神化論:ZERO 10
振り下ろした刃は魔獣の腹を破る。断末魔の声を聞きながら、ローズは足元に転がった肉塊を見下ろした。
「……これで終わりか」
疲れたように息を吐き、ローズは大剣の刃先を地面に突き刺す。そうして周囲を見渡し、マヤの方へと視線を向けた。
「あ、ローズ大丈夫だった? 怪我とかしてない?」
「あ、あぁ」
マヤの方を見ると、彼女も爬虫類に似た中型の魔物を一人で二匹仕留め終わったところだったらしい。彼女は剣を鞘に仕舞いながら、「怪我が無いならよかったわ」と言って涼しげに笑った。
「あ、そうだな。マヤは?」
「アタシ? 御覧の通りよん」
マヤはスカートの汚れを払う仕草をし、ローズに「ね?」と笑顔を向ける。ローズは安堵したように笑顔を返した。
「それにしてもマヤは本当にその……凄いんだな」
「え、なにが?」
長い金髪の乱れを手櫛で直しながら、マヤは不思議そうに小首を傾げる。ローズは「強いなと思って」と言った。
「そう? ま、気ままな旅をするには護身出来る程度には強くないといけないしね」
「そうだが……それにしてもさっきも含めて軽く魔物を仕留めてしまうから正直驚いたよ」
ローズがいたく感心した様子で言うので、マヤはちょっと照れたように笑って「ローズも凄いじゃない」と返す。
「そんな大きな剣ホントに使えるのかな~って思ってたけど、でも木の枝みたいに軽く振り回すんだもん。こっちのほうがすっごい驚いたよ」
「そ、そうか?」
ローズも剣を鞘にしまいながら、「昔から力だけは強くて」と言って笑う。マヤは「へぇ~」と興味深そうにまたローズを見た。
「じゃあアタシをお姫様抱っこするのも簡単?」
「えぇ?! そ、そりゃあ君は軽そうだし簡単だろうけど……」
突拍子も無いことを言ってローズを困らしたマヤは、さらにローズの前で両手を広げて「じゃあやってみて~」とか言ってますます彼を困らせる。
「な、なに言ってるんだ!」
「え~、だって簡単なんでしょ?」
「そうは言ったが……でもなぁ」
ローズは困ったように頭を掻き、「お姫様抱っこって……」と頬を赤くしながら呟く。ローズを完全にからかっているマヤは、「してくれないならアタシがローズのことお姫様だっこしちゃう」と意地悪い笑顔で言った。このマヤの一言に、ローズは「何を言ってるんだ!」と物凄く驚く。が、何となくこのマヤという少女ならマジで大の大人の男をお姫様抱っこしちゃいそうな雰囲気があり、それを想像してローズはちょっと青ざめた。
「……わかったよ」
「やたーっ!」
お姫様抱っこされるわけにはいかないので、ローズは渋々頷く。無邪気に喜ぶマヤに、ローズは「じっとしててくれよ」と困った笑顔で言った。
「あ、でも変なとこは触んないでねー」
「……努力するよ」
胸元開いた服にミニスカートという格好で平然と無茶をのたまうマヤに、ローズは深い溜息を吐きながら近づく。そして彼は物凄く楽しそうな笑顔のマヤを軽々と両腕で抱き上げた。
「わっ、すごーい! やん、ローズってば頼もしい! かっこいい!」
「そ、そうか。あの、あまりはしゃいで暴れないでくれ……」
なんでこんなことに……そんなことをぼんやり考えながら、ローズは赤い顔ではしゃぐマヤを落さないよう抱き続ける。マヤはローズを困らせるのが楽しいらしく、彼の首に腕を回して顔と顔を近づけた。
「ちょっ……!」
「ローズの唇って柔らかそうね、ちょっと触りたいな~」
「ま、マヤ! ふざけないでくれ……ってなんで顔を近づける! まて……」
「やーん、待てない、無理無理、今すぐちゅーしたい。あとふざけてな~い」
「キス?! あ、す、するならせめてほっぺたとか……」
「やだ、口がいい。ローズのや~らかそうな唇にちゅーしたい。……うふふふふっ」
「マヤ、なんか目が怖い……っ! ちょっと俺今泣きそうだ……」
ローズが抵抗できない事をいいことに、マヤはセクハラの限りを尽くそうと暴走を始める。『気に入った相手は男女問わず攻めまくる』――これが彼女の恐ろしい本性だった。
「へっへっへっ、兄さんええケツしとるのぅ。ちょっと触らせろや」
「なんなんだその怪しい口調! あとその姿勢から俺の尻触ろうとするな! 色々無茶だし、恥かしいし!」
「無茶? ふはははは、マヤ様に不可能はなーい! ってわけで、えい!」
「ぎゃああああぁぁぁっ!」