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伝説のアイス某氏

作者: 翳の使者

暑かったんです。おめでとうございます。許してください。

冷蔵庫。それは、創造神に食されることが許された栄誉ある者が行き着く世界。または、存在を保つために捧げる生贄の祭壇。とも言われる謎の多き街である。

 冷蔵庫には様々な都市伝説が存在する。

曰く、罪深き者は身体が腐り果てるまで放置される。

曰く、数年に一度街は破滅し、新たなる姿に生まれ変わる。

曰く、創造神の不評を買った者は2度と街に立ち入ることができない。

など。

年単位という長き歴史の中でささやかれる無数に都市伝説。そんな中には信じられない噂が存在した。


1年中冷蔵庫に立ち入るを許されたアイスがいる


というものである。ここで重要なポイントは時ではなく、立ち入ることが許されたという点と、アイスであることだった。永住ではなく立ち入るとは創造神により常に必要とされ、神のため社畜と揶揄される食材ではなく、嗜好品や普段は行われない儀式(調理)に必要とされるエリートもしくは生贄のことである。そしてアイスは夏にのみ冷蔵庫に立ち入ることが許可される旅行者もしくは創造神の信者である。故にアイスは本来は嗜好品になることはない。つまり立ち入るという文言で謳われること自体が矛盾しているのだ。この都市伝説は有名でありながらそのようなアイスの目撃者が居ないことから幻のアイス。またの名を伝説のアイス某氏と呼ばれていた。


そんなアイス某氏に惹かれる冷たいアイスがいた!その名もゴリゴリ棒メロンソーダ味 (ハズレ)!記者であり生粋のアイス某氏の都市伝説のファンである彼は入社3か月目にして遂に都市伝説を追う機会を得ることに成功した。

これはとある記者が謎多き街で伝説を追う物語である!



「ここが冷蔵庫か。」

冷蔵庫の中でも最も治安が良く、長い月日を過ごす食材が多く住む上層街にゴリゴリ棒メロンソーダ味 (ハズレ)は降り立った。彼の目の前を足早に行きかう者達の姿は様々だ。スーツ姿で走って行く卵、カップルで幸せそうに歩くケチャップとマヨネーズ、ずっとスマホ見つめて歩く冴えない麦茶とそれを横目に笑う牛乳とコーヒー。食材が通り過ぎる街並みはパックやビニールでできた高層ビルが立ち並び、田舎からきたゴリゴリ棒は都会の風を全身で感じた。


“とりあえず聞き込みから始めるかな。”


ゴリゴリ棒はたまたま目についたコスプレをしたバターに声をかけた。理由はコスプレとかオタクっぽいし都市伝説とか詳しそうと適当なものだ。

「すみません、そこのバターさん。少し聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」

声をかけられたバターは笑顔で答えた。

「ええ、構いませんとも。このフリッターでフォロワー数5万人を誇る超弩級有名コスプレイヤーである北海道バターと握手?それとも写真かしら?ああ、記者さんですしインタビューかしら。」

「い、いえ……実は私、冷蔵庫の都市伝説を調査しておりまして……。」

「ああ!私が5年以上前からいるにも拘らずこの美貌を保っているのは無限の美貌バターなんて呼ばれて都市伝説になってたかしら!ええそうです。それは私のことですよ?」

「い、いやあ。それも調べてるので会えて光栄なのですが、今は伝説のアイス某氏を探してまして……何か知りませんか?」

「やっぱり!私のファンの方だったのね!ええいいですとも写真も握手もインタビューも受けて差し上げますよ!」

「ええ、ありがとうございます。でも、それもそうなんですけど、アイス某氏について……。」

ゴリゴリ棒は不運なことに面倒なバターに捕まってしまい、大変時間を無駄にしてしまった。耐えること数時間の立ち話の末に得たものは北海道バターの写真50枚と美貌の秘訣……本当に無駄に思えたが役立ちそうなのは一番高いビルに伝説のアイス某氏と同じくアイスではないが1年中立ち入りが許された切り裂くチーズ氏がいるということ、幸運なことに切り裂くチーズと北海道バターが知り合いで明日会えるよう手配して貰えたことでチャラになったとゴリゴリ棒は前向きに考えることにした。


立ち話をしている時間が長すぎたせいかその後も何人かに聞き込みをしたがいい情報は得られなかった。あたりも暗くなってきたのでゴリゴリ棒は予約していたホテルに向かうことにした。

ゴリゴリ棒の予約したホテルは真空パックホテル。萎れたホテルはよく言えば老舗、悪く言えばぼろ宿である。本当は高級ホテルに泊まりたいゴリゴリ棒であったが、上司のゴリゴリ棒メロンソーダアタリは伝説のアイス某氏を信じておらず、高級ホテルに泊まれるほど経費を出してくれなかったのだ。さらには冷蔵庫に滞在できる期間も3日しかない。夏のアイス業界はどこも忙しいため遊ばせている余裕はないとのことらしい。

ゴリゴリ棒は世知辛いと思いつつチェックインをし、自分の予約した部屋に向かった。


「おい、そこのお前。」

睡眠を重んじるゴリゴリ棒は自らの部屋の前でかけられたぶっきらぼうな声にとても驚いた。時刻は0時を回る少し前、深夜は起きていても人話すことはしてはならないという自分なりのルールを設けているゴリゴリ棒にはその声は驚きとともに自分なりのルールに抵触しそうなことと、北海道バターのせいで貯まったこともあり不機嫌になりつつも振り向いた。

「一体こんな夜中に何の用……ですか?」

振り向いたゴリゴリ棒は思わず声をすぼめる。振り向いた先にいたのは絶世の食材だった。真っ白で凹凸のない思わず女性と見間違えるような綺麗な身体。その質感は少し噛み応えがあることは目に見えて明らかだが、同時にあまりの美しさに無理やり切り裂いてしまいたくなる衝動に襲われる。噛み応えと切り裂き衝動の両立。その姿は北海バターに聞いた切り裂くチーズにそっくりだった。

「もしかして、切り裂くチーズさんですか?」

「ああそうだ。北海道バターから話を聞いてな。来てやったんだ。」

ゴリゴリ棒は切り裂きたくなる衝動を抑えながら、話を聞く。


“ああ、なんて美しい。思わず切り裂きたくなる”


伝説のアイス某氏についての話を聞きながらも切り裂きチーズに見とれていた。話を聞きながらふと、ゴリゴリ棒は気づく切り裂きチーズの頬が少し赤く、声はぶっきらぼうではあるが熱い視線をゴリゴリ棒に向けているのだ。話を聞くと、昨日伝説のアイス某氏を見かけたらしい。伝説のアイス某氏は幻のアイスとも呼ばれる通り、どんなに長く滞在しても2日であるため明日では間に合わないと知らせに来てくれたらしい。


“なんでわざわざ知らせに来てくれたのだろう?”


ゴリゴリ棒は少し切り裂きチーズに疑問を持ったものの伝説のアイス某氏がいるかもしれないという場所のことも聞き、時間も遅かったので聞くことなく情報をくれたことに感謝し部屋で寝た。


翌日の早朝。昨日は深夜まで起きていたこともありゴリゴリ棒は少し寝不足であったが季節は夏。気持ちのいい朝日で目覚め、切り裂きチーズに教えて貰った場所へと向かった。


ゴリゴリ棒の向かった先にあったのは倉庫だった。


“おかしいなあ。聞いた話だとカフェがあるってきいたんだけど”


ゴリゴリ棒は不審に思い場所を聞きに町役場にでも行こうと考えたが既に遅かった。


「ぐっ」


突然ゴリゴリ棒の視界は暗転する。そして口に布のようなものが入る感覚とともに意識が途絶えた。


「……ここは」

ゴリゴリ棒が目を覚ましたのはうす暗い倉庫の中だった。

身体を動かそうとするが縄で縛られており自由に動かない。

「目が覚めたようね。」

コツコツという音と同時に聞き覚えある声が聞こえた。

「あなたは……北海道バターさん!?」

なんとそこにいた北海道バターだった!さらに……

「俺もいる」

ぶっきらの声が後ろから聞こえる。

「その声は切り裂きチーズさん!?2人ともどうして!」

「ふふ、そんなの決まっているわ。あなたが都市伝説である伝説のアイス某氏を追っているように、私たちも都市伝説の1つ棒アイスを捧げることで得られる伝説の秘宝を追っているのよ!」

「な、なにを言って!?」

「伝説の秘宝アイス・棒アタリ特典だ。某アイスを冷蔵庫で溶かしたとき現れると信じられる文字通り伝説の秘宝だよ!」

北海道バターと切り裂きチーズは狂ったように高らかに叫んだ。

「そんなの聞いたことない!そもそも私はハズレ棒だ!私を溶かしても何もないぞ。こんなことは辞めるんだ!」

「嫌よ。だって冷蔵庫でアイスがこんな上層に来ること滅多にないもの。普通は溶けないように涼しい最下層に行くものよ。あなたは暑さ対策をして溶けないようにしてたみたいだけど。」

「まあ、その暑さ対策のブツも取り外し済みだ。君が溶けるのも時間の問題だろうねぇ。」

「そんな……。」

ゴリゴリ棒は確かに力が抜けていること言われて気づいた。冷蔵庫は上層でも多少涼しいため溶けるのには時間がかかるのだ。しかし、1日もあればゴリゴリ棒はただのハズレ棒になってしまうだろう。絶対絶命とはまさしくこのことだろう。



「待つがいい下郎。」

ゴリゴリ棒が死を覚悟しようと思った時、その食材は現れた。倉庫の入口に立つその姿はとても美しい丸カップアイスだった!そのボディはましく高級品!切り裂きチーズのような耐えれる衝動ではなく、言われたことには絶命従わなければならないという使命感を抱かせるほどのオーラを纏っていた。

「お前は一体!?何者だ!」

切り裂きチーズの声に謎のアイスは答える。

「我が名はハーゲンダーク。嗜好のアイスクリームである。何やら同族が我を探していると聞いたのでな。わざわざ上層まで出向いてみたまでよ。」

「嗜好の高級品?まさか……あんたが伝説の」

「伝説?ああ、確かに伝説のアイス某氏なぞと呼ばれることもあったな。」

「ちぃ!ただ話しているだけなのに膝がガクガクする……これが伝説のアイスの力なのか!」

「それで?貴様らは何をしているのかね?よもや我が同族に悪さをしているのではあるまいなあ?」

「引くわよ!こんなヤバい食材が出てきたらどうしようもないわ!」

北海道バターはそういうと切り裂くチーズを連れて逃げ出した。


ハーゲンダークが恐ろしすぎたのか、しっかりゴリゴリ棒の縄は外したのちである。

「あ、あの助けていただきありがとうございます。」

ゴリゴリ棒は長時間同じ体勢だったせいで痺れた痛みに耐えながら立ち上がり礼を言う。

「何、気にすることはない。同族を助けることなど当たり前よ。感謝されることでもないわ。」

ハーゲンダークがそういうと共に外界の扉が、冷蔵庫が開かれた。

「ふむ、どうやら時間のようだ。ではまたどこかで会おう同族よ!」

ハーゲンダークはそういうと共に冷蔵庫の外へと旅立っていったのだった。




「ただいまー」

リビングの扉から母親の声が聞こえる。

「うわぁ!お、おかえり~」

買い物から帰ってきた母親にきづいていなかった子供はびっくとして振り返る。

「あんた冷蔵庫の前で何やってるの?ってああー!?」

冷蔵庫の中はビショビショだ。

「あんた何で冷蔵庫にアイスを入れてるの!?溶けちゃってるじゃない!アイスはいつも冷凍庫にしまってあるでしょ!」

「だ、だってぇ」

「もしかして、またくだらない寸劇でもやってたの?遊ぶなら人形でやりなさいっていつも言ってるでしょう。」

「だってアイスが好きなんだもん。」

「だってじゃありません。いい?食べ物を始末にしちゃ駄目よ?」

「はーい。」

「じゃあ、冷蔵庫片付けてさっき買ってきたバーゲンダーク食べましょう。美味しいから家にあってもついつい買っちゃうのよねぇ。」

「えー僕はゴリゴリ棒がいい~。」

「はいはい。ちょうどなくなりそうだったからゴリゴリ棒も買ってきたわよ。」

「わーい!」

親子は仲良くソファーに座りテレビを見ながらアイスを食べ始めた。

「アイス美味しいね?」

「ええ、美味しいわね。」

アイスは今日も家庭を幸せにする。アイスはいいものだ。


おめでとう

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