疑念
イカルガと別れ、俺は観覧席へと戻った。
「お帰り、蓮。で、どうだった?」
アリアさんがイカルガとの話について質問してきた。
「はい、仮説は正解でそれプラス想像してなかった情報がもらえたって感じです」
「結局あなたの仮説ってなんだったの?」
レヴィの質問に対し、俺は答えるかどうか一瞬悩んだ。仲間に隠し事は無しと言うが、こういうのは隠し事ではなく秘め事ってやつだろう。イカルガは自分で話してくれたから良いが、それを無許可で他の人に伝えるのはマナー違反だろうな。
「悪い、個人的に教えてくれたことだからさ、流石に無許可ってのは」
「そっか・・・そりゃそうよね。ごめん、失念してた」
どうやら今の説明で納得してくれたようだ。ここでごねるようなタイプじゃなくて本当によかった。
「悪いなレヴィ。もしかしたら直接聞けば普通に教えてくれるかもしれないぜ!」
「うん。そうしてみる!」
俺は席に着き、試合を見ると、今は知らない人同士が戦っていた。
「あれっ?もしかしてコロニスの試合終わった?」
あいつ確かに1回戦だったから、次シードとかじゃなければ既に試合が終わったということである。
「ああ、終わったよ。1回戦の時より圧勝していた。なかなかやるねあの子」
ディアスがまだ戻っていないので、始まってないと思っていたのだが・・・どうやらディアスは見逃してしまったようだ。まぁでも怪我人優先だわな。
そしてしばらくし、2回戦最終試合手前。ここでようやくディアスが戻ってきた。
「あっ、ディアス!えっと・・・カーフ?の様子はどうだった?」
「敵に当てるはずの技を喰らったからね。外傷は結構なものだったが今後に影響は無いそうだよ。意識も既にはっきりしている」
ふぅ、取り敢えず良かった。知ってる奴同士で問題が起こったらすごい気まずくなるところだった。
ーーと、ここで俺が思わずスルーしてしまった箇所にレヴィが突っ込んだ。
「ちょっと!敵に当たるはずの技を喰らうって何よ?今サラッと言われてサラッと流れたけど、そんな簡単なものじゃないでしょ?」
・・・言われてみればそうだ。俺はイカルガの魔法について知ってたから特に気にも留めなかったが、普通気になりまくりだろう。それが当たり前のように流れたのだからそりゃビックリもする。印籠出されたのに「えっ?知ってるけど?」っていうテンションで斬りかかるようなもの・・・なんか違うか?
「あぁ、カーフが言っていたんだ。攻撃の瞬間、目の前に空間が現れてそれに自分の手が吸い込まれた。そしてその手は何故か自分の上から落ちてきたってね。オレも聞いていてよく分からなかったが恐らくあれが彼の魔法なんだろう」
・・・正解。でも空間転移ってのには気づいてないみたいだな。この世界だと珍しい魔法なのか?
「へぇ、蓮と似た魔法かと思ってたけど全然違うのね。・・・吸い込んで別の場所に移動させる魔法・・・でもそんな魔法聞いたことないし」
レヴィはほぼ正解を導いた。俺の仮定の段階とほぼ同じだ。だがやはりこの世界では珍しい魔法らしく、いまいちふに落ちていない様子だった。
やっぱり4文字魔法って珍しいのだろうか。
俺はそのことについてアリアさんに聞いてみることにした。
「なぁアリアさん。俺以外で書きが4文字の魔法使う人って見たことある?」
珍しい魔法でも、Sランク級であれば数人はいる気がする。
だが、返ってきた答えは意外なものだった。
「お前の異類無礙みたいにか?・・・いや、私は見たことがないな。知ってる限りだとSランクでも見たことがない」
ーーえっ?嘘・・・?!100人に1人とかその程度のレアリティじゃないのか?てかSランクですら見たことないってそれどんだけレア魔法なんだ?にしてはもっと使い勝手良さげな魔法って沢山あると思うんですけど。
「・・・その質問をするということは、そのイカルガという青年も4文字ということか?」
流石察しが良い。いや、なんの脈絡もなくあんな質問したんだ。そりゃ気づかれるか。
「あぁ。詳細は言わないけどあいつも4文字だった。んでもってその魔法が珍しいものらしいからさ。他の人はどうなのかなって思ったんだけど」
考えてみれば俺の魔法は強いかどうかは置いておいて、珍しい魔法であることは間違いない。属性魔法なんかはいっぱい見たが、魔法を吸収してストックして放つなんてのは今のところ1人も見たことがない。
イカルガの空間転移も然り、レヴィ曰くこの世界じゃとても珍しい魔法みたいだ。
「うん・・・レヴィ、今度でいいがマスターに聞いておいてもらえないか?長年ギルドにいるマスターならもしかすると4文字の冒険者を知っているかも知れない」
「はい、分かりました!私も気になりますし」
「イカルガ・・・彼について私もすごく気になってきた。4文字のことだけで無くな」
アリアさんのその呟き、俺は妙に引っ掛かった。
「アリアさん、それって他に気になる要素があったってことですか?」
その質問に対し、アリアさんは頷く。
「あぁ。疑問なんだ、何故彼はあの砂埃の中正確に相手の位置を把握できたのかってね」
なんでってそりゃぁ・・・・・・あれ?なんでだ?あいつの魔法に必要なのは座標の設定。そしてその魔法はブラックホールのように吸引能力があるわけではない。ブラックホールというよりワームホール。現地点から別の地点へ転移させる魔法。
要するに、適当に穴を作って勝手に入ってくれる訳じゃない。攻撃される手の位置に正確に入り口を作り、相手の真上に正確に出口を作る。そんなの、見えてなければ出来っこない。
アリアさんのその疑問に対し、レヴィが意見する。
「でも、砂埃で見えなかったって言っても近づけば影が見えるじゃないですか。それを見て魔法使ったんじゃないんですか?」
「いや、砂埃が晴れた時、彼はカーフに対し背を向けていた。1度振り返ったのにもう1度背を向ける理由があるかい?カッコつけなら分からなくはないが、彼はそういうことする風には見えなかったけどね」
レヴィの意見に対し反対したのはディアスだった。
「うっ・・・!確かに。あの子そんなのしなそう」
そう、イカルガはそんなことをしないーーと思う。多分。イメージだけど。あいつはなんていうか・・・ちょっと冷めてる感じだと思う。
「いずれにせよ、イカルガという青年についてもう少し観察しておく必要があるかもしれない。現状害はないが」
アリアさんのその発言は、正直あんまり気乗りしなかった。友達・・・と言えるほどの仲ではないにせよ、お互い応援し合うことを約束した同士なのに、疑念を持たなければならないなんて、しかも一方的にだ。気乗りなんてするはずが無い。
「ええ、次はそのイカルガの試合ですよね?外から見ることで分かることがあるかも知れない。それをオレはコロニスに伝えます。オレは・・・彼に勝って貰いたいので」
そういうことなら・・・俺が文句いう筋合いとか無いよな。偵察ってのは立派な作戦の1つだ。
『それでは、第2回戦最終試合!シャルロッテ選手対、今大会ダークホース、イカルガ選手です!』
アナウンスに呼ばれ、2人の選手が会場に入っていく。
「ーー君、ダークホースとか言われてんだって〜?生意気だよ、お前後輩だろ?後輩は先輩に勝ち譲ずれって教わらなかった?」
「ごめん、ボクらは取れるやつが取れって教わってる。いちいち譲ってたらーー死んじゃうよ?」
「ーーっ!クソガキっ!」
『両者準備をーーそれでは・・・始め!!』
様々な考えの視線を浴びながら、今、試合が始まる。




