神化論:ZERO 13
魔物はマヤが呼びかけると、彼女に濁った青の眼差しを向ける。首を伸ばし、その強靭な顎でマヤを喰らおうと口を大きく開いた。目の前に血生臭い臭いを発しながら牙が迫り、しかしマヤは冷静に牙が自分を喰らう直前で後ろへと飛ぶ。魔物は追撃しにマヤを追いかけた。
ローズはマヤが上手く自分に攻撃を引きつけている隙に、長い百足の胴体のような尻尾の付近に接近する。ここならば背後なので、死角のはずだ。ローズは凶悪な大きさの大剣を振り上げ、その刃を魔物の背中目掛けて振り下ろした。
「おい、変態。いい加減起きろ」
アーリィは魔物と戦うマヤを心配しながら、側で気を失っているユーリを容赦無く蹴って起こそうとする。
「いつまで寝てるんだ。お前が起きなきゃ俺がマスターの援護にいけないだろ」
「う、う~ん……」
何度も何度も繰り返し体を蹴られるうちに、ユーリは段々と意識を覚醒させる。「いてぇ」と呟きながら、彼はゆっくりと目を覚ました。
「……はっ!」
「やっと起きたか。つくづくよく寝る役立たずだ、ゴミほどの存在価値しか無いな。……いや、息吸って喋る時点でウザさはお前の勝ちだから、ゴミの方がマシなのかも」
アーリィは仰向けで寝転がるユーリに冷ややかな視線を向けて、「じゃあ俺はもうお前の面倒見ないからな」と言ってさっさとマヤたちの元へ向かおうとする。状況が把握出来ていないユーリは飛び起きて「待って!」と言い、さっさと行こうとするアーリィの足を掴んだ。
「ふにゃっ!」
「あ、ごめん!」
いきなり足を掴まれ、アーリィは思いっきり前のめりに倒れる。ユーリは慌てて立ち上がり謝るも、アーリィは顔面強打の痛みで泣きそうになりながらユーリを怒った。
「お前マジでいい加減にしろ! そんっなに俺に殺されたいか?!」
「あわわすいませんすいません、殺さないでアーリィちゃん!」
「お前の意思を尊重して俺がお前を葬ってやる! せいぜい感謝して死ね!」
アーリィが今日何度目かの呪文詠唱を行う。アーリィの喋る謎の言葉の危険性をよ~く知ってるユーリは、一目散にローズの元へ助けを求めに走った。
「ローズ助けろ! マジで俺殺されるっ!」
ローズが剣を振り下ろそうとした時、ユーリの必死な叫びが聞こえて彼は思わず動きを止めてしまう。さらに気を失っていたはずのユーリが涙目でこっちに向かってくるのが見えて、ローズは「ユーリ?!」と困惑気味に叫んだ。
「ちょっと、ローズ!」
ローズがユーリに気を取られ、マヤはひどく慌てる。魔物がローズの接近に気づいたからだ。そしてマヤが彼にそれを伝えようとするより先に、魔物は再び標的をローズへ変えた。ローズを喰らおうと迫る、魔物の牙。
「って、おいローズ! お前後ろ!」
ユーリもローズのピンチに気づいてそう叫ぶも、ローズは「え?」と言うだけで自分が絶体絶命の危機に陥っている事に気づかない。そうしてマヤが反射的に呪文を唱えようとした時、突如どこからとも無く魔物目掛けて人間大程も大きさがある氷の塊が無数飛んできて、その氷塊は魔物を襲う。氷塊が体中に突き刺さり、魔物は濁った悲鳴をあげた。
「チッ、外したか……」
魔物を襲った氷塊は、アーリィの仕業だった。しかしアーリィ的には発生させた氷塊でユーリを襲うつもりだったらしい。アーリィは舌打ちしながら悔しそうにローズたちの方を見ていた。
一方ローズたちは突如ピンチを救った氷塊に目が点になる。ユーリは直ぐにアーリィの仕業だと予想したが、しかしローズは呆然として「な、なんだ……?」と困惑気味に呟いた。
「あー……駄目じゃないアーリィ、勝手に魔法使っちゃ……」
アーリィの方を見てマヤが困った様子で呟く。しかし自分も今咄嗟に”それ”を使おうとしたので、あまり叱れないなとも思いなおす。ついでに魔物がまだ動けるのを見て、マヤは慌てた。怒ったアーリィの必殺魔法は魔物に大ダメージを与えはしたが、しかし仕留めることは出来なかったらしい。重傷を負いながらも、魔物は腕 を振り上げた。
「まだ動けるのか?!」
「よっしゃ、なら俺が行くぜ!」
今まで良いとこなしで殴られたり蹴られたりばかりだったユーリがいいところを見せようと、腰に吊った短剣を両手に持って戦闘態勢を取る。そして彼は「とうっ!」とか言いながら、ローズを踏み台にして彼の背中を蹴り高く飛んだ。ひどい男である。
「いてっ!」