神化論:ZERO 11
マヤが悪役全開でローズを涙目にして困らせていると、突如背後から物凄い縦揺れの振動が起きる。ローズとマヤは同時に動きを止めた。
「なに、今の振動と音?」
マヤがローズに視線を向けて問う。二人とも真剣な表情だ。
「魔物?」
「わからん。というかマヤ、いい加減尻から手を離してくれ」
「ちっ、わかったわよ」
マヤはローズに対するセクハラを止め、二人は一緒に振動が起きたと思われる方向を見やる。ローズの背後側に視線を向けると、ほぼ同じタイミングで人の足音が聞こえてきた。そして二人の視界に、彼らの姿が映る。
「あ、おいローズじゃん! やっと見つけたぜ!」
「ユーリ!」
「マスター、無事でしたか! っていうか、その男だれ……」
「アーリィ! よかった!」
運良く互いの捜し相手と再会できた二組は、しかしそれぞれに『そいつ、だれ』ということになりちょっと揉める。
「おいローズ、なんだその可愛い女の子! なに、なんでお前抱っこしてんの! 羨ましいから俺に代われ!」
「あ、彼女は……」
マヤのことを説明しかけて、ローズはユーリが連れてきた黒髪の美女にひどく驚く。物凄い怖い顔で自分を睨むアーリィが、あまりにもアリアにそっくりだったからだ。そしてアリアにそっくりのアーリィも、ローズを睨みながらマヤに問う。
「マスター、この男なんですか? なんかムカつくんでぶっ飛ばしていいですか?」
「なっ!」
アーリィの過激な物騒発言に、ローズは驚きうろたえる。ついでにアーリィがマヤを『マスター』と呼んでたことがちょっと気になった。ユーリも「ますたー?」と首を傾げる。アーリィは二人の言葉を無視し、ローズに今にも襲い掛からん勢いで詰め寄った。
「お前マスターとどういう関係だ。今すぐマスターを放せ」
「あ、あぁ……」
どういう関係かと問われれば答えに困るので、ローズはとりあえずマヤを下ろそうとする。マヤは残念そうに「あーあ」と言いながら、しかし大人しく自分の足で立った。
「ま、マスター大丈夫ですか?! この男、マスターに変なことしませんでしたか?!」
マヤをひどく心配するアーリィは、彼女に駆け寄りそう問う。むしろ何かされた被害者はローズなのだが、色々恥かしいのでローズは黙っていた。
「やだアーリィ、何もされて無いわよん。っていうかアタシがローズに色々しちゃった! ローズのお尻って程よく引き締まっててねぇ、触り心地が……」
「わああぁぁあぁぁっ! やめろマヤ!」
マヤのセクハラ発言を無理矢理掻き消し、彼は「それより今の振動はなんだ、ユーリ!」と振動した方向から来たユーリに問う。しかしユーリはローズの話を聞いていなかった。
「マヤ、って言うの? じゃあマヤちゃんって呼んでいい?」
「呼び捨ての方がいいんだけど。ま、どうしてもって言うならそれでもいいわよ」
「あ、俺はねー、ユーリって言うんだけど」
「ふーん、ユーリね。ところでユーリ、あなたは……」
普通に自分を無視してマヤと会話しているユーリに、ローズはほんのちょっとイラっとする。隣ではそれ以上にアーリィがイライラっとしていた。
ユーリを警戒するアーリィは、イライラしながらマヤにこう警告する。
「マスター、駄目ですよ! この男に近づいちゃいけないです! この男は危険な変態なんですよ?!」
「変態?」
アーリィの言葉にマヤは首を傾げる。ユーリの「いや、それはだから誤解だって」と言う言葉を掻き消して、アーリィは続けた。
「そうです! だってこいつ俺にいきなり抱きついたり、体にベタベタ触ったり、あげく俺に『結婚して』とか馬鹿なこと言うし……」
アーリィのこの報告に、マヤの表情が変わる。彼女は地獄の悪鬼と化し、その恐ろしい表情を見てユーリとローズは恐怖に震え上がった。
「ほぉ……どこの変態クズ野郎がアタシの可愛いアーリィちゃんに何したってぇ……?」
「ひぃっ! な、なに!? いきなり何なの、その悪魔のような顔! てか気のせいだと思うけど、背後に禍々しいオーラが見えるようなそうでないような!」
マヤの発する禍々しいオーラに、なんとなく命の危険を感じたユーリは一歩後ろへと下がる。ローズも思わず避難するほどに、今のマヤはとにかくやたらめったら怖かった。
ユーリは悪のオーラを背負って自分に詰め寄るマヤに、引き攣った笑顔で「ちょっと待って」と言う。しかし勿論マヤはそんな一言程度じゃ止まらない。
「ちょ、マヤ様なにかさっきと雰囲気違いすぎ……」
「てめぇよくもアタシのアーリィちゃんに好き勝手してくれたわねぇ。ぜぇぇぇったいに許さない、徹底的に全力でぶちのめす!」
嫌な予感しかしないことを言い、マヤは剣の柄に手をかける。と、見せかけてユーリを盛大に蹴り上げて吹っ飛ばした。
「おぐぅっ!」
「てめぇはボッコボコのギッタンギッタンのメッタメタにしてやる!」




