズとユーリは、首を傾げながら二人の相談が終わるのを待つことにした。
「……おいローズ、なんだあの怪しい自己中凶悪女は」
「それはもしかしてマヤのことか?」
「そー、そいつ。何なの、あの可愛い顔の持ち腐れ女。容姿と性格が反比例しすぎだろ」
「そんな……それは失礼なことを言いすぎだぞ、ユーリ」
「だってよぉ……俺なんかすっげーボッコボコに身も心も傷つけられたしぃ……」
ユーリがそんな感じでローズに愚痴を言っている間に、マヤとアーリィの謎の相談は終わったらしい。アーリィが物凄く不満げな顔をしているのが気になったが、二人がローズたちの元へ戻ってきた。
「おっまたせ~」
アーリィのテンションとは正反対に、やけにノリノリでご機嫌のマヤがローズたちにそう声をかける。ローズが「相談は終わったのか?」と聞くと、マヤはやはり元気に「うん」と頷いた。
「もうばっちりオッケーよん。で、さっきの質問の答えだけどぉ」
「あ、あぁ……」
「っと、その前にローズたちにお願いがあるんだけど……いいかしら?」
「お願い?」
また唐突に予想外のことを言われ、ローズは戸惑いながら「ど、どんなお願いなんだ?」と聞いてみる。途端にマヤはなんだか嫌な予感のする、凶悪な笑みを浮かべた。が、それは一瞬で消えて、マヤは愛らしい笑顔でローズに近づく。あの一瞬のマヤの凶悪な笑顔を見てしまったローズなので、笑顔でこちらへ向かってくるマヤをちょっと警戒した。
「む、無茶なお願いは駄目だからな! またさっきみたいなお願いされても困るし!」
「さっきって……ローズにお姫様抱っこしてとか、チューしたいって言ったことぉ?」
マヤの言葉にローズは慌て、「そういうのはもう絶対駄目だからな」と彼女に強く言う。マヤは「はいはーい」と適当全開に返事をして、ローズとユーリにこう言った。
「あのさぁ、アタシたちも一緒に連れてって」
「ん?」