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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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火炎の結晶


 泥の海から脱出しなければ。

 今一度、魔氷で凍らせてみるか? いや、凍らせたとしても魔氷に不純物が多すぎる。泥に――砂に邪魔されてジャックフロストの能力でも魔氷の中を移動できない。


「だったらっ」


 形態をヒポグリフからシーサーペントへ変換し、水翼を羽ばたく。

 水中飛行。翼は水かきのように働いて、泥の海を高速で泳ぐ。このまま飛翔して脱出を。そう考えたのも束の間、ガーゴイルが追撃の一手を打つ。


「ロロロロロロロロ」


 視界は泥に塗れていて見えないが、ガーゴイルが何かを仕掛けてきたのはわかる。

 視覚が使えないなら、そのほかの感覚で補うしかない。聴覚を研ぎ澄ませて、周囲の音に注意を向ける。海面で波打つ音、取り込まれた空気が湧き上がる音、そして奥深くまで斬り込まれる、鋭い音。

 何か棒状のものが投げ込まれたに違いない。泥の海を貫いているのは槍か?

 いや、違う。ガーゴイルが携えていた錫杖だ。

 もう目と鼻の先にまで来ている。


「――くっ」


 慌てて取った回避行動によって、すぐ傍にまで来ていた錫杖を間一髪で躱す。

 錫杖の装飾が身体を掠めた。一瞬でも回避が遅れていたら、脳天から串刺しになっていた。あり得た未来に背筋が凍る思いをし、躱せたことに安堵する。しかし、そう安心してもいられない。

 泥から分離させた砂で作ったであろう大量の錫杖が、俺を目がけて降り注いだからだ。


「これじゃ、海面に上がれない」


 上昇を諦めて、横方向への回避を試みる。

 幸い、この泥の海はそれなりに広い。シーサーペントの游泳速度と水翼の羽ばたきを合わせれば、避けられないことはない。

 泥の海を掻き分けて、降り注ぐ錫杖の雨を躱し続け、脱出する機会を窺う。

 けれど、何度錫杖を避けてもガーゴイルの攻撃が一時として途切れない。

 まるでこちらの居場所を、常に把握されているみたいだ。とにかく、逃げた先々で錫杖の雨に遭う。

 ガーゴイルは俺の居場所を探るなんらかの方法を持っているのか?


「……考えて見れば、この泥はガーゴイルが作ったものか」


 砂を絶氷で封じ込めたのは俺だが、溶かしたのはガーゴイルだ。泥から砂と水を分離することすらできる。なら、この泥の海すべてがガーゴイルの感知範囲だとしても可笑しくない。上位の魔物なんだ、十分にありえる。

 なら、いくら逃げ回った所で攻撃が途切れることはあり得ない。


「強行突破しかないって訳か」


 すでに各属性の魔眼によるレーザーと、絶氷を撃っている。正直な話、上位の魔物の骨を吸収し、自分自身も上位相当になったとはいえ、これだけの魔力消費は痛い。

 泥の海から抜け出すだけのことに、魔力を裂いている余裕なんてないんだけれど。

 ここから出ない限り勝ち目もなさそうだ。


「でも、それなら……」


 ただで起きるのも癪だ。

 どうせ抜け出すなら、この泥の海ごとどうにかしてやろう。


「必要なのは、炎と……宝石」


 両腕のそれぞれをサラマンダーとカーバンクルに変換する。

 二種の魔力を宝石刀をベースにした紅蓮刀に注ぎ込み、掛け合わせる。

 今までは宝石の器に属性魔力を注ぐだけだった。けれど、今回はその二つを複合させて、更なる能力を得る。


「聞いたことが……あるぞ。硝子の材料は……砂だって」


 ただ砂を燃やせば硝子になる、なんて単純な話ではないけれど。カーバンクルの魔力を織り交ぜれば、燃やしたものを結晶化させられる。


「――複合特性、炎晶を会得しました」


 紅蓮刀から立ちのぼる、無色透明な炎。赤い刀身から弾け飛び、爆ぜ散ったそれは触れた先から泥を蒸発させ、残った砂を硝子に変える。すべての泥を、硝子に変えた。

 不純物のない透明とは行かなくても結晶もどきにはなる。白く濁り、砂色に色付いてはいるが、それはもう砂じゃない。

 泥の海は、この時をもって硝子の大地となった。


「これで、砂は使えない」


 炎晶刀で砂硝子を砕きながら飛翔する。流石のガーゴイルも、この事態は予測してなかったに違いない。追撃は一つもなく、俺はそうしてようやく泥の海から抜け出して、硝子の大地に這い上がった。


「砂を使った再生能力も使えない」


 砂はすべて硝子に変えた。使える砂はこの場には残っていない。


「これでようやく、勝負になる」


 勝機は見えた。

 だが、度重なる魔力消費に加えて、炎晶の維持費も馬鹿にならない。

 このまま、この能力で、戦い抜くしかなさそうだ。


「ロロロロロロロロ」


 ガーゴイルは吼え、硝子の大地に降り立った。

 錫杖を携え、その先端で硝子の大地を砕いている。粉々になっても硝子は硝子だと言うのに。


「そう言えば、耕太たちは無事か?」


 派手に舞台を変えてしまった。その余波が彼らを襲っていないといいが。


「ロロロロロロロロッ!」


 粉々になった硝子が砂として使えないことがはっきりし、ガーゴイルは怒りを露わにする。

 どうやら三人を気に掛けている暇はなさそうだ。無事を祈って、俺は俺の役目を果たそう。


「大した付き合いはないけど、仇は討たせてもらう」


 炎晶刀を構え、硝子の大地を蹴った。

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