入院した先で見たものとは?
僕はつい先日からこの病院に入院している。
何故かって?
バイクの単独事故を起こしたからだ。
だけどこの病院…患者の数が少なかった。
部屋も4人部屋用なのにうまっているのは俺だけ。
他は全て空きベッド。
隣の部屋の方はというとそこも似たようなもので空きベットが1つや2つは必ずあった。
しかも入院している人は皆短期間で退院していく。
ごくたまに転院する人もいたが、ごくたまにだ。
だから俺みたいなのが1番長くいるんじゃないのかな?
夜の見回りなんかも看護師が来たかどうか怪しかった日もあった。まっ、たまたま俺が起きてたから知ってるんだけどさ。廊下の灯りが明るくならない時は誰も通ってないという証。
一度看護師に言ったことがあったんだ。ちゃんと見回りしないと急患でたらやばいよ?って。
そしたらさ、看護師は真っ青な顔をして慌ててその場から逃げてったっけ。
なんで逃げるんだ?
何もしてないのに…。
ある日の事、検査が入っていた事を看護師から聞かされていた僕は車椅子に乗り込み、エレベーターに向かった。その途中にナースセンターがある。
「1号室の佐藤さん、今日かもね〜。」
「え〜?どうして?」
「だって私たちの見回り気づいてなかったみたいだもの。見に行ったら…真っ青な顔をしてたわ。」
「じゃあさ、じゃあさ、4号室の真田さんは?」
「今朝急変して亡くなったわ。今月はこれでもう何件め?おかしいわよ。」
「でもさ〜、院長にたてつくと辞めさせられるわよ?このあいだの伊藤さんみたいに…。」
僕は固まってしまった。
いったいこの病院で何が起こってるんだ?
立て続けに亡くなるって…ありえるのか?
空きベッドが多いのはそのせい?
見回りがいなかった日の担当は伊藤さんという人じゃなかったか?
たてつく…って、何で?
その時遠くの看護師に呼ばれ、慌ててその場を離れたが、聞いていたの気づかれてるよね?
声が小さくなったもの。
検査は終わり自分の部屋に戻る途中、1人の看護師に呼び止められた。
「さっき、廊下で聞いてたよね?」
「いえ、…特には。何かを話してるのは聞こえましたが、何か…までは聞こえませんでしたよ?」
「そ、そう、ならいいのよ。気にしないで。」そう言って足早に去っていった。
そうなると気になり出すのが僕の性分。どうやって聞き出すのかを考えた。
そこでまず考え出したのがまだ新しい新人。
噂だけは知ってるかもしれないと思っていた。
そして声をかけたのは新人の子。
名前は知らない。
でも気分を害した感じはなく、聞かれることにはホイホイと話してくれた。
だけど、肝心なところになると口をつぐんだ。そりゃそうだ。多分先輩からも何か言われているのだろう…。
おだててなんとか聞き出したのはここ1ヶ月で亡くなったのが3人いるということ。
皆退院間近だったのになぜか突然深夜に体調が急変して亡くなるので何かあるのではと看護師の間では噂になっているらしい。
医師は気にもしてない。
ただオカシイ…とだけ呟くという。
そこまでは聞くことができたので良しとして別の看護師にあたってみた。
すると真っ青な顔をして話し始めた。
噂を始めた本人らしい…。
それは深夜の巡回の時見たらしい。
基本1人で見回るので、緊張感があると言う。
その時目の前で見たものはおぞましかったそうだ。
真っ黒な塊がベットのそばの患者さんの所で漂っていたから。
悲鳴をあげそうになったが、夜の廊下は響く為、他の患者さんにも気づかれる可能性もあるからとグッとこらえて暫く壁越しに様子を見ていた。
するとその塊はなんと患者の体の上に。
それまで穏やかだった患者の顔が苦痛で歪み、目覚めと同時にナースコールを押そうとするも手が震えてコードがつかめない。
呻き声が聞こえてきて初めて看護師さんは慌てて駆け寄ろうとする。すると、スーッとその場に漂っていた塊が消えたという。
依然患者の容体もよくない為、ナースコールを押し、医師の到着するまでの間できるだけの処置を施す。とは言ってもできることには限りがあるのだが。
そこに医師ともう1人看護師がやって来て医師がテキパキと指示を出す。2人の看護師はお互いが邪魔にならないように言われた事をした。そのおかげか患者の容体も安定し、その日の夜の出来事は終わった。
そんな事を聞かされたら病院内に何かいるって思うじゃないか。しかも現れるのが決まって夜らしい。
眠らずに動いて調べることは難しいが(骨折している為)、横になった状態で天井を見ることはできそうだ。そもそも順番ではなくランダムで出るらしい為、どの部屋にいつ現れるのかが分からない。
そうこうしているうちにまた夜の時間がやってきた。
先ほどの看護師は帰ってしまったのか姿が見えなかった。
仕方がない。僕が1人で…。
昼間のうちに買っておいた懐中電灯を手に携帯の時間を見てみる。
今の時間は深夜の1時過ぎ。
何かが起こるとしたらこのくらいの時間からか?
そう思った時、部屋の空気が急に冷たくなったように感じた。
や、まさか、ここに出るのか?
ナースコールのボタンを片手にもう片方は懐中電灯を持ってジッとしていた。
何かが近づいてくる感じがした。
震え始めた体に力を入れて無理矢理ジッとした。
目もつむっていた為緊張しながら薄目を開けていく。
そして完全に目が覚めた時その視界に入ってきたものを見て思わず叫んだ!
ドクロが浮かんでいたのだ。
周りはモヤがかかったみたいに感じた。
それが徐々に近づいてくる。
怖くなった僕はブザーを押そうとしたのだが、何故か体が固まって動けない。まるで金縛りにでもかかったみたいに…。
怖くて怖くて仕方がなかった。だから力一杯指を動かした。すると、ブザーが鳴った。
ホッとした。
でも、何も声が聞こえない。看護師はいないのか?
再度ブザーを押すと、今度は声が聞こえた。
しかし、様子が変だ。
返答がない。
だけど声だけは聞こえる。
なんなんだ?
こっちは必死になってボタンを押してるのになんで返答が?
そこで初めて目の前のドクロのせいだと思い至った。
こんな風に今までの患者もボタンを押したに違いない。でも、ナースセンターにはつながらず、別の場所につながったと言うことか…。
怖い。
思ったね。
だけどどこに繋がったのかも気になった。
聞き耳を立てているとボソボソと声が聞こえた気がした。その声は男女問わずだ。
その時になってはじめて怖くなったんだ。
なんか違うって…。
そう、確かに違う。
ボソボソ声が徐々に近づいてくる。
この部屋には今は僕しかいないというのにだ。
再度ボタンを押した。
すると今度は間違いなく看護師の声が。
泣きそうになりながらすぐに来てもらえるように話すと、看護師が飛んできてくれた。
しかも2人でだ。
部屋のドアを開け、中に入ってきてくれた。
助かったぁ〜と思ったらホッとしたのに、カーテンを開けて現れたそれをみて僕は気絶してしまった。
そう、現れたのは真っ青な顔をした男女だったから…。
早々に僕は病院を転院することにした。
今もその病院はあるらしい。
潰れたという噂はない。
でもきっと夜な夜な現れるのだろう。
僕は足の怪我が治ってもその病院に入っていない。
きっと今日も誰かの枕元に現れるんだろう…。
病院は怖い。