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1話 王女ラキア

茫然としていた。

今の自分の状況が受け入れられずに、只呆然と立ち尽くす。

そんな俺を正気に戻したのは――足音。

そしてそれに続く女の声だ。


「なんて顔してるのよ。大賢者が聞いて飽きれるわね」


良く知るその女の声は冷たく。

それでいて、すこぶる愉快そうに口の端を歪める。


「何故だ……何故……」


俺は何故こうなったのか。

どうして彼らが裏切ったのか。


それが分からず。

信じられず。

目の前の女に答えを求め、口を開く。


そう、目の前の女――

俺の婚約者である、王女ラキアへと。


「あらあら、大賢者様でも分からない事があるのねぇ」


ラキアはさも楽し気に、俺を嘲笑う。

俺を見下し、見つめる瞳には冷たく暗い炎が宿っていた。

その眼を見た時、俺は初めて気づく。


彼女が俺を憎んでいる事に……


「いいわ、教えてあげる。私ね、貴方が大っ嫌いだったの。初めて会った時からずっと」


会う度にいつもニコニコと微笑んでいた女性が、本心では俺の事を嫌っていた。

それも初めて会った時からだという。

彼女の口から聞かされるその事実が、俺の胸に突き刺さる。


「私と初めて会った時の事を事を覚えてるかしら?覚えてるわよねぇ。大賢者なんだもの、それぐらい覚えてて当然よねぇ」


彼女と初めて会ったのは5年前。

俺が18になった時の事だ。

当時すでに大賢者と称されていた俺は、その才能を買われ、王女のラキアの婚約者へと抜擢される。

そして顔合わせのため、王宮にある大庭園で彼女と顔を合わせたのが彼女との初対面の筈だ。


「庭園で……」


「違うわよ」


俺が言い切るよりも早く、ラキアがバッサリと言葉を切って落とす。


「初めて会ったのはね、庭園で顔合わせをする1年前よ。どうやら貴方は覚えていないみたいね」


庭園で出会う1年前?

つまり俺が17の時の事か?

だが俺の記憶に彼女の存在は――


「魔術塔の中庭よ」


……っあ!


ヒントを与えられ唐突に思い出す。

言われなければ気づきもしなかった思い出を。


「その顔、思い出したみたいね。そうよ、あの時恥をかかされた女。それが私よ」


あれは研究施設である魔術塔の中庭での出来事だった。

とある貴族の女性――顔は帽子を深くかぶっていた為見えなかった――の服に研究員の一人がある塗料を零し、汚してしまったのだ。

それは外で行う研究のため、俺が部下の女性に急いで持って来て貰った物だった。

だから俺は激怒していた貴族の女性に対し、全ての非は急がせた自分にあると謝ってその場を収めたのだ。


確かその時の女性の声が……ラキアとよく似ていた気がする。


「どこぞの貴族の娘と思っていたが、あれは君だったのか……」


「ええ、そう。あの日はお忍びで魔術の研究を見に行ったのよ。そこで私は恥をかかされた」


「その事はちゃんと謝った筈だ」


「はぁ!?ふざけないでよ!!」


突然彼女が声を高ぶらせ、表情を般若の形相へと変える。

その余りの代わり様に俺は一瞬たじろいだ。

まさか彼女にこんな激しい一面があろうとは……


「王女である私の服を、あの女は汚したのよ!なのに大賢者であるあんたが謝ったせいで、私の服を汚したあの下女に罰を与える事も出来なかった!あの時私がどれだけ恥を書き!どんな苦い気持ちで怒りの矛を収めたと思ってるのよ!!」


確かに、並ぶ者無き大賢者と言われていた俺は国から厚遇され。

それ相応の――侯爵家と同等かそれ以上の権限を与えられていた。

いかに王女という立場があったとしても、その俺が頭を下げたのなら引き下がらざる得なかったろう。


「あの時決めたのよ。私に恥をかかせたあんたに絶対復讐してやるってね。だから嬉しかったわ。あんたと婚約が決まったとお父様から聞いた時は。これで傍であんたの事を探って足元を掬ってやれるってね!!」


「そんな……そんな些細な理由で……」


「はっ。天才だか何だか知らないけど、貧乏貴族の3男坊如きがあたしの顔に泥を塗ったのよ。当然の話でしょ?いい気味よ」


ずっと笑顔で優しい女性だと思っていた。

その彼女がまさかこんなに捻くれた陰湿な人間だったとは……

大賢者などと周りから煽てられてはいたが、どうやら俺に女を見る目はまるでなかった様だ……


我ながら間抜けな話。

大賢者が聞いて飽きれる。

疑いもせずラキアを信頼しきっていた自分の愚かさが、今は悔やまれてしょうがない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大賢者って、人の心に疎い人でもなるのですね。知っていて、知らないふりをして欲しいですね。大賢者?色々な知識を持っているだけでは、そうは呼ばれないよね。後は、色々な魔法が使えると言うことかな。…
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