4文字魔法
「・・・それ・・・血・・・?なんで?」
突然ルニアから流れ始めた血涙にレヴィは戸惑いを見せる。目の前で突然血涙が流れ始めれば当然の反応であろう。しかし、対するルニアはいつも通りの平静さを保ったままだ。
「ん?ああ、もう出たのか。解放は、70%以上使うと脳に負荷がかかり、こうやって血涙が出る。前は出た瞬間解除したのでな。これで終わりだったが、このまま戦い続ければどうなるのか・・・私も分からん」
ルニアは自分のことだというのに淡々と事実を述べた。
「なんで・・・そこまでやるんですか?エトラの仇うちのため?だとしても--」
「--確かに、きっかけはそうだ。だが、別に今はそれだけじゃない」
そう言い、ルニアはレヴィに指を指した。
「君だよ。君を、全力を出した君を倒してみたくなった」
「・・・それが、自分を傷つけることになってるとしても?」
ルニアは少し口角を上げ、不敵に笑う。
「--何を今更。冒険者とはそもそもそうであろう?」
その言葉を聞き、説得は無理だと判断したレヴィ。目を瞑り、眉間にシワを寄せる。数秒後、ルニアの方を向き、語りかける。
「--分かった。ただ、手加減はしませんよ?」
「ああ。当然だ!どうせ残り3分、全力で行かせてもらう」
木刀を握り直し、眼前の敵に向かい切っ先を向ける。
「最終ラウンド--行くとしよう」
レヴィも自身の周りに剣を創製し、無言で迎え撃つ。
肩を引き、木刀を構える。
「瓦解一閃ーー 飛切--!」
木刀の突きによる衝撃波が放たれた。
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一方その頃、魔導祭闘技場のある部屋にて--
「おおっ!そこじゃ!いけーレヴィちゃん!」
部屋で1人、狂喜乱舞しながら試合を観戦する老人。
「・・・盛り上がりたい気持ちは分かりますが、調査結果をちゃんと聴いてください--マスター」
そう、この老人は現ギルドマスターであるガリレア・ドルシア。今はマスターの特別観覧部屋にて、孫のレヴィの試合を観戦している。そしてそれを諫めるは、ギルド受付であるマルロだ。
「ん〜いけずじゃのぉ。儂の孫の晴れ舞台じゃぞ!もうちぃと見てもええじゃろうて!」
「ダメです!仮にもマスターなんですからちゃんとしてください!--それで、ギルド全体での調査と、レヴィさんからの依頼、どっちから聞きます--」
「レヴィちゃんからじゃ!」
「・・・は、はい。(・・・ったくこの人は)」
マルロは持っていた資料の2つ目をめくった。マルロ的に最初はギルド全体の話をしたかったらしい。
「では、レヴィさんから依頼されていた[書き4文字の魔法を持つ冒険者]ということですが、過去100年まで遡った結果、数名おりました」
そこからマルロは該当者の名前を読み上げる。
「まずは今年、蓮さん。そしてイカルガさんです。そして次は40年前、ローズ、・・・シンメイハヤマト?なんでしょうかこれ?とにかくローズさんという方がいたようです。そして60年前にリョウカさんという方が。これは確かマスターのお知り合いでしたか?」
「うむ。リョーカとはとても仲が良くてのぉ。とにかく優しく、正義感に溢れておった。確か魔法は・・・水魔法じゃったか?」
「水・・・ですか?有為転変、ムタビリティ。字からは水魔法とはとても思えないのですが・・・この頃の資料は名前しか残しておらず、ダメですね」
マルロが先人たちに文句をつける。マスターはご自慢の髭を触りながら考えていた。
「(リョーカが儂らに隠し事・・・いや、そんな奴ではなかった。ムタビリティ、一体どんな魔法だったんじゃ?)」
「マスター?」
「ん?おお、すまんな、続けてくれ」
マルロは少し怪訝な目を向けていたが、気にせず進めた。
「・・・続いて、この人が最後ですね。・・・シオンさん。70年前の方です。初めて女性ですね、4文字は男性に多いということでしょうか?にしても少ないですね、それに変わった魔法名が多い」
「そうなのか?」
「ええ、蓮さんが異類無礙、イカルガさんが空間転移、ローズさんが無影無踪、リョウカさんが有為転変、そしてシオンさんが水薬生成。私の鉄兵のように字だけで何系統の魔法なのか分からないようなものが多いですね。イカルガさんのはまだ分かりやすいですが」
「・・・なるほどのぉ。して、なぜレヴィちゃんはこれを気になったのか--それにしても、5人しか居らんでそのうち2人が脳無しとは、何という確率--ん?まさか・・・4文字は脳無しの証拠とでも言うのか?と言うことはそのイカルガという少年は--」
「脳無し・・・ということですか?」
「分からんがの。しかしその可能性はあるじゃろう。半分近くが脳無し。残りの3人は調査していないだけじゃ。レヴィちゃんはこの可能性に気付いて・・・いや、それはないか。今考えても仕方ない。これはレヴィちゃんの試合が終わったら聞いてみることにしよう」
そう言い、マスターはマルロに次に行くよう目で合図を送る。マルロもそれを正確に察知し、もう一つの資料を手に取る。
「では、次いかせていただきます。内容はこの間蓮さんたちが捕らえてきた魔法を使うモンスターについてです。結果から申しますと、あれはモンスターでも人間でもない。というのが現状での答えだそうです」
「ん?なんじゃその答えは?」
マスターが髭を触りながらマルロに少し苛立ちを見せる目を向けた。
「というのも、解剖をしてみた結果、体の構造はほとんど人間だったそうです。オーブを使い魔法を調べてみましたが、砲炎という別段普通の魔法でした。ですがその・・・あれには肺が1つしかなかったそうです。これはゴブリンの体の構造と一致しています。それに、魔法を使うと霧散し、魔法を使わなければ原型を止めるという、モンスター特有の特徴も見受けられました。つまり、モンスターでも人間でもない、ということです。可能性として、変異体というのがやはり1番納得出来る落とし所なのでは、とのことです」
マスターは額に汗を滲ませ、頭を掻く。
「と言ってものぉ。すでにその変異体が3体発見されとるんじゃろ?こんな短期間で一気に見つかるものかのぉ?」
「私もそこは些か疑問ではありますが、ですが正直それ以外に落とし所が見当たらないのも事実です」
「・・・・・・まぁそうじゃの。こうなったら久々にあいつに頼るか?じゃがあいつはなぁ・・・そうじゃ!調査隊はどうなった?確か2体もその変異体が出たダンジョンに向かわせとるんじゃろ?そろそろ連絡ないのか?」
「ええ、もうそろそろ来ているはずなのですが・・・」
--と、その時部屋のドアが突然叩かれた。
マルロは警戒し構えをとる。そしてドア越しに用件を伺う。
「・・・どなたですか?用件は--」
「--ダンジョンに調査に向かった調査隊からの連絡が!」
ドア越しの男は大きな声でそう言った。
マルロは警戒しながらもドアを開け、その男を部屋に入れる。男は息が上がっており、相当急いでここに来たのが伺がえる。
「落ち着きなさい!調査班隊がどうしたのですか?」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・はぁ。申し訳ありません。落ち着きました。改めまして--報告します!ダンジョンに向かっていた調査隊からの連絡が、途絶えました。調査隊のメンバーに遠伝の魔法を使うものがいるのですが、そこから流れてきた最後に流れたのは、この魔導祭について尋ねる男の声。そして、その後聞こえたのは・・・断末魔だけだったそうです」
「マスター・・・まさか・・・?」
「うん・・・その突然変異体が、この魔導祭に来ようとしているというのか?」
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「--のう、あとどれくらい蛇?」
「そうですねぇ・・・1時間もしないですよ」
「長いのぉ。まぁ、焦らされるほど旨いというしな、味付けのための時間として勘弁してやるぞえ。感謝するの蛇」
「ええっ!ほんと姉上はお優しい!家族一優しい、いや、世界一慈愛に満ちた方です!」
「ふふっ!そう蛇ろうそう蛇ろう!--待っておれ脳無し・・・世界一優しく喰ろうてやろう。脳の髄までな・・・!」
鮮血に染まる脅威は、もうそこまで迫っていた。




