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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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透明の火炎


 硝子の大地を駆け抜けて、ガーゴイルに肉薄する。

 その最中、横方向から錫杖の一振りが迫るが、これを軽く跳び越えた。錫杖は硝子の地面を浅く削り、散った破片が煌めいて薄暗闇の中へと溶けていく。

 着地、と同時に炎翼を羽ばたいて加速し、一息にガーゴイルの懐へ。

 そのまま止まることなく突き進み、すれ違い様に脇腹へと一撃を見舞う。炎晶刀の一閃は岩の肌を浅く削っただけに終わったけれど。


「よし、硝子になる」


 無色透明な炎がガーゴイルの肌を硝子に変えた。

 その事実をたしかめ地に足を付けて勢いを殺す。立ち止まって改めてみたガーゴイルは、脇腹だけが透けて、内側の肉が丸見えになっていた。


「砂で再生してたもんな」


 損傷部分を砂で埋めていたのなら、ガーゴイルが身に纏う石の鎧は砂とほとんど変わらない。炎晶刀で燃やせば、その部分は硝子になる。


「ロロロロロロロロッ!」


 怒り、叫び、ガーゴイルから力任せに錫杖が投擲される。

 俺はその場でそれを待ち受け、その先端から末端までを一太刀で斬り裂いて硝子化させた。硝子の棒と化した錫杖は、俺の背後の暗闇で派手な音を鳴らして砕け散った。


「もう何したって無駄だ」


 炎翼を羽ばたいて飛翔する。


「ロロロロロロロロッ」


 対してガーゴイルは飛沫を食んで、高出力の水ブレスを放つ。ただし、俺に向かってではなく、周囲にある壁に向かってだ。この空間の壁は岩で出来ている。それを水ブレスで砕き、粉砕することで、新たに砂を作ることが目的らしい。

 実際にガーゴイルは粉砕した砂を泥水から分離させている。その上で、水ブレスで抉られた壁に深い亀裂が走り、天井にまで達すると幾つもの瓦礫が雪崩のように落ちてきた。

 頭上から落ちる瓦礫の群れ。地上から這い上がる砂の束。

 けれど、そのどちらも今の俺には脅威じゃない。


「――」


 上へと伸ばしたサラマンダーの手の平から、紅蓮の炎を放出する。燃え上がる火柱は雪崩れを呑み込んで、そのすべてを溶かして無力化した。

 同時に、眼下の砂に対しては透明な炎を差し向ける。見えはしないがたしかな熱を持つそれが這い上がる砂の束を硝子に変えた。それはガーゴイルの制御下から離れ、自らの重さに耐えきれずに砕け散り、煌めきの雨となって地面へと降り注いだ。


「ロロロロロロロロッ!」


 煌めきの最中、ガーゴイルの口腔から三度、水ブレスが放たれる。

 しかし、それも所詮は悪足掻き。

 両手に炎晶の魔力を灯し、透明な魔力が息吹きのように馳せる。それは迫りくる水ブレスを瞬く間に蒸発させ、そのままガーゴイルまでもを呑み込んだ。

 岩の肌は硝子に変わり、そのあらゆる属性に対する高い耐性は失われた。

 もはや、この炎晶刀が命に届かない理由はない。


「これで終わりだッ」


 炎翼を羽ばたいて火の粉を散らし、急下降する。目下には硝子化の影響で身動き一つ叶わなくなったガーゴイル。

 下降の勢いを乗せ、雨のように落ち、振り抜いた一刀はガーゴイルのすべてを両断する。瞬間、ガーゴイルを封じ込めていた硝子の檻が瞬く間に血で赤く染め上がった。

 そして、酷く重い音を鳴らして、二つに分かたれた肉体が地に落ちる。

 ガーゴイルはここに命尽きた。


「ふぅ……」


 どうにかこうにか、倒すことが出来た。

 正直、泥の海で炎晶を思いつかなかったら、ガーゴイルを倒せなかったかも知れない。まぁ、その時はその時で最後の手段である精霊に頼っていたのだろうけれど。

 まぁ、とにかく、終わりよければすべてよしだ。


「そう言えば――耕太! 終わったぞ!」


 戦いの最中、耕太たちがどこまで避難したのかわからない。

 だから、こうして大声で名前を呼んでみたのだけれど、返事が聞こえてこない。


「耕太?」


 遠くへ避難したのか。戦いの余波で傷ついてはいないはずだけど。


「ここだよ」


 不意に声がして振り返ると、そこには耕太たちがいた。


「倒してくれたんだな、ガーゴイルを」

「あぁ、なんとかな」

「ありがとう、透。仇を――俺たちの仇を取ってくれて」


 俺たち?

 そう疑問に思ったのも束の間、耕太たちの身体が淡い光を放ち始める。


「ごめん。実は最初から死んでたんだ、俺たち」

「なっ。じゃ、じゃあ」

「ウィル・オ・ウィスプ。つまりは人魂。簡単に言えば幽霊だ」

「幽霊……」


 だから、俺には彼らがはっきりとした形で見えていた。

 同じ、死者だから。


「私たちは普通の探求者には見えないから、あなたにお願いするしかなかったの。ごめんさない」

「でも、お陰で思い残すことなく成仏できそうなんだ。透のお陰でな」


 耕太は曇りのない笑顔で、そう言っていた。


「さて、おしゃべりもこれくらいだな」


 身体から放たれていた淡い光が強さを増し、足の先から姿がなくなっていく。

 彼らはきっとこれから天に昇り、現世から解き放たれるのだろう。俺がいけなかった、あの世にいく。


「最後に頼みがあるんだ、透」

「あぁ、なんでも言ってくれ」

「俺たちの形見を残していく。それを誰か他の探求者に渡してくれると嬉しい」

「わかった。必ず届ける」

「最後まで世話をかけるな」

「いいんだ。そんなこと……」


 そして、耕太たちの姿は跡形もなく消えてしまった。

 その足元には、彼らの形見と思われる得物が落ちている。全部で五つ。

 俺はこれを誰かほかの探求者に渡さなければならない。


「絶対に届けるから、すこし待っててくれ」


 形見にそう告げて、俺は足をガーゴイルに向ける。

 まずはガーゴイルの遺骨を吸収して、もう一段階上にいく。

 耕太たちとの約束を果たすのは、それからだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これから出会う探求者は基本的に自分を狩りにきてる高位探求者なのに、その人達に対して他探求者の遺品を渡すとなると明らかに殺人を犯した扱いになりそうですね。 見逃してくれる確率が激減かぁ……
[一言] 説明臭かったのは、罠じゃなくて別の目的があったからなのかぁ…
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