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友達

 --試合開始前、レヴィとルニアは2人で話をしていた。


「・・・一つ、聞いてもいいか?」


「いきなりなんですか?まぁ別にいいですけど」


 ルニアはレヴィに方を向き、質問を投げかける。


「なぜ、そんな辛そうな顔をしている?試合前の緊張とも言えない顔だ。何かあったのか?」


「・・・私そんな分かりやすい顔してました?だとしたらごめんなさい、なんでもないんです」


 レヴィはルニアからの質問の回答を拒否した。それはなぜか--答えは簡単、みっともないからだ。


 結論からいうと辛いと思っているのは正解だ。ただ顔に出すつもりはなかった。


「なんでもない奴はそんな顔をしない。それに、そんな顔の奴に勝っても嬉しくはないぞ」


「ははっ、すごい勝手な理由ですね。・・・何かあった・・・か。あったといえばあったし、なかったといえばなかった。ほんと、この程度のものなんです。だから--」


「--蓮のことか?」


「--ッ!」


 レヴィは、ずばり図星を突かれ、思わず会話を止めてしまった。


「はぁ、やはりか。というか、それ以外ないだろうと思っていたが。あの馬鹿何かやらかしたのか?であれば一応義理兄(兄)である私が変わって謝罪を--」


「--違うんです!・・・違うんです。たしかにきっかけは彼だったかもしれないけど・・・この感情に、彼は関係ない」


 レヴィは声を張り上げルニアの言葉を遮り、だんだんと言葉尻が小さくなっていった。


「・・・何に悩んでいるかは分からんが、悩みっていうのは誰かに話すとすっきりしたり、解決したりするものだ。私でよければ、しかも試合が始まるまでの大したことのない時間の間であれば聞いてやれるが?」


 ルニアのストレートな言葉に、レヴィは少し驚いた。彼女のなかのルニアは、冷静、というか少し冷めた人間だと思っていた。そんな中でのこの言葉。ついレヴィの口が緩んだ。


「・・・蓮があることで悩んでて、それを私の友達が解決してくれたんです。それはすごく嬉しくて・・・ありがたくて。立ち直った蓮に対しても、嬉しくて・・・ほんとによかったって・・・。だけど、何で蓮の悩みを解決したのが私じゃないのかなって。私がやったのは泣いてお願いしただけ。それに対してあの子は、自分の体と心をすり減らしてまで蓮に向かってくれて・・・何もせずに、行動しなかったのは私のくせに・・・カミラに嫉妬してる私がここにいる・・・私は・・・私が嫌い」


 レヴィの心の渦巻いていたもの。それは、カミラへの嫉妬と、その嫉妬をしている自分自身への侮蔑だった。昔蓮に抱いていた嫉妬と同じ。結局自分は変わってないんだと、自分自身に気づかされる。


「救うって・・・支えるって・・・そう自分で決めたのに・・・結局全く出来てない。しかも私の代わりにやってくれた友達に嫉妬とか・・・ほんと私って・・・なんなんだろ?」


 口にするたび、気分が晴れるどころか自分のダメなところを復唱させられてる気分になった。私はこんなにダメなんだ。カミラはこんなにすごかった。私は結局役立たず。そう自分に言われているようだ。


 ここまで無言を貫いてきたルニア。顎に手を当て何やら考え事をした後、レヴィのほうに再び視線を向けた。


「--その程度のことを気にするような奴らなのか?」


「--えっ?」


 責められるか突き放されると思っていたレヴィは、予期せぬ質問に思わず疑問形で返してしまう。


「いやなに、他人に嫉妬する?その程度誰でもする。私だっていつもしている。もっといい攻撃魔法であれば、私を笑った冒険者連中を見返せるのに・・・とな。それだけじゃない。バルクの強さも、エトラの明るさも、蓮の実直さも、そしてお前の弱さを認める強さも・・・すべて私の嫉妬対象だ。それを私は口にしているし、バルクたちはそんな私ごと受け入れてくれている。カミラや蓮は・・・そうではないのか?」


 レヴィの脳裏に、カミラとの思い出がフラッシュバックする。同じような時期にギルドに入り、最初に仲良くなった友達。一緒にクエストにも何回も行ったし、何回も遊んだ。


 蓮は、最初最悪な印象を与えたにも関わらず、その後ほんの小さな借りを返すため命までかけて助けてくれた。今は一緒にパーティまで組んでいる。


 そんな2人だ。私がなにも出来なくてごめんと、嫉妬してたごめんと、2人に謝ったとしてどうなるか。恐らく少し話をして、そこからは普段通り接してくれる。何事もなかったかのように。そんな2人だ。


「・・・そんな・・・人達だよ・・・!だから、何も出来なかった自分が!そんなカミラに嫉妬してしまった自分が嫌なの!恥ずかしいの!許せないの!・・・今の私は・・・2人に合わせる顔がない」


 思いの丈をぶちまける。ルニアはこの件に関して全く関係がない。そんな人に思いの丈をぶつけてしまった。非常に迷惑な行為だ。


 ルニアは会場に視線を移し、ポツリと呟く。


「そろそろ・・・始まるな」


 そう呟いたルニアは前へと詰める。その位置にゆっくりとだがレヴィも並び立った。


『Bランク3回戦第2試合!現ギルドマスターのお孫さんでもあるレヴィ選手!対するは2回戦でレヴィ選手に敗北を期してしまったエトラ選手の義理の兄弟でありますルニア選手!果たして、この勝負どちらが制すのでしょうか?それでは両者、入場ください!』


 ルニアがいつもと変わらぬ足取りで会場へと足を踏み入れる。それを追うようにややゆっくりとレヴィも中に入る。


 そんなレヴィの様子を見て、アリアは再びいつもと違うことに気がついた。


「--ねぇカミラ?レヴィも何かあった?」


「レヴィちゃん?まぁあったといえばありましたけど・・・レヴィちゃん?何であんな顔・・・あっ!そうか!あたし蓮くんと仲直りしたことレヴィちゃんにまだ言ってない!それで悩んでるんだ!うわ〜どうしよう!」


 カミラは検討外れなことであたふたしだした。頭を抱え足をジタバタさせる。


「落ち着けカミラ!今慌ててもしょうがないだろ?とにかく落ち着きなさい!・・・レヴィ、大丈夫か?」


 その様子を見ていたバルク。誰にも聞こえない声量でポツリと呟く。


「・・・お前はほっとかねぇだろ?骨は拾ってやるから、安心してやらかしちまえ」


 その言葉が聞こえたはずがない。にも関わらず、ルニアはバルクの位置を把握し、じっとそちらを見た後、レヴィに視線を戻した。


『両者位置につきましたね。それでは、Bランク3回戦第2試合。試合--開始!』


 まず最初に動いたのはルニアだった。ルニアは、両手を口元にやり、息を吸い込み--


「--カミラ・テューラ!!レヴィがすごくお前に嫉妬しているそうだが!!それはどう思う?!!」


「・・・あたし?」


 ルニアが行ったこと。大声でレヴィの悩みをその原因にぶちまけたのだ。


「えっ?ちょっとルニアさん?」


 レヴィは意味がわからないと言った様子だ。実際、ルニアとなにかすると予感していたバルク以外は、全員同じような反応だ。


「・・・レヴィちゃん、今の詳しく聞かせて!」


 カミラは、動揺しつつもレヴィになにがあったのか知りたく、観覧席から大声で聞き返した。


「・・・それは・・・」


 それに対しレヴィは小声になる。


 この様子を見ていたアリアは、立ち上がりカミラの隣まで近づくと、指先に雷を発生させそれをカミラとレヴィの元に繋いだ。


「これ使って話なさい。そんな大声で話されたら耳痛いし、何より、そんな大声で言い合う話でもないでしょ?」


「アリアさん・・・ありがとうございます!--レヴィちゃん、教えてくれない?ほんとに嫌ならしょうがないけど。あたし、レヴィちゃんのそんな顔見たくないな」


「--ッ!」


 友達のその言葉は胸に刺さった。これ以上彼女に要らぬ心配をかけたくない。もしこれで怒られ、絶交を言い渡されたとしても、その方がマシだ。そう思い、レヴィは自分の気持ちを洗いざらい正直に話した。


「--という訳。ごめん、私最低だよね。あんなことしてくれた友達にこんなこと思うなんて」


 レヴィはカミラを見れない。今彼女がどんな顔をしているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか。いずれにせよ見ることが出来なかった。


「--レヴィちゃん」


 彼女の声が耳元で響く。たった少しの間がとても長い時に感じた。その時の終わりを、カミラは告げた。


「そんなこと?」


「・・・えっ?そんなことって・・・私あなたに酷いこと思って--」


「まぁ確かに、そうなんだ。とは思ったけど、だからって別にいいよそれくらい。だって勝手にやったのはあたしだし、今思い返すとレヴィちゃんの仕事奪っちゃったのあたしだしね。むしろごめん!あたしつい頭に血が昇っちゃって!」


「いや・・・でも・・・それでも私が抱いた感情は持っちゃいけないもので--」


「あのさレヴィちゃん。あたし聖女じゃないの。そんなの、他の誰かだったらこんな簡単に割り切らないよ。でもさ、レヴィちゃんは友達だから、そんなこと言われても、思われてても気にせず流そうって思えるから友達なんでしょ?あたしは・・・そう思ってるんだけどなぁ」


「・・・カミラ・・・!」


「それに、レヴィちゃんいけないって、酷いこと思ったって思ってくれてるんでしょ?それってあたしのこと大事に思ってくれてないとそうやって思えないじゃん?だから、それを聞けただけで、逆にあたしは嬉しい!」


 レヴィは思い違いをしていた。カミラといえど、流石にこの思いは少し気に触るだろうと。最終的にどうなるかはともかく、少なくとも最初は怒られると思っていた。だが、そうではなかった。彼女は本当に自分のことを友達だと思ってくれており、こんな自分含め受け入れてくれている。想像以上の--友達だった。


「カミラぁ・・・ごめんね・・・!・・・ほんとに、ごめん・・・!」


 レヴィの目から滴がこぼれ落ちる。嫉妬心は完全に消え去り、あるのは後悔と感謝だ。


「うん・・・。--よ〜し!膿もとれて涙吹いたら、目の前の相手に集中だ!あたし、レヴィちゃんの応援するためにここにやってきたんだよ!ごめんって思うなら--勝て〜!!」


 その素っ頓狂な言い方に、思わずレヴィは吹き出してしまう。


「--あはははっ!何よその言い方!勝て〜!って!やっぱりカミラって面白い!--うん、勝つよ。絶対!」


 その返答にカミラはグーサインで返答する。


「・・・ほんと、いい友達を持った。良かったね、レヴィ・・・!」


 カミラと少し離れた位置に座りながら、アリアは小さくつぶやいた。


「--さて、そろそろいいかな?」


「うん!ありがとうございますルニアさん!--でも、負けれませんのでごめんなさい!」


 ルニアはメガネを指で弾き、返答する。


「ふん。--当たり前だ。何のためにこんなことをしたと思ってる。全力のお前を倒さねば、エトラの仇は取れんだろ?だからお前らを焚きつけた。それだけのことだ」


「そうですか--じゃあお望み通り、全力であなたを倒します!」


「ああ!やってみろ」


 レヴィとルニア、2人の戦いが幕を開ける。


 その時、観覧席にて--


「--よし、それじゃ、ちょっと出てきますね!」


 カミラが立ち上がり、どこかへと向かっていった。

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