箱を潰す少女
また箱を踏み潰した。
たくさん降ってくるので踏み潰した。
それでもまだまだ降ってくる。
たくさんの人は箱に入ってしまった。
けれど青い髪の少女は入らない。
絶対に入りたくなかったからだ。
毎日毎日、雨のように降ってくる。
小さな箱、大きな箱。
すとんと落ちて、人間がしまわれる。
箱詰めにされた人間は、
少女には生きたまま死んでいる
動く屍に見えた。
ある日の良い天気の朝、
少女の真上から小さな小さな箱が降ってくるから、少女はすぐに避けたけれど、
どこに行っても追いかけてくる箱。
学校に行っても家に帰っても
公園に行っても買い物に行っても
旅行に行ったって
ついてくる箱。
邪魔だから踏み潰した。
何度も何度も踏みつけてやった箱。
ぐちゃぐちゃになって、
中から出てきた小さな人間。
ピクピクしてたけれど、
そのまますぐに死んだ小さな生き物。
少女の靴の裏には
赤い赤い血がついたけれど
地面に擦り付けると
すぐに消えた真っ赤な血。
スタスタと歩くけれど
青い髪の少女には
もう二度と見えることのなかった
小さな人間。
もう二度と降ってくることのなかった
小さな箱。
しかし友達の元には降ってくる
小さな箱。
どんどんと箱詰めにされていった。
青い髪の少女には
もう大きな箱しか降ってこなかったが、
それもすべて踏み潰してやった。
でもまだまだ少女は潰し足りない。
踏み潰し足りない。
地面との摩擦で無くなるまで
磨り潰すことしか頭になかった。
箱の中に入ると
息ができなくなることを
知っていたわけじゃない。
箱の中に入ると
水中に入ってしまうことを
知っていたわけじゃない。
ただ猛烈な怒りが、炎が、
生まれたときから彼女の奥底から
無限に湧いてくるのだ。
やがて世界の殆どの人間が
箱の中に入ってしまったけれど、
青い髪の少女は
あまりに大き過ぎて
箱にはもう 収まりきらなかった。
どんな大きさの四角い箱も、
彼女には収まらない。
とてもとても大きな箱。
彼女を入れるのはもう
地球しか無理だった。
やがて世界の最期の一人になったとき、
彼女はもう 地球でも入りきらなかった。