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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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高位の本気


 火花を散らして燃ゆる太刀筋。幾たびも描かれるそれを、砂の錫杖でなんとか捌く。

 一撃は重く、盛る炎の火力も高い。ガーゴイル・デザートでなければ、たとえサラマンダー・シェルだったとしても、骨まで焼け付いていただろう。いまなんとかこうして対抗できているのは、ガーゴイルの耐性の高さゆえ。

 出会うのが一足早かったら、あの地面に潜行する高位探求者よりも先に見つかっていたら、俺は仕留められていたかも知れない。


「くっ――」


 真正面から振り下ろされた火炎の大剣を錫杖で受け止める。

 骨の髄まで響く衝撃が足から逃げ、地面が割れた。


「こいつは驚いた。なかなか粘るじゃねぇか」

「そいつはっ、どうもっ!」


 割れた地面を踏み砕き、砂に変えて彼を襲う。

 しかし、その攻撃も寸前で悟られ、背後へと飛んで躱される。

 この感じ。

 こちらの攻撃がまったくと言って良いほど通じない、この感覚。まだコボルトやジャックフロストに死に物狂いだった最初のころを思い出してしまう。

 あの頃よりは強くなったし、人間に近づけているはずなのに。まるで程遠く感じてしまうのは、どうしてなんだろう。


「あーあー。嫌になるな、やりづらいったらありゃしねぇ」


 彼はそう口にすると、大剣の火炎を消して地面に突き刺した。


「春野から話は聞いていたが、ホントに殺す気がないときた。殺そうとしてる相手に加減されたのは生まれて初めてだ。屈辱的だねぇ」


 顎髭をなぞりながら、不機嫌そうに彼は言う。


「よし、じゃあ、こうしようじゃあねぇか」


 彼はぽんと手の平を拳で叩く。


「お前、今から全力で逃げろ」

「は?」


 なにを言い出しているんだ? この人。

 俺の油断を誘っているのか? なにかの罠とか?


「安心しろ。クソ忙しい高位探求者がお前みたいなもんのためにぞろぞろ引き連れて来られるかよ。俺一人だ。待ち伏せもないし、罠も仕掛けちゃいねぇ。楽勝だと思ってたからな」

「……信じると思うのか? そんな言葉」


 そんな疑わしい言葉を。


「信じる信じないはお前の勝手だ。だが、俺は今から本気でお前を殺しにかかる」


 瞬間、空気が一変する。

 この場を、ダンジョンを、すべて支配されたかのような感覚に陥ってしまう。

 思わず、片足が後ろに下がった。


「時間はきっかり十分だ。それまで逃げ切れたら俺は追うのを止める」

「な、なんのためにそんなことを」


 そんなまどろっこしいことをする理由がわからない。


「魔物は殺せても人は殺せねぇ。戦意は持っていても殺意は抱けねぇ。なりはスケルトンでも心は人間だ? 面倒なんだよ、お前みたいなのは。こんな俺でも情けを掛けたくなっちまう」


 大剣を引き抜き、肩に担ぐ。


「だから情けを掛けてやる。だが、俺も探求者の端くれだ、ただで見逃してはやれねぇ」


 大剣が激しい炎を身に纏う。


「この十分間、情けも容赦も忘れてお前を殺すことだけに没頭する。逃げ切れたらお前の勝ちだ。逃げ切れなかったら諦めろ。いいな?」


 よくない。と、返事をいう暇すら、彼は与えてくれなかった。


「いくぞ」


 その言葉が言い放たれた直後、すべてがゆっくりに見えた。

 彼の身体がただ俺を殺すためだけに、たったそれだけのために駆動する。その初動を見て、すぐに今まで混淆してきた数多の魔物たちの本能が、――生存本能が、俺に対して最大の警告を発した。

 今すぐ逃げろ、と。


「――ッ」


 地面を踏み砕くほどの勢いで後方へと跳び、同時に石翼を羽ばたいて加速する。

 目指すのはこの空間の出口、通路への入り口だ。出来うる限りの最高速で、この場からの離脱を計る。

 しかし。


「ほら、届いた」


 いつの間にか。そう表現するしかないほど一瞬で、彼は俺の目の前まで迫っていた。

 盛る火炎が鋭く伸びて、大剣の軌道に随伴する。その一閃は鮮やかに闇を照らし、ガーゴイル・デザートを引き裂いた。


「がっ――あぁぁああああッ」


 熱が、火炎が、骨格に届く。黒く焦げ、炭化し、脆く崩れ落ちていく。

 不味い、不味い、不味い、まずい。

 石翼の制御も効かず、錐揉み状に墜落した俺の身体は地面を何度もバウンドする。衝撃で頭が揺れ、焼かれた骨が激しく痛む。けれど、そんな痛みに構っていられない。

 はやく次の手を打たなければ。


「くそっ――」


 大剣で切られ、吹き飛ばされた勢いが消えないうちに、右腕で地面を殴りつけて体勢を無理矢理に整える。石翼をぴんと伸ばし、同時に形態をガーゴイルからヒポグリフに変換。

 全形態で最速のヒポグリフ・フェザーで通路の入り口を目指す。

 十分も逃げられない。それよりはやく彼を振り切らなければ。


「あれが……高位探求者」


 俺より強い人間がいることは百も承知だった。

 実際、美鈴の師匠がそうだった。逆立ちしたって勝てやしない。

 でも、これでも自信くらいはあったんだ。高位探求者が相手でもなんとか戦えるという自負があった。実際に、一度、高位探求者を撃退している。

 けれど、あれはなんだ? あの人はなんなんだ?

 あれは本当に、あの地面に潜行する探求者と、同じ位にいる人なのか?

 そもそも彼は本当に人間なのか。それすら疑わしく思えてしまう。


「そうだ。逃げろ、俺に追いつかれないようにな」


 ともかく、今は逃げの一手だ。

 今は敵わなくても、あと幾つか変異すれば戦えるようになるはず。その時がくるように、今は逃げなくては。

 こんなところでは終われない。なんとしてでも生き残る。

 セリアとの約束を果たすために。

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