神化論:ZERO 01
出会いは偶然だと思う。でも彼に出会ったわたしが、彼に惹かれるのは必然だった。
今はもしかしたら出会いすら必然だったのではないかと思う。そんなこと、何も知らなかったあの当時は微塵も思わなかったけど。
本当にこの世界の神様は残酷だね。残酷で、性格悪い。
それでも彼と会えたことは素直に感謝したいと思う。たとえ出会いが神様の意地悪だとしても。
俺と出会ったことを、彼女は後悔しているだろうか。
俺は俺自身のことを何も知らなくて、だからもし彼女が俺と出会ったことを後悔しているのなら、とても辛い気持ちになるしなんだか申し訳ない。
ただ彼女が後悔していたとしても、俺自身は彼女と出会えたことは良かったと、そう心から思っている。
過去がどうであれ、彼女が何者であれ、俺自身が何者であれ、そんなの全部がどうでもいいほどに、俺は彼女との出会いを感謝しているんだ。
【神化論:zero】
その出会いはローズがユーリと旅をするようになってだいぶ経った頃、お宝の情報を聞いた二人がさっそく向かった樹海の遺跡で離れ離れになってしまう所から始まる。
「なぁローズ、この道はさっき通んなかったか?」
「……そうか?」
後ろを歩くユーリが、自身の武器である短剣を曲芸のように器用に片手でまわしながらそうローズに声をかける。先程から同じような光景の場所ばかりを歩いていて、彼はもう飽きているんだろう。
ローズとユーリ、二人が今歩くここは生い茂る木々の樹海と大きな謎の遺跡が融合した巨大な迷路のような場所。ここは近くの村ではよく古代のお宝が発見されるとかで、とても有名なトレジャーポイントとなっている。しかしその巨大で複雑な内部の構造に、多くの冒険者が失踪したり大変な目にあったりと、冒険者心をくすぐりもするが大変危険な場所だった。
そんな場所に”パンドラ”というお宝を探すローズと彼の旅の相棒であるユーリは、『もしかしたらパンドラがあるかもしれない』ということで二人で乗り込んだのだった。
そして樹海遺跡にたどり着いてからさ迷う事三時間、二人は他の多くの冒険者たちと同じく迷路のようなこの場所ですっかり迷子になっていた。
「そうかって、そうだよぜってー! こりゃ完璧迷子だぞ!?」
慌てるユーリに、ローズも「ふむ……迷子か、それはまずいな」と難しい顔で呟く。しかしどうも切羽詰った様子じゃないローズに、ユーリは「お前なんでそんなに落ち着いてんだよ」とツッコんだ。
「いや、これでも結構焦っているぞ?」
「そうは見えねーんだよ、お前って」
ユーリは頭掻きながら「やべぇな、こりゃ。お宝どころじゃなーんじゃねぇの?」と呟く。ローズも周囲を見渡しながら、「一度戻った方がいいかもな」と言った。
「戻るって……入り口がどっちだったかもわかんねーよ」
「そうだよな……う~ん」
迷ったとわかるとユーリは途端に力が抜けたらしい。彼はその場にしゃがみ込んで、「やだー、こんなとこでひっそり死ぬのなんてやだー」とローズに訴えるように言った。
「なんかもう歩くのもつかれたー」
「そ、そんなこと言われてもなぁ……」
子供のように駄々をこね始めたユーリを見て、ローズも困ったように顔をしかめる。そして彼は「仕方ない」と、ユーリにこう告げた。
「じゃあちょっとその辺見てくるから、お前はここで待っててくれ」
「え? なにローズ、俺を置いて一人で行っちゃうの?」
「あぁ。疲れたのならここで動かず待っててくれ。ちょっとあっちの方に道が見えた気がしたから」
ローズはそう言うとさっさと一人で目の前の獣道を進んで行ってしまう。
「お、おい! 待てよ、一人は心細いだろ!」
慌ててユーリが立ち上がり、ローズを追いかけようとする。その時彼に恐ろしい悲劇が訪れた。
「え……」
突然視界が傾く。急いで立ち上がった為に一瞬バランスを崩した彼はそのまま足を踏み外し、気が付くと直ぐ側にあった傾斜のきつい坂を真っ逆さまに転がり落ちていた。
「うおああぁぁぇぇぇぇぇぇっ!?」
「ん?」
ユーリの奇妙な悲鳴を聞き、ローズが足を止めて振り返る。しかしそこにはもうユーリの姿は無かった。
「……ユーリ?」
◇◇◇