神化論:ZERO 14
踏み台にされ足蹴にされたローズは、魔物へと向かうユーリに「ユーリ、お前何するんだ!」と当然のように抗議を叫ぶ。しかしユーリはローズの抗議など聞かず、「やっと俺の時代到来っ!」とか訳のわからないことを言って魔物へ短剣の刃を向けた。
『オオォォオオォォン!』
「てめぇの弱点は多分ここだろ」
ユーリは身軽い動きで魔物の懐へ飛び込む。振り上げられた右前脚の付け根へ、彼は銀光を走らせた。するとあっさりと魔物の体に傷が付く。体中難い皮膚に見えた魔物だが、関節部分の肌は他より柔らかくなっているらしい。先ほどアーリィと魔物に追われていた時は、アーリィが自分が魔物の側にいても容赦なく魔物に魔法攻撃を仕掛けるので近づけなかったのだが、今は思う存分接近戦が出来る。ユーリは素早い動きで次々と刃を振るい、魔物を解体していった。
やがてものの一、二分ほどでユーリの解体作業が終わり、魔物は肉の塊と化して崩れ落ちる。魔物を倒し、ユーリは満足そうな様子で、「こんなもんかな」と言ってローズの方へ向き直った。
「ユーリ……」
「お、やだローズ君、そんな怖い顔しちゃって。ほれ、スマイルスマイル~」
足蹴にされたことを怒るローズに笑顔で誤魔化し、ユーリはこちらへと近づいてくるマヤとアーリィの姿に気づいて視線をそちらへ向ける。ユーリはマヤを見て物凄い怯えた顔となった。
「お前、さっきのアレなんだよっ! なんでいきなり俺を問答無用に殴る蹴るしたんだ! 理不尽な暴力反対!」
マヤにそう怒りをぶつけるユーリ。アーリィにも散々暴力をふるわれた彼だが、アーリィには命を助けてもらったというプラスな印象があるためか、そっちはそんなに怒りは感じないらしい。それとどう考えても自分のセクハラがアーリィを怒らす原因となっていると、ユーリもそれはわかっていた。なのでむしろ自分はアーリィを怒れない。しかしマヤの暴力は、ユーリには心当たりと原因がいまいちわからないので理不尽な暴力と彼は感じ、マヤに腹を立てていた。
するとマヤはこちらも冷ややかな視線でユーリを見据え、「だから言ったでしょう? アタシの可愛いアーリィに手ぇ出した罰よ」と返す。二人の間で火花が散った。
「はぁ? なんだそりゃ!」
「あのねぇ、アーリィはアタシの大切な人なのよ。それに好き勝手やられたら、アタシだってあなたにやり返す理由が出来ると思わない?」
「それにしてもてめぇはやりすぎだ! やられた当事者でもないのに、人に気ぃ失わせるほどの暴力を振るうな!」
「なに言ってるのよ! 変態は全人類の敵! アタシにも変態というあんたをフルボッコにする権利は十分にあるっつの! 大体変態の癖によくそんな強気な態度とれるわね! 変態は変態らしく謙虚でいなさいよ! 部屋の隅っこで膝抱えて一日過ごすくらいが望ましいわね!」
「へ、変態変態言うんじゃねー! それはちょっとした誤解もあってのことでだなぁ……」
「あ~ら言い訳? 変態犯罪者のお得意技よね、それって」
「む、ムカつく女だなお前~……っ! ちょっと顔可愛くて男の子相手に破壊力抜群なスタイルしてるからって調子のんなよ!」
「アタシが可愛いくてスタイル良くてついでに知的なのは生まれつき持ったアタシの才能で武器なのよ。そんな当たり前のことをあなた如き変態に今更褒められてもねぇ……」
「褒めてねーよ! なんだこの自意識過剰女は!」
マヤとユーリが順調に仲悪くなってる頃、アーリィはローズに喧嘩売っていた。
「で、お前マスターとどういう関係なんだ?」
「え、えっと……君の言うマスターって、マヤのことだよな?」
「マスターはマスターだ」
「……マヤとは、その……さっきはぐれた仲間を捜していて偶然会っただけと言うか……」
「ふ~ん……仲間とは、あそこのうるさいド変態か?」
「あ、ユーリか? ユーリは変態じゃないと友人として一応言っておくが、そうだ。彼が俺の仲間だ」
「なるほど、変態の仲間か……」
「そ、その認識の仕方はやめてくれ」
どう考えても自分にいい印象をもっていない様子のアーリィに、ローズは内心でひどく困る。初対面でこんなに敵意むき出しにされるとどうしたらいいのかわからないのだ。
「……あー、ところでアーリィさん?」
「……”さん”とか、付けて呼ばれるのは慣れてないから変な感じがする。別に名前を呼ぶくらい、呼び捨てでいい」
「そうか。じゃあアーリィって呼ばせてもらうよ」
ローズはアーリィの顔をマジマジと見つめ、「驚いたな……」と改めて驚愕を呟く。アーリィは怪訝な顔で、「何が?」と聞いた。
「いや……本当にアリアに似ているんだな、と思って」
「!?」
ローズの一言にアーリィの表情が強張る。アーリィはローズに対して敵意ではなく憎悪を向けた。
「……俺はアリアじゃない。二度とそれを言うな」
「っ……す、すまない」