37話 出立
「馬鹿な!」
リーンから聞かされた情報に驚き。
つい声を荒げてしまう。
「確定ではありませんが、可能性は高いかと思われます」
それは戦争の知らせだった。
正確にはその予兆。
魔族領で軍備が急激に進められ。
人間相手に再び戦争が起こされる可能性があるとリーンは言う。
だがあそこを治めているのはイナバだ。
魔族に恨みを持っていた奴が、その魔族を率いて人間と戦争をするとは考えられない。
「戦士イナバの意図は分かりませんが、連合でその行動が問題視されつつあるのは事実です」
一体イナバは何を考えているのだろう。
彼の考えは俺にも分からない。
「まあ、よいのではないでしょうか?立場上こんな事を言うのもあれですが、戦争になれば、貴方の復讐相手である戦士イナバと勇者ブレイブはお互いに潰し合ってくれるわけですから」
本当に聖女の口にする言葉ではない。
まあ同じ聖女であった人間の謀殺に手を貸してくる様な女だ。
清らかな人物でない事は初めっから分かっていた事だが。
「俺の目的は……この手で裏切った奴らを始末する事だ」
イナバもブレイブも、俺自身の手で引導を下さなければ気が済まない。
だがこのままいけば、イナバは間違いなくブレイブに殺されてしまうだろう。
「自らの手で引導を下さなければ気が済まない……ですか。因果な物ですね復讐と言う物は」
復讐は理屈じゃない。
本能だ。
言い訳や理由を付けて妥協できる位なら、初めっから大人しくしている。
「今まで世話になったな」
神炎のコントロールは、ある程度なら出来るようになってきた。
リーンの様に戦闘で使ったりなどは難しいだろうが、暴走して自分を焼き殺さずに済む程度には扱える。
「御武運を……間違っても、負けたからって私の名前は出さないでくださいよ」
聖女殺しに関わった物として自分の名が俺の口から出たら、不味い事になる。
だから彼女は釘をさしてきた。
全くとんでもない聖女様だよ。
もっとも、偽りの仮面で俺を騙し。
裏切ったあの女よりかは遥かに好感は持てるがな
「ふ、心配するな」
お互いの目的が合致した上での相互利用だったが、それでも協力して貰った事には変わりない。
そんな相手を裏切るような真似はしない。
俺はあの糞共とは違うのだから。
「俺は負けん。余計な心配だ」
俺は必ず復讐を成し遂げる。
必ずだ。
「そう願います」
俺はその言葉には振り返らず、教会を後にする。
もうここに足を運ぶ事もないだろう。
俺はリピを連れ、イナバの居る魔族領を目指す。




