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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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脱獄の最中



 崩れ落ちてぽっかりと空いた壁の穴。そこを抜けて牢屋から脱出すると、暗い洞窟が長く伸びていた。天然では当然ない。人工的に掘られたものだ。


「これを一人で?」

「そうよ。気づかれないようにせっせこせっせこ掘ったんだから!」


 ユウリの姉は自慢気に言いつつ、壁に空いた大穴を魔法で塞ぐ。崩れ落ちた瓦礫がパズルを組み立てるように正しい位置に嵌まって修復される。

 このくらいの偽装工作はすぐに見破られてしまうだろうけれど、すこしは時間稼ぎになる。そのすこしの時間が脱獄の成否を分けるかも知れない。


「さぁ、行くわよ! ゴーゴー!」


 小声なれど、立ち止まっている余裕はないとずんずん突き進む彼女。

 その勇ましい歩みは勇猛からなのか、考えなしからなのか、端から見ていて不安が拭いきれない。


「大丈夫……だよな?」

「えぇ、たぶん。どの道、ユリア姉さんを信じてついていくしかありません」

「それもそうか」


 くらい洞窟に灯るランタンの明かり。それに照らされた赤髪のツインテール。それが左右に揺れるのを長めながら、俺たちはユリアの背中を追い掛けた。


「――足音、気をつけてよね。めーっちゃ、響くから。音。ここ。この辺にわーっと」

「わかった」


 地質的な話なのか、ともかくよく音が響くらしい。

 注意するからには地上にも聞こえてしまうくらいよく音が伝わるのだろう。だから、この街の女たちは、この場所に牢屋を作った。穴を掘って逃げるという古典的な脱走法を封じるために。

 まぁ、ユリアはそれを馬鹿正直にやってのけたわけだけれど。

 それが現在、功を奏しているのかも。


「……」


 そういう事情があるのなら、横穴を掘って逃げ道を新たに作るのは無謀か。

 ユリアがどうやったかは知らないけれど、俺がそれをやると必ず音が出る。オチューの溶解液で溶かす手もあるが、時間と魔力が掛かりすぎるか。

 偽装工作がバレて背後から追われた時のために、分かれ道をいくつか用意しようかと思ったけれど、この一本道をいくしかないみたいだ。

 すこしでも長く時間が稼げますように。そう祈った、ちょうどその時だった。

 ガラガラと、遠くで瓦礫が崩れる音がした。


「――今の」


 この場にいる全員が察していた。

 偽装工作で修復した壁が崩された音だと。


「思ったより、バレるのが早いわ! 走って、ほら! 行って、行って、行って!」


 見回りが通り過ぎてすぐの決行。次の見回りが来るまでまだ時間はあるはずなのに。

 不測の事態というものは必ず起こるもので、予定よりもずっとはやく相手側に脱獄の事実が発覚してしまった。

 ユリアに急かされ、洞窟の先を目指す。

 しかし、俺たちが走る速度よりも早く、追っ手が駆ける。


「ガウッ」


 洞窟の奥、闇より出でる数頭の獣。ランタンの明かりに引き寄せられる羽虫のように、それは地を駆け、牙を剥く。女達はまず足止めに、獣を放った。


「不味いわ! 私がなんとか――」

「いや、いい。すぐに済む」


 立ち止まろうとしたユリアを制して、走りながら洞窟の壁面を深く引っ掻いた。

 削り取り、砂にし、それを操る。あたかも意思を持つ羽虫の群れのように、砂は追い立ててくる獣たちを絡め取る。

 そうして。


「キャンッ」


 一思いに圧縮して絞め殺す。宙に浮かぶ砂の球体。赤く染まったそれからは、赤い雫が滝のように流れ落ちた。


「うわっ。随分と……残酷ですね」

「一瞬も苦しんでない。死ぬなら、楽なほうがいい」


 目覚めることなく死んだ俺が言うんだ、間違いない。


「なんでもいいわ。もうすぐ出口よ! ほら、気張って、気張って」


 追っ手を始末し、なおも逃げる。

 洞窟も終盤に差し掛かり、このまま行けば逃げおおせられる。

 だが、そう思い通りに行かせてももらえない。


「――待て」


 遠く背後から響いた声には、聞き覚えがあった。

 フェンリルに一撃を与え、俺を捉えた女たちのリーダー格。その人のものだ。

 そうと認識した直後、振り返った先で流星を見る。流星の如く駆け、こちらに肉薄する一人の女をみた。道理であのフェンリルと何度も戦えるわけだ。この速さは異次元過ぎる。


「くっ――」


 このままでは追いつかれる。背後から斬られてしまう。

 そう判断して俺は完全に逃げる足を止めた。


「ちょ、ちょっと! 止まっちゃダメ!」

「すこし相手をするだけだ、すぐに追いつく! 先に行ってくれ!」


 獣を絞め殺した砂から錫杖を作り、構えを取る。

 捕まった時は相手の人数も多かったが、今回は一人。それに彼女は速いがフェンリルには一歩及ばない。だから、彼女たちは集団でフェンリルを追い掛けていた。

 近いうちにフェンリルと再戦するつもりなんだ。彼女には悪いが、ここで練習台になってもらう。

 それもほんのすこしの間だけにするつもりだけど。

 そして――


「ほう、逃げずに立ち向かうとはな」


 超高速で振り抜かれた刃を錫杖で受け止める。

 ずんと重い衝撃が骨まで響く。


「いい度胸だ。男にしてはなァ!」

「そいつはどうも!」


 力の限りに錫杖を振るい、彼女を払い退けた。

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