魔狼の一群
高位の魔物が跳梁跋扈するエリアにて、周囲の危険度と釣り合いの取れていない中位探求者が三人。重たい空気が流れている様子を影からしばらく眺めていると、不穏な音が響いてくる。
魔物の足跡と、遠吠えだ。
「魔物の声か!?」
「みたいだな」
「ど、どうする?」
近づいてくる魔物は高位のものだと簡単に予想はつく。すぐに逃げる準備をし始めるかと思いきや、三人は魔物の声がしたほうをじっと見ているだけで動こうとしない。
「……応戦する気か?」
中位探求者三人でどうこうできるようには思えないが。
しかし、応戦するにしても得物すら抜かないのはいったい。
「ォオオオオオオオオオッ」
構えも取らないまま、とうとう魔物たちが小規模空間に姿を見せた。
大型の狼のような四足歩行の獣の群れ。身に纏う気配からして、やはり中位探求者の手に負えるような相手とは思えない。
「よ、よし、ゆっくり下がろう」
魔物――魔狼の気迫に気圧されたように、一人がゆっくりと後退る。
「いいのか? ここで下がれば本当に道がわからなくなる。迷うぞ」
「んなこと言ってられるか。見ろよ、目の前のでっかい魔物を」
どうやら完全に迷う事態を避けるために動かなかったらしい。
あわよくば魔狼たちがこの小規模空間に来ないことを祈った。だが、現実はあっさりと見つかってしまっている。
「……しようがない」
もう彼らは魔狼の視界に入っている。ゆっくりとではあるが、追い詰めるように彼らに近づいている。今から走って逃げたところで簡単に追いつかれるのは目に見えている。
だったらもう、俺が出て行くほかにない。
「行くか」
近くに中位探求者がいるから、毒の使用は控えるとして。
毒翼を羽ばたいて勢いよく小規模空間に突入し、彼らの頭上で滞空する。
「なっ、なんだあれ!?」
「骨――スケルトンだと?」
「う、うそっ」
俺の姿を見て驚く中位探求者たちを余所に、魔狼たちは一斉に俺へと視線を向けた。
「グルルルルルルルル」
低くうなり、身を低くして臨戦態勢に入る。
このまま戦うなら、真下の探求者たちが邪魔だな。
「なぁ、そこの三人」
そう話かけると。
「うわっ、しゃべった!?」
一人は盛大に驚き、残りの二人は絶句した。
「悪いけど、下がっててくれるか?」
「え? あ、あぁ、うん、わかった」
動揺からか、素直に言うことを聞いてくれた。口を開けてぽかんとしている二人を連れて、この場から離れてくれた。
「さて、じゃあやろうか」
全身に規則正しく配列された眼球に魔力を流し、数多の属性を宿らせる。
「ウォオオオオオオオオオオオッ」
咆哮と共に地を蹴り、牙を剥きだしにして跳びかかってくる。
その鼻先に手を伸ばして受け止め、毒翼を羽ばたいて勢いを相殺する。同時に力を込めて押し返し、群れの中心へと投げ返す。
「ギャンッ」
甲高い悲鳴を上げて、魔狼が地面に叩き付けられる。横倒しになりながら、それでも直ぐさま体勢を整えた魔狼が見上げて目にするものは、俺の全身に開いた魔眼から放たれる各属性のレーザーだ。
魔力の粒子が集束して一条となり、魔狼たちを追い詰める。
回避を試みるもの、逃げるもの、果敢に挑み掛かるもの。その一切のすべてを区別無く、魔眼は魔狼の動きを捕らえてレーザーは追尾した。
高位探求者を追い詰めた攻撃だ。
魔狼は次々に撃ち抜かれ、燃え、凍てつき、切り刻まれ、溺れ、麻痺に陥る。瞬く間に数が減り、そして最後の一体が撃ち抜かれ、傷口から這うように出てきた魔氷に閉じ込められた。
「ふー」
右手を伸ばして混淆を発動し、骨を魔力にして吸収しながら地面に降りる。
使った分の魔力ぐらいはこれで回収できた。
しかし、これで俺の存在を三人に明かしてしまったわけだけれど。
「うぉおおおおおおおおおおおっ! すげーじゃん!」
意外なことに心配事は杞憂に終わる。
先ほど唖然としていた二人を連れて離れていた彼が、今度は大声を出しながら近づいて来た。かと思えば俺の周りをぐるぐると回り始める。まぁ、珍しいだろうから、仕方なくもあるが。
「まさか、意思を持ったスケルトンがいるとはな」
「それも、めちゃくちゃ強いし……」
遅れて、残りの二人もやってくる。
流石に我を取り戻しているようで、怪訝そうな顔をしている。
「……怖がらないのか?」
「へ?」
「ほら、襲い掛かってきたりとか」
「しないしない、助けてもらったんだから、感謝こそすれ襲い掛かるなんて。なぁ?」
彼は背後の二人にそう問いかける。
二人はすこし悩んだ様子で頷いた。
どうもほかの人と反応が違うと思ったけれど、恐らく彼はあまり細かいことを考えない楽観的な人間らしい。
「とにかく、助けてくれてありがとう」
「あぁ、うん。どういたしまして」
なんだろう。こうしてストレートにお礼を言われるのに慣れない。
「それでさ、助けられついでで悪いんだけど、一個お願いがあるんだ」
「お願い?」
そう聞き返すと、彼は一度後ろの二人に振り返った。
アイコンタクトを取り、頷き合い、そして再び俺と向かい合う。
「仲間の仇を討ってほしいんだ」
彼の口から発せられた言葉は、その性格とは裏腹にひどく重いものだった。




