神化論:ZERO 12
マヤはユーリに反撃の隙も与えず、物凄い早業で一方的にボッコボコのギッタンギッタンのメッタメタにする。とにかく映像ではお見せできないほど酷い暴力で、マヤはユーリを襲った。
「あ、まてマヤ! やめてくれ、ユーリが死んでしまう!」
慌ててローズがマヤを体を張って止めるも、結局ユーリは酷い有様となって気絶し地面に倒れる。ちなみにこの一部始終の間、アーリィは欠伸しながら傍観していた。
「ユーリ、しっかりしろ!」
ローズが倒れたユーリを心配して駆け寄った時、また周囲のどこかで大きな音が聞こえた。ローズは「なんだっ?!」と言いながら、音のした方を振り返る。するとアーリィが欠伸まじりにこう小さく呟いた。
「……たぶんあいつが追いついてきたんだと思う」
「あいつ?」
アーリィの気になる呟きに、マヤが怪訝な顔となる。アーリィは「マスター、気をつけてください」と、なんか怖い事をマヤに告げた。
「あいつ、すっごいでかいしやたら丈夫なんです。いくら魔法放っても、しつこく追いかけてくるし……」
「まほう?」
アーリィが気になる事を口走った時、ついにそいつは四人の前に姿を現す。重い足音を響かせて、そいつはアーリィたちの後を追ってきたかのように歩いてきた。
「なっ……!」
「ちょっと、なによこいつ……」
背の高い木々を掻き分け、ユーリがまだ気絶中なんていう事情もお構いなしにその巨体はやってくる。ローズたちの身の丈二、三倍はありそうな大きさの、それは爬虫類に似た魔物だった。
「魔物?!」
蜥蜴を基盤としたような姿だが、所々で獣のような外見的特長も兼ね備えているそいつは、この樹海で他の魔物や冒険者を餌として徘徊する肉食の魔物。
「アーリィ、あなたこれに追われてたの?」
マヤが問うと、アーリィは「はい」と素直に頷いた。ローズは「倒すしかないな」と大剣を構える。相変わらずユーリは気を失っていたので、マヤはアーリィに「アーリィ、そこの変態邪魔だからどっか安全なとこに移動させておいて」と鬼のようなことを言った。
「あぁ、ユーリは大事な俺の仲間だ! 安全なとこに移動させるのはいいんだが、それ以上ユーリを痛めつけないでくれ!」
ローズの必死の訴えだが、正直ローズなんて変態の知り合い程度にしか思っていないアーリィはそんな訴えまったく聞かず、遠慮なくユーリの片足を引っ張って荷物のように引きずりながら彼を移動させようとする。そのあまりにも酷い運搬方法に、ローズは魔物を警戒しながら「ひ、引きずらないであげてくれ!」とアーリィに必死でお願いした。
「やだ、めんどい。それにこいつ重い。引きずらなきゃ動かせない、無理」
「そんな!」
「アーリィちゃん、引きずっちゃ駄目みたいだから……仕方ない、もう少し気のきいた運び方してあげてぇ」
マヤはちょっと面倒くさそうにアーリィへそう告げる。するとアーリィはマヤの言う事は聞くのか、「わかりました」と素直に頷いて、自分より大柄で体格の良いユーリを背中に背負って必死に彼を遠くへ運び始めた。
「えっと、ローズ。そう、あなたの仲間のことはアーリィに任せてアタシたちであいつをなんとかしましょ」
「え、あ、あぁ」
ユーリを大変なことにしたのは自分だと言う事は棚に上げ、マヤは「アーリィ、そういうわけだからその男をお願いね!」とアーリィに叫ぶ。アーリィはあからさまに嫌そうな顔をしながらも、「わかりました、マスター」とマヤに返事を返した。
「これで心置きなく暴れられるわね!」
マヤの気合の言葉に何か納得いかないものを感じながらも、ローズも「あぁ」と頷く。ユーリは一体誰のせいであんなことになったんだっけ? というのは突っ込んではいけない事のようだ。
「ローズ、来るわよ!」
魔物が近づき、マヤが注意を叫ぶ。動きが遅い魔物だが、巨体に迫力があって力は強そうだとローズは直感的に感じた。
『オオオォォオオォォォォォォッ!』
歪な形状の口腔から雄叫びを発し、魔物はアーリィたちに続いてマヤとローズをも獲物として認識する。マヤは果敢にも一目散に駆け出し、その細い剣の先を魔物に向けた。
マヤと魔物の体格さはかなりのもので、マヤは魔物を足元から攻める。しかし魔物の体のほとんどを覆う鱗のような皮膚は硬く、彼女の剣は表面を傷つけるのが精一杯のようだった。
「あぁもうっ、くそっ! やっぱ硬いわね!」
「なら、俺が!」
マヤと入れ替わりにローズが魔物の元へ飛び込む。しかし彼が近づくと、動きの遅い魔物が反撃の行動に出た。
大きく前足を振るい、魔物はローズとマヤをなぎ払おうとする。二人は即座に反応、しかし直前に攻撃しようとしていたローズの回避が僅かに遅れた。ローズは鋭い爪の一撃を受け、呻きながら後方へと飛ぶ。
「ローズ!」
「っ……大丈夫だ」
受身を取って直ぐにローズは立ち上がり、剣を構えなおす。たいしたダメージにはならなかったらしい。もう一度彼は魔物へと向かい、走り出した。
「ローズ、アタシが囮になるわ!」
自分の剣じゃ大したダメージは与えられないと理解したマヤは、ローズにそう叫んで魔物の正面へと立つ。ローズは「わかった」と返事し、魔物の死角へと全力で走った。
「さて、こっちよ! 来なさい!」