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硬竜VSアマル・カミラ②

「さて、僕は君を倒す方法を思いついた。今のうちに大好きな硬い肌を触っておくんだね」


 武器も捨て、攻撃手段すらないアマル。にも関わらずからの浮かべる笑みからは、何かしてくるという言い知れぬ不安が見て取れる。


「武器もねぇ、俺の肌に傷ひとつつける攻撃力もねぇ。それで俺に勝つだぁ?勝てるわけねぇだろうがよ!」


「もう少しちゃんと話を聞かなよ。僕は別に君を倒す方法を思いついたと言っただけで、僕が君を倒す方法を思いついたなんて一言も言っていないよ」


「あぁ?どういう――ん?」


 その時、一瞬アマルはカミラの視界に映した。そしてその瞬間は硬竜(コウリン)は見逃さない。


「……あぁなるほどなぁ!そこの女使って俺を倒そうってか?だからどうしたとは思うが、仮にあの女が俺を倒せるんだとしても無駄だぜ!何せあの様子だかんなぁ!」


 カミラは全力の力で腹を殴られ、その上何度も地面を転がったことにより、全身から血を流し痙攣を起こしていた。意識はあるようだが体が動かないようだ。


「さぁ?別に僕は彼女に頼るなんて一言も。ただ大丈夫かなと思っただけです」


「はっ、どうだかんなぁ?」


 ――無論、アマルとてカミラが動けるとは思っていない。だが、一度視線を向けることで硬竜が少しでもカミラに意識を向けてくれているだけで良かった。その分攻め入りやすくなる。


「さて、では見せてあげましょうか。あなたのような熱血筋肉さんによく聞く攻撃です。あなたにこれが――「「破れますかね?」」」


「……んだよその技ぁ?お得意の高速移動ってのはそんなんも出来んのか?」


「「「そうさ、これが僕の唯一持っている技――虚でなき虚像(ウイージョ)って言うのさ」」」


 硬竜は目を疑った。それは、目の前にアマルが3人に分身していたからだ。残像と言うにはあまりにもはっきりとそこに存在感があった。


「「「これはおそらく君が予想できている通り残像さ。だが他と違うところが1つ。僕が速すぎて偽物なんてないってことさ。1人たりとも偽物はいない。全てがそのまま僕なのさ」」」


 要するにこの技は完全に分身したのと同じように動けるということ。普通の残像であれば一瞬で消えてしまうが、彼の場合限りなくずっとそこにい続けるため消えることはない。つまり1人の残像が動きを止めている間、もう1人の残像が攻撃することも出来るのだ。


「チッ!面倒くせぇ技使ってきやがんなぁ。で、それ使って俺の硬さを超えられるっつうのかよ?」


「「「君も学習しないなぁ。倒すのは僕じゃないって僕はただ――稼ぐだけさ」


 一斉に飛びかかるアマル、3人がそれぞれ不規則な動きをしているのも関わらずそれら全てがしっかりと影がある。


 1人は殴り、1人は蹴り、1人は切る。無数に繰り出される攻撃は、硬竜の動きを完全に封じる。


「くそが……邪魔くせぇんだよ!!」


 風が巻き起こるほどの裏拳を、自身の体を旋回させながら両手で放つ。叩き飛ばされる風にアマルは晴れてしまい、一瞬動きが止まった。その時、ようやく残像が乱れる。


「(その技の弱点は割れてる。要するに微妙なバランスで保ってる残像、これを一体でも叩いちまえば良いわけだ。そうすりゃこんな風に残像は消える!)死ねや、雑魚野郎が!!」


 唯一かすれていなかった個体に強力な一撃を放つ硬竜。完全に腹に入り、残りの2人は消滅する。


「これで終い――だ?」


 殴りつけられたアマルの腹は貫通し、大きく穴が空いている。そしてそこからまるでノイズが走ったようにかすれていった。


「――君の弱点その1、高度無視な行動は防げない」


「なっ!」


 無傷で現れたアマルは折れた剣を右手に持ち、左手を硬竜の目の前に大きく開き差し出した。


「(こいつ、なにするきだぁ?んな鈍じゃ俺を切れねぇって分かってるはずだろうが!)」


 Sランク冒険者アマルには、ある一つの教示がある。それは、命をかけた勝負で負けないためには何でもする、ということである。


 負けないためなら卑怯な手でも使う、負けないためなら邪魔者は排除する。負けないためなら女の子を囮にする、負けないためなら――傷つく程度問題ない、負けないためなら――プライドなんて必要ない。


「君の弱点は、これだよ」


 直後、彼は自身の左手に剣を突き刺した。吹き出る血飛沫、止まらない流血、襲いくる激痛、だが、それも全てこの一瞬のため。


「ぐわぁ!目がぁ!!ちくしょう……テメェ、自分の腕使って俺の目を……潰しやがったな!」


 そう、彼は自身の手を突き刺し、血飛沫を上げることで、硬竜の目に飛沫させ視界を奪ったのだ。殴っても蹴っても切っても駄目なら、自分を切ってみればいい。彼にとってはそれだけのこと。


「これが君の弱点、いくら体を硬質化出来たところで機能まで変わるわけじゃない。異物が入れば目は見えない。そんなの当たり前だろ?そしてこれが、2つ目の弱点――」


 アマルは背後に回り込み、首に手をかけ地べたに這いつくばらせた。そして真上にのし掛かり寝技のように押さえ込んだ。


「くそっ!なんだこれ、解けねぇ!どきやがれ!!」


 硬竜は体をジタバタと動かし抵抗するも、一向に拘束を解ける予感がしない。


「テメェ!こんなことして何になるっつんだよ!俺の体力は並じゃねぇぞ!」


「この体勢はね、体力をあまり使わないんだよ。それに僕は再三再四言ってきたよね?僕が倒すわけじゃないって。僕がやっているのはあくまでも時間稼ぎさ」


「時間……稼ぎだぁ?」


「そう、時間稼ぎ。指宿君が出てきて君の魔法無効化してくれたらそれでいいからね。そうすれば君の強さは並以下だ。――そうだ、君みたいなタイプの弱点その2の説明を忘れていたね。パワーや硬さに自信がある者は、拘束技に弱い。これ、鉄則だね」


 余裕な笑みで拘束を続けるアマル。自分で勝つきがゼロのアマルに硬竜は憤りを覚える。


「テメェ、自分で勝たなくて悔しくねぇのかよ?他人頼みで情けなくねぇのかよ?あぁ!?俺はテメェを見てるだけで恥ずかしくなってくる」


 青筋を浮かべる硬竜に、冷たくアマルは言い放つ。


「――で、その羞恥心で君を倒せるのかい?」


「――ッ!……テメェも雄なら……戦いに生きやがれや!!全てを嬲る力を求めろや!!俺を……倒してみやがれ!!」


「だから、指宿君が来たらその時殺すよ。それでいいだろ?」


 ――その時、硬竜の中で何かが弾けた。それは自制の心。モンスターの頃、本能のまま暴れていたあの頃の力を、怒りによって叫びと共に解き放った。


「――――――――!!!!」


「なんだ?これは――熱っ!」


 一瞬で離れたことで()()で済んだアマル。目を見開き立ち尽くす。その額ににじむ汗は熱さのせいか……それとも……


「これが……竜族に伝わる最強奥義ぃ――炎羅纏竜(えんらてんりん)。これでテメェはお終いだ」


 体中から吹き出す炎、火達磨という言葉が最もふさわしいだろう。怒りに燃える彼の目は、吹き付けられた血飛沫さえも蒸発させている。立ち込める熱により空気がなびく。朧げに映る硬竜だが、その表情だけははっきりと分かった。


「しまった……怒らせた」


 もはや近づくことすら叶わぬ敵、仮に近づこうが攻撃は通らず肌は焼け爛れる。


「……どうしよ、どうやって時間稼ご?」


 あくまで勝てる気はしていない彼はどう戦うのだろうか?






















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