新たな兄弟
ダンジョンボスを討伐した俺達だったが、ダンジョンに開いた穴に俺は落ちてしまった。死んだか?と思いながら目を開けると、何故かルニアが俺の下敷きになり倒れていたのだ
「--ルニア!おいルニア!大丈夫かよ!」
ルニアは怪我をしたのか、途切れ途切れに答えた。
「敬語を・・・使えと・・・言っているだろうが」
「ご、ごめんなさい。ってそんなことより!どうして俺の下に?落ちたの俺だけだったと思うんですけど・・・?」
「・・・知らん。私も気付いたらお前に下敷きにされていた」
気付いたら下敷きってそんなことある訳・・・まて、そんなことある訳が無い。ということはまさか、ルニアさん俺を助けようとして飛び込んでくれたんじゃ・・・!
「あの・・・ありがとうございます!あと、すいません」
俺を助けるためと言わなかったということは、言われたくも無いということだろう。他の人ならともかく、この人は正直者だ。そんな正直者が嘘をついたということはそういうことなのだろう。
「何・・・がだ?それに、何故落ちる・・・時、施錠魔法を使わなかった?」
「--あ・・・ほんとだ。やってんな俺」
本当に馬鹿である。それに早く気付いていれば誰も怪我をしなかっただろうに。まじで冷静さを欠くのが悪い癖だな。
「あのそれより、大丈夫ですか?結構な怪我ですけど」
「安心しろ。あと1分程で・・・拒絶出来る。死にさえしなければ・・・私は不死身だよ」
「拒絶魔法って怪我まで拒絶出来るんですか・・・?結構やってる魔法ですね」
「馬鹿を・・・言え。一度使うだけで、10分・・・丸腰になる魔法が・・・いい魔法な訳が無い」
確かに、そのデメリットはあまりにも大きい。1体1ならともかく、1体多数というのはどうしたって限界がある。正直戦闘向きでは無い。つまり冒険者には向かないスキルということだ。
そうこう話しているうちに1分が経過し、ルニアさんは自分の怪我を拒絶した。
「はぁ、ようやく治った。さて、どうやって上がったものか・・・」
落ちてきた穴まではおおよそ100M。頑張って上がれる距離では無い。
「仕方ない。ここで待機だ」
「えっ?戻らなくていいんですか?」
「この暗さで、しかも1階のどこかということしかわからない状態で動けと?その間2人が探しにきていたらどうする?すれ違いだ!そういうことも考えての発言か?」
「いいえすいませんごめんなさい」
「分かればいい」
そこから暫し静寂が流れた。ダンジョンに吹く風の音だけが響いている。
--やべ〜気まずい!すごい気まずい!何か話すことは・・・?
「そういえばルニアさん。なんで冒険者になったんですか?」
「何故だ?何故そんなことを気にかける?」
「何故って・・・なんとなく?」
「そうか・・・お前も、私は冒険者は向かんと思うか?」
「えっ・・・?別にそんなこと言って--」
「口にはしていない。だが思っているのだろ?構わないさ、当然の反応だ」
「それは・・・!・・・くそ」
そんなことない--そう言うべきだったのだろうが、俺はつい数分前までそんなことあると思ってしまっていた。だからこの場での適切な言葉が発せない自分に腹が立った。
「・・・ごめんなさい。正直思ってます。弱いとはまったく思ってませんよ。それに作戦指揮も的確だしよく見てる。だけど冒険者に一番求められてるのって結局腕っ節の強さだと思うんです。それが・・・他の人と比べて足りないんじゃないかと。作戦指揮だけなら国直属の軍にでも入ったほうがいいんじゃないかなって思ったり・・・」
怒られんだろうな・・・そう思い、ルニアさんの方を横目でみると、少し驚いていたような表情をしていた。
「ふっ!驚いたな、ここまではっきり言われたのは初めてだ。いっそ清々しい」
--笑った!今・・・ふっ!って!ゴルゴ並みに笑わない人なのかと思ってたけど、もしかしたらあの2人の前ではこんな感じなのかな?
「確かに私は冒険者に向いてはいない。お前は脳無しだから知らないのかも知らんが、軍には身分がそれなりに高いものしか入れん。私のように貧民では到底無理なのさ」
「貧民・・・。すいません、嫌なこと思い出させちゃって」
「別に構わんさ、そのおかげであの2人にも出会えたのだしな。結果オーライと言うやつだ」
「その・・・あの2人とはなんで一緒にいるんですか?タイプが全然違うと思うんですけど」
「何故そんなこと・・・!まぁいいか、時間潰しだ。理由は単純、必要としてくれるからだ」
「必要・・・ですか?」
「ああ。こんな魔法だからな、誰も私とパーティーを組みたがらなかった。こんな奴を入れるくらいならもう1人戦力になるものを入れたい、そんな感じでな。そんな時あいつが、バルクが話しかけてきた。最初はなんだこのうざい奴はと思っていたいたんだがな。毎日絡まれて、避けるのも面倒になり話すようになった。そして成り行きで一緒にダンジョンにも行った。その時にエトラにも初めて会ったんだ」
奇遇・・・いや、巡り合わせって奴なのだろうか?とにかく縁ってのは変なもんだな。
「そしてクエストを攻略した後、私は逃げるようにその場を去った。あの2人は当時から強かったからな、私の出番は今よりなかったよ。だから恐れたんだ。拒絶されるのを・・・。だけど、あの2人は違った。去っていく私を追いかけ第一声が「また頼むぜ!」だったよ。その時初めて、私は自分を認めてやることが出来たんだ」
「--なんか、分かる気がします。誰かに認められるのが嬉しいって気持ち。俺もアリアさんに初めて褒められた時、なんか報われた気持ちになったので」
「・・・私は戦力になれない。だからせめて、頭だけは必死に回す。常に冷静に・・・と思っていたのだがな。何故私は考え無しに穴に飛び込んだのだろうか?分からん」
冷めてるように見えたのはそういうことだったんだな。パーティーのために自分に何が出来るか考え行動する。俺も見習わなければならない姿勢だ。それと、今の発言的に俺を助けるためにとっさに身体が動いたってことだよな?
「・・・ほんと、ありがとう!ルニア兄貴」
「--ん?なんだ急に?気持ち悪いぞ」
「自分でそう言っていいってら言ったくせに」
「ふん!・・・勝手にしろ」
「んじゃ、勝手にするよ」
少しは距離が・・・縮まったかな?
その時、遠くから足音が聞こえた。
「おっ!バルク達かな?ようやく--ん?」
出てきたのは丸腰の妙に鼻の尖った人だった。というよりなんかギザギザしてね?気のせいかよだれ垂れ流してるように見えるんだが・・・酔っ払いか?とにかくこんなダンジョンにそんな格好で来るなんて危険だ。一緒に連れて帰るか。
「あの・・・取り敢えず・・・大丈夫ですか?」
俺がその人に数歩近づくと、目を大きく見開き、ものすごい形相で睨みつけてきた。それと手が真っ赤に--
「--蓮!!何をしている離れろ!!」
「えっ?」
もう一度その人の方を向き直すと、いきなり俺に向かって魔法を放ってきた・・・!
「ニンゲン・・・コロス!砲炎!」
「--う?!異類無礙!」
ギリギリ間に合い、俺はその魔法を吸収した。・・・つか、なんだ今の?殺意の塊みたいな攻撃だったぞ!殺す気か?!
俺は一旦ルニア兄貴のところまで下がり、様子を伺う。
「ねぇ、あれ誰?俺知り合いにあんな鼻の人いないんだけど」
「知らん!だが1つ、確実なのは・・・敵だ」
風の音がこだまするダンジョン。ボスを倒したというのに、俺たちは強制第2ラウンドへ引きずり出せれる。