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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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家族の救出


「脱獄って」

「僕には年の近い姉がいるんです」


 とても声を潜めて、赤毛の少年は詳細を語り始める。


「僕が牢屋に入れられた時、姉はこの世の理不尽を知りました。投獄の理由がただこの姿に生まれたから、だったからです」


 膝を抱えて、彼は小さく丸まった。とても窮屈そうに。

 この街で、彼は生きづらくて堪らないのだろう。俺もその片鱗を味わったばかりだ。

 文化の違いといえばそれまでだけれど。俺はこの文化に馴染めそうにない。


「姉は僕を助けるために宮殿に仕え、牢屋の看守になりました。僕の親族である姉がどうやってその立場に就いたのかはわかりませんが、とにかく脱獄の準備を整えてくれました」


 家族を助けるために宮殿に使えたのなら、相当な苦労をしたに違いない。

 それに親族に罪人がいても看守を任されるくらいだ。かなり出来る人なのかも。

 脱獄に現実味が帯びてきた。


「それで、決行はいつなんだ?」

「数時間後」

「すっ……マジか」

「マジです」


 近いうちにとは言っていたけれど、近すぎるだろ。


「いざ決行という時にあなたが入ってきたんです。正直、もうお終いかと思っていました」

「まぁ……そうだろうけど」


 彼の身になってみれば心中察するにあまりある。


「けれど、あなたは話が通じました。不幸中の幸いです。もうこうなったらあなたごと脱獄するほかにない。逃げるときに騒がれでもしたら洒落にならないですから」

「……随分とタイミングの悪いときにお邪魔したみたいだな」

「ホントですよ」


 だがこちらとしてはとてもいいタイミングだ。

 彼には悪いが、同行させてもらおう。


「でも、仮に脱獄できたとして行く当てはあるのか?」


 この街にいる限りは追われる身だし、捕まれば立場が更に悪くなる。

 一度捕まった手前、自信過剰かも知れないが自分の身は自分で守れる。でも彼とその姉はどうなのだろう。


「……一つだけあります。たった一つだけ」


 そこで言葉を句切った彼は、ためらうように口に出す。


「僕たちのような人達が寄り添い合って作られた集落があるんです。そこでなら男女の区別なく平等に暮らせる」

「楽園……だな。男にとっては」

「はい」


 どこの世界、国、街にも反乱分子というものはいるもので、その者たちが作った理想郷。

 これまで見てきた種族の街は、どれも平等ではあったけれど。それを楽園とよぶ境遇の者たちもいる。


「脱獄したら、姉と二人でその集落を探すつもりです」

「そうか……」


 集落の場所は当然ながら秘匿されているか。

 あの夕焼けに染まった荒野をたった二人で歩き回ることになる。

 荒野には魔物や――あのフェンリルもいるというのに。

 命懸けだ。命懸けだけど、血を分けた家族が牢屋に閉じ込められたままよりは、マシなのかも知れない。


「そう言えばキミの名前は?」

「僕ですか? 僕の名前はユウリです。姉が名付けてくれました」

「そうか、ユウリか。俺の名前は透だ。よろしく」

「……スケルトンにも名前があるんですね」


 そう言って、ユウリはくすりと笑った。


「――見回りだ」


 牢獄の扉が乱暴に開かれ、見回りがやってくる。

 俺たちは会話を中断し、互いに関わりのない風を装う。まぁ、そうは言っても片方はスケルトンだ。関わりがあるとは思うまい。ましてや脱獄の計画を聞いていたなどとは夢にも思わないはずだ。

 それから何度かくる見回りをやり過ごして数時間のときが立つ。

 今はちょうど最後の見回りが帰ったころだ。


「そろそろです」


 そうユウリが告げた直後、牢屋の壁がパズルのように外されていく。

 それは連鎖するように次々と、だが音もなく静かに崩れ、最後には大穴が空く。

 その先には脱獄を手引きする看守、ユウリの姉が赤毛のツインテールを揺らし、毅然とした佇まいで立っていた。


「助けにきたわよ!」


 その声は小声であったが、気合いの入った一言だった。

 そして――


「ななななななななななっ!?」


 こちらを見て、けれど小声で、ユウリの姉は驚いた。

 どうやら俺がこの牢屋にいることを知らなかったらしい。看守なのに。

 なんかイメージと違う。

 脱獄のことで頭がいっぱいで、ほかのことが頭に入らなかったのか?

 だとしたらこの人、意外とうっかりなのでは?

 現実味を帯びたばかりの脱獄に一抹の不安が過ぎった。


「ちょっちょっとユウリ! どういうことこれ! どういうこと!」

「落ち着いて姉さん。今日、同じ牢屋になってしまったから、一緒につれていくんだ」

「連れて行くって! スケルトンをどうやってよ! どうやって!」

「大丈夫、話は通じるから」


 終始小声でのやり取りをし、姉がこちらをみた。

 なるべくフレンドリーに手を振ってみると、ひっと小さく悲鳴を上げた。

 今日はよく怯えられる日だ。


「じゃじゃじゃじゃ、じゃあ! しようがないから連れていくけど、けど! 足はひっぱらないでよね! ね!」


 そう念押しされてすこしだけ不安な脱獄が幕を開けた。


「まったく、私とユウリに感謝してよね。感謝感謝――って、あいたっ」

「ね、姉さん。気をつけて」


 瓦礫に躓いてすっ転びかけた姿をみて、よけいに不安になるのだった。

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