硬竜VSアマル・カミラ①
散り散りに分断された蓮たち。そしてこちらは硬竜対カミラアンドアマルのペア。
「脳無しや蛇姫をぶっ殺すチャンスが減ったのは残念だが、テメェSランクなんだろ?だったら俺を楽しませてくれよ!じゃねぇと、殺すぜ!」
すでに勝ち誇ったような笑顔で腕を鳴らす硬竜。それは強さの現れか、それとも単なる戦闘狂か?
「その点は申し訳ない。君はおそらく楽しめないだろう。何故って・・・楽しむ余裕なんて与えないからだよ」
冷たい声でそう言ったアマルは、剣を抜き体勢を低く取る。そしてカミラを一瞥した。
「あぁ?そんな姿勢で何しよってーー」
「ーーありがとうございます!!おかげで準備が整いました!!」
急にわざとらしいほど大きな声を上げたカミラ。当然硬竜の視線はそこに向く。
「女ぁ、テメェ今から攻撃しますって宣言する奴がどこにいんだ?あぁ?!ったくテメェじゃ相手にーー」
「いえ、完璧ですよ」
アマルの声。その声に反応し硬竜は意識も視線を元の位置に戻す。しかしそこにはすでに何もいない。ではこの声はどこから発されているのか?その答えは間近にあった。
「これでーー終わりです!」
アマルは背後にいた。そして硬竜の首に腕を回し、剣を喉元に勢いよく運んだ。刃は直撃し、確実に命を刈り取ったかに思えたのだが、やはり十脳の右腕、突きつけられた刃は硬竜の肌に一体の傷をつけることなく砕け散った。
「ッ!これは・・・!」
「んな鈍が・・・きくか、よっ!!」
上半身のバネを使い、背後のアマルに裏拳を放つ硬竜。すぐさまこれを察知し後方に下がるが、一撃はもらってしまう。数メートル飛ばされたアマルは、その場で今の攻撃の感想を脳内で漏らした。
「(あの拳重いな・・・いや、硬いのか?剣も折られたことからその可能性が高いな)・・・なるほど、意外と面倒な相手だな」
「ーーはっ!いつの間に背後を取ったのかは知らねぇが、俺の硬度を超えねぇ限りテメェらに勝利なんざ永遠に訪れねぇよ!」
「硬度・・・ということはやはり君の魔法は硬質魔法だね」
硬質魔法、これは自身の皮膚や筋肉を硬くしたり、逆に相手の体を固くする者もいる。そしておそらく硬竜の場合
「正解だぜぇ、俺の魔法は硬化、能力は単純明快硬くなること!やっぱ雄に生まれたからにゃぶん殴ってぶっ殺すのが一番気持ちいい。硬さこそ最強!俺向けの最高の魔法だぜ!」
腰に手を当て、アマルに向けニヤリと笑う硬竜。因みに彼が普段から言われていることとして、注意が散漫だとよく叱られている。今回もそれが出ていた。
「闘華流ーー」
「ん?闘華流だぁ?」
「一ノ舞ーー刻桜印!」
見えないところから鳩尾に叩き込まれる一撃。硬竜はえずき、何が起きたのか混乱しながら吹き飛んでいく。
「ぐぁはぁ!!(なんだ?なんだ今の?声がしたと思ったらいきなり吹き飛ばされた!それに闘華流だぁ?そりゃあの人のーー)」
「ナイスだカミラ君!」
先程まで背後にいたアマルは自身の上空におり、両手を重ね合わせて振りかぶっている。
「食らいなよ、化け物!!」
握り締められた拳が硬竜の腹をめがけ振り下ろされる。慢心により一度魔法を切ったことでこの攻撃はしっかりと入ってしまった。
地面に叩きつけられ、瓦礫を押し除けて立ち上がる硬竜、その体はボロボロであり、所々から血が流れている。
「君、ほんとに十脳とかいう奴らの右腕なの?にしてはすごい弱いんだけど」
真正面から真顔で煽るアマル。本人としては事実を述べているだけで煽っている自覚もないのかもしれない。
「多分今日来た中だと君が一番弱いよね?他2人はある程度やりそうだったし。対して君は声がでかいだけで全く脅威じゃない。先ほどの慢心から底が知れるね」
硬竜は黙りながら歩き始める。体はすでに満身創痍。だがその目は未だ死んでいない。
「ーーこんなんじゃ、竜頑さんに笑われちまうな」
硬竜は重心を低く取り拳を構える。
「もう2度と、テメェらの攻撃は通らねぇ。いくぞーー」
体のバネを利用して一気に距離を詰める硬竜。アマルほどではないが流石に早い。
「ーーでも、所詮その程度だよね。君じゃ僕には追いつけない」
向かいくる速度よりもはるかに早い速度で相手の懐に入り込むアマル。予備の剣で腹部を突き刺す。だが、魔法を使用している硬竜にはその刃は通らない。
「(こうなられては面倒だな。通らないんじゃどうしようもない・・・せめて指宿君がこっちならば。もしかしてそれを見越してのこの対決か?)」
アマルの魔法は迅速。効果は非常に単純で、とても早く走れるというもの。だがこれも侮れない。何せ速さだけならば冒険者最速なのだから。
しかし当然弱点がある。それは攻撃力のなさ。普段であればその速度を生かして数を重ねることで倒せるのだが、今回のように防御力特化の相手にはなす術がない。無駄に刃と体力を消費するだけにとどまってしまう。
そしてそれはカミラも似ている。確かに闘華流や透過しての不意打ちなど、攻撃手段自体はある。だがアマル同様これほどまでに防御力特化の相手にはそれらの攻撃は意味がないのだ。せめてその防御力を貫通するほどの攻撃力が有れば別だが、それもない。というより持っている方が珍しい。
こんな2人を意図的に合わせたのだとすれば、音蛇というモンスターは相当知能が高い可能性がある。思惑はどうであれ実際そうなっているのだ。
硬竜は懐にいるアマルに右足で蹴りを入れる。咄嗟に避けるが、その衝撃は数センチ程度の隙間などまるでないかのようにアマルに届く。
吹き飛ばされるアマルをすり抜け飛び出したカミラ。右手拳を握り、旋回を加えた裏拳を放つ。
「三ノ舞ーー旋蘭!!」
攻撃は見事に直撃する。だが攻撃は効かないどころか、逆にカミラの方がダメージを受けてしまう。
「ぐっ!(何この硬さ?!こんなのどうやって攻撃すれば?)」
後方によろめくカミラ。そんな彼女を逃さないとばかりに距離を詰める硬竜は、右手を開き大きく背後に引いていた。
「教えてやるよ女ぁ。闘華流ってのはなぁーー強い奴だけが使っていい技なんだよ!!」
引かれた腕は勢いよく彼女の腹部に直撃し、その小さな体を全力で叩き潰さんとしていた。
カミラは血反吐を吐きながら吹き飛ばされ、何度も地面に体を打ち付ける。数メートル吹き飛んだ辺りでようやく勢いは止み停止した時、彼女の体はすでにボロボロになっており、体は痙攣し動けなくなっていた。
「テメェらにもう一度教えてやるよ。硬さは最強だぁ。どんな速度も硬さの前では体をなさねぇ。どんな攻撃も硬さの前ではねぇも同じだ!ーーだがな、竜頑さんだけは違った。あの人はこの俺の硬さを一撃で破りやがった。最強だ。そんなあの人に俺は憧れそして思った」
硬竜は口元の血を手の甲で拭う。
「俺ぁあの人を殺してみてぇ!そしたらもう俺が最強だ!そのために俺ぁ・・・脳無しを喰らう。テメェらをさっさと殺して、奴のところに向かう。そしてここにいる全員ぶっ殺した後・・・それが竜頑さんの最後だぜぇ!」
恐ろしい笑みを浮かべる硬竜。並の冒険者ではもうこの時点で逃げ出そうとするだろう。ーーだが、この男は違う。並ではない。彼は冒険者最強のランクSランク冒険者だ。速いだけでその地位になれるほど、甘い世界に生きてはいない。
「べらべらとおしゃべりだね、君。だから君みたいなやつは嫌いなんだ。ーーさて、そんな君みたいな熱血筋肉には攻略法があるんだけどね・・・知りたいかな?」
アマルは身につけていた全ての武器を取り外し、体重を限りなく少なくした。
「テメェ、武器も無しにどうするつもりだ?ぁ?」
「安心しなよ、僕は君を殺せない。だが、君の戦いはもうお終いだ。今のうちにその筋肉に触っておくんだね」
武器も無し、攻撃手段も無し、それなのに、彼の浮かべる不敵な笑みは不思議と汗を滴らせる。