強くなる理由
「ーーえっと、俺たちはどうする?一応は目的を果たしたわけだし、帰るか?」
「そう……蛇の。そろそろ帰……る時にはまたあやつに乗らねばならんのかえ?」
「…………うん」
バルク兄貴達と別れた俺たちは、アリアさんの家に戻るため、再びペットのコルボに上り乗った。そして案の定とてつもないスピードで飛行するため振り落とされかけた。
「ーーオェ……此奴はこのスピードで飛んどって気持ち悪くならんのか?」
「案外自分のことになると生き物ってのは鈍感にーーウェ……」
やばい本気で吐きそうだ。蛇姫も同様らしく、青ざめた表情で口元を押さえている。コルボに乗って何が一番腹立たしいって、もちろん毎回吐きそうになるのもそうだがそれ以上に、コルボ俺たちが苦しがってるのわかってんじゃないかってくらい急に旋回し始めることだ。優雅に毛繕いしている姿も腹が立ってくるほどだ。
俺たちは気持ち悪さを抱えながら家の扉に手をかける。そして中を覗くと、そこにアリアさんの姿はなかった。
「あれっ?アリアさんはどこにーー」
その瞬間、家の裏で激しい爆発音と共に大気が大きく揺れた。
「どこにいてゅわ!……痛っつぁ、舌噛んだ……蛇姫大丈ーーっておい!思いっきり吐いてんじゃねぇかしかも俺の足!」
「オェ〜……気持ち……悪いぃ……!」
蛇姫はもともと決壊寸前だったのが、今の衝撃で完全に壊れた。俺の足元で無様に吐き散らかす姿は、とてもじゃないが以前戦った蛇姫とは一致しない。
「ははっ……変わるもんだなほんと……ってかどうしよう、もう履けねぇなこれ。あーもうぐちゃぐちゃして気持ち悪い!」
仕方なく靴を脱ぎ捨て、何があったのか調査するとともに、蛇姫に裏口に貯めてある水を飲ませるため、彼女を担いで裏へと向かった。
するとそこで俺が見たものは、少し汚れている程度のアリアさんと、その傍でぼろぼろになっていたレヴィの姿だった。
「あれっ?レヴィ!お前こんなところで何やってーー」
「ーーもう一回!お願いします!」
ものすごい剣幕でアリアさんに視線を送っているレヴィ。どうやら俺には気づいていないようだ。それはアリアさんも同様で、こちらに意識を向ける様子もなく右手に雷を纏い始める。
「……これで最後だ。どんな結果であれ今日はこれでおしまいだからな」
「ーーはい!!」
レヴィは姿勢を低く取り、自身の周囲に光の玉を複数顕現させる。
「煌めく光の粒子!」
一切の隙間なく放たれる攻撃。だがそれは1鳴りの指パッチンで掻き消される。
「駆け抜ける雷鳴の轟。この技は以前も防いだはずーーん?」
先ほどまでいたはずの場所からレヴィはすでに移動し、アリアさんの上空で光を固め技を放つ。
「断罪する光のーー」
「技発動までが遅いっ!雷神のーー」
「(よし、かかった!)地より裁く堕天使の光!!」
事前に足元に流していたのであろう光がアリアさんの真下から現出し、飲みこまんとする。
しかし流石のアリアさん、咄嗟に技を中断し後方へと避ける。しかしまるで読んでいたかのようにアリアさんの右手に拘束具が放たれた。
「なっ、これは……!」
「(よし、堕天牢もうまくいった!この機を逃すな!)」
拘束を成功するとほぼ同時に放たれる足元からの光。その光が上空にいるレヴィのもつ光の十字架に吸収されていく。それによりその大きさは一瞬で大きくなり、その巨大で強力な一撃をアリアさんに叩き込んだ。
「断罪する光の十字架!!!!」
その場にあるもの全てを飲み込むほどの一撃、この一撃をアリアさんはーー」
「レヴィ、その大きさは…………家が、壊れるだろうがっ!!!!雷神の一撃!!!!」
拘束を半ば無理やり破壊し、若干切れていそうな表情で雷を放つ。その一撃は押し寄せる光の十字架をどんどんと崩壊させていく。
「えっ、嘘!こんな簡単に破られ……というかやばい、当たる、このままだとそれ当たる、アリアさ〜ん!ストップ!ストップストップストップ!!」
「ーーああもう、忙しないなぁ!」
激しい爆発音が鳴り響く。しかし爆発時に発生する煙は出ていない。
「……あっ、」
レヴィにアリアさんの技が直撃する寸前、なんとかギリギリ俺の魔法を使って間に合った。だが流石にアリアさんの結構ない力の技だ。爆発音が鳴り響くほどの衝撃が俺の手に直撃した。正直今すぐにでも情けない声をあげたいくらい痛い。だが、ここでそれを出すわけには行かない。痛みを堪えながら着地をする。
「蓮?!」
「よ、よぉレヴィ!元気してーー痛っ、元気してた?」
一瞬漏れてしまったがなんとか堪えた。堪えた……堪えたってことでいいよね?
「レヴィすまないやりすぎた!ーーあ、蓮……そうか、お前が防いでくれたのか。助かったよありがとう」
急いで駆けつけたアリアさん。最初は険しい顔をしていたが、レヴィの無事、そして俺が防いだのだと理解してかほっとした表情を浮かべた。
「おかえり蓮。気づかなくてすまなかったーーうっ!なんだこれ!?」
先ほどまで穏やかな表情をしていたアリアさん。しかし俺に近づいた瞬間、とても不快そうに顔を歪ませ遠ざかった。
「アリアさん?蓮に何かありましたーーぐぁ!れ、蓮……あんたもしかして吐いた?」
レヴィまでも不快な顔、そして目で俺を見る。しかしなぜ2人してそんなーーあ、なるほど、蛇姫のアレか……
「俺じゃない、そこでグロッキーになってる蛇姫だ。あいつが俺の足元にぶちまけて、水飲まそうとここまでおぶってきたんだよ」
「なるほどね……って!そういうことなら早く飲ませないと!あぁあぁ、なんか白目剥いてる!早く運んで蓮!もう臭いんだからこれ以上汚れても同じでしょ?!」
ひどい言い草だ。と思いつつも、まぁ実際その通りなので俺は蛇姫を再びおぶり水の近くまで運び、口元に流し込んだ。
「がはっオェ!……水がまずいん蛇が」
「うっさいだまって飲め!まずいのはお前の吐瀉物のせいだ!ーーはぁ、味方になったらなったでめんどくさいなこいつ……そういえばレヴィ、なんでアリアさんと戦ってたんだ?修行?にしてもなんでいきなり……」
その質問をぶつけると、なぜかレヴィは赤面をしそっぽを向いてしまった。ということは俺に関係するんだろうがなんだろうか?皆目検討がつかない。
「修行は確かにしてたわよ!だけどその……理由は絶対言わない」
「え〜、教えてくれないのかよ。まぁ詮索はせんけどさ」
この様子を見ていたアリアは微笑ましそうに笑みを浮かべる。
「(まぁ言わないだろうな。蓮に守られてばかりだから、守るための力を身につけたい、だなんて)ーーレヴィ、今日はもう終わりだ。また明日頑張ろう。蓮はどうする?明日からの修行お前も参加するか?」
アリアさんからの提案を受け、俺はギルドでの一幕を思い出した。全力で走っても間に合わなかった。バルク兄貴達がきてくれていなかったら確実に蛇姫は死んでいた。俺はまだまだ力が足りない。それと、その時感じた光魔法の気配……あれがもし進化の予兆だとすればものにしたい。
「はい!お願いします!」
「うん、いい返事だ!蛇姫、お前も参加しろ。鍛えてやる」
「なっ、妾も……?まぁよいが」
それから1週間、特にあの擬人化モンスター集団は襲ってくる気配が全くなかった。これが嵐の前の静けさだとは思ってもいなかった。
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特訓を始め1週間ごろのとある場所。暗く目の前の顔すら見えないほどのダンジョンだ。そしてそこで複数の人間?がたむろしていた。
「ーーさて、そろそろ本気で動こうと思う。異論反論抗議質問は受け付けるよ」
メガネの男性が話を切り出した。それに上裸の男が質問をぶつける。
「おい、2人いねぇぞ?これで始めるつもりか?」
「ーーいや……彼らには、すでに指令を出して向かっているところだよ。1人は、とても因縁深いあいつと会っているところさ」
そう言ってメガネの男は薄気味悪い笑顔を浮かべた。