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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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三種の魔力


 龍と化したオチューは、その息吹すらも再現する。

 燃え盛る龍の息吹が周囲の闇を払い、視界が朱色に染め上がる。それに対して、こちらは紅蓮の息吹で迎え打つ。朱と紅蓮の火炎がぶつかり合って爆ぜ、凄まじい熱風が巻き起こった。


「――」


 爆風の最中、巨大な影が動く。

 それを見逃すことなく炎翼を羽ばたいて上昇すると、爆風を突き破って現れたオチューの突進が真下を通り過ぎていく。

 間近で見据えたオチューの動きは雄大であり、勇ましく、鱗のない本物の龍であるように錯覚する。

 けれど、騙されてはならない。

 再生を司る臓器をすべて潰されたオチューは追い詰められている。龍になろうが、なんになろうが、攻撃すれば命が削れる。

 決して倒せない敵じゃあない。


「ギャァアアアアアアアアァァアアアアアアッ」


 咆哮と共に旋回し、再度、オチューが突っ込んでくる。

 それに合わせてこちらも紅蓮刀を振るう。一振りで数多の炎刃を生み出し、大きな的となったオチューに向けて放つ。

 オチューに対して一番効果的にダメージを与えられる攻撃が炎の属性だった。姿が変わっても弱点は同じのはず。

 弧を描いて迫る炎刃が、オチューを襲う。

 だが、炎刃はその半ばで散ることとなる。


「ギャァアアアアアァアアアアアッ」


 展開されたのは朱色の障壁。自らを包み込むように張られたそれに炎刃は阻まれた。傷一つつけられずに火の粉となって散り、オチューは障壁を張ったまま近づいてくる。


「なにがどうなってっ」


 炎翼を羽ばたいて、回避行動に移った。

 とにかく距離をとり、あの障壁への対処を考える。


「精霊、あれはなんだ?」


 後方から無数に放たれる朱色の炎弾を躱しながら精霊に問う。


「――龍の揺り籠と呼ばれるドラゴンの能力です。あらゆる属性に対応し、高い耐性と耐久を誇ります」

「そんな物まで模倣してるのかよ」


 流石は高位の魔物と言ったところか。これまで戦ってきたどの魔物よりも奇怪で強い。

 龍の揺り籠がある限り、半端な攻撃は通じない。あれを打ち破るには、こちらが持てる最大威力の攻撃を繰り出さなければ。


「やるしかないかっ」


 逃げるのを止め、反転し、オチューに向き直る。

 迫りくる炎弾はすべて紅蓮刀で斬り伏せ、紅蓮刀を構えた。

 刀身に流すのは異なる属性の魔力。選ぶ属性は水と風。刀身が群青と浅葱に染まり、水が雨となり、風が嵐となって吹き荒れる。二種の魔力が混ざり合って逆巻くのは、龍とは異なる竜――竜巻。

 だが、それだけでは終われない。

 二種の魔力へ、更にもう一種の魔力を加える。


「――複合特性、雷霆らいていを会得しました」


 竜が天に昇り、神が鳴く。

 三種の魔力を織り交ぜた雷が刀身に宿り、神々しく純白の光を放つ。

 振るい、放つのは神の残光。雷鳴と共に白に染まる視界は死と終焉をもたらし、瞬く間に去って行く。

 決着は一瞬。純白の視界が漆黒の闇に染まるまでの間に決まる。


「ギャァアア……アァアアァアアア……」


 揺り籠は割れ、その身は分かたれ、迸る白雷の名残が細胞を焦がし続ける。再生を上回る継続ダメージによって、オチューは一撃で限りある再生能力のすべてを駆使し、命を使い果たした。

 龍が落ちる。

 化けの皮は剥がれ、多眼の肉塊へと回帰し、その瞳は光を失った。

 ぐしゃりと濁った水音が響く。オチューはここに絶命した。


「どうにか……なるもんだな……」


 三種合成の複合特性。その消費は二種の比ではない。

 まだ魔力に余裕があったはずなのに、一瞬にして枯渇寸前にまで陥ってしまった。

 これもまた使いどころを考えなくてはならない技だ。気軽に乱発しているとすぐに二度目の死がやってきてしまう。

 だが、なにはともあれ、オチューを、高位の魔物を倒すことができた。


「これでまた一歩近づける」


 オチューのもとに舞い降り、その死体に手を翳す。

 スケルトンの能力、混淆はすべての遺骨を吸収した。

 そして、変異がはじまる。


「う……くぅ……」


 恒例となった苦痛は、これまでのどれよりも重くて強い。

 しかし、その分だけ存在のステージが上昇する。

 全身に生じていた苦痛が終わりを迎えると変異は完了した。


「――オチュー・スケルトンに変異しました」


 結晶鎧に隠れて見えないが、感覚として自身の形状は理解できる。

 全身を覆う魔力が多眼を模し、常に揺れ動き巡っている。不定形でありながらも、それはたしかに人型に留まっていた。そして、それが内包する魔力の質は、高位のものである。


「――オチュー・アイズを会得しました」


 精霊の言葉を聞いて、自身の力の高まりを実感した。


「騎士様……?」


 自身の形状を把握し終わると、ちょうどよく声が聞こえてくる。

 振り返ると、子供の姿に戻ったメイがいた。


「倒した……の?」

「あぁ、そうだよ。これで病気もよくなる」


 そう聞いたメイは――


「やったー!」


 全身を使って喜びを表現した。


「ありがとう! 騎士様! ありがとう!」


 母親を助けるためにメイは怖い思いをしながら戦った。

 その頑張りが報われたのだ。喜びもひとしおだろう。

 吸血鬼の生命力なら毒に侵された母親も助かるはずだ。これ以上、病状が悪化することがないのだから、あとは回復するのみ。時期にメイとも遊べるようになる。


「よし、じゃあ洞窟を出よう」

「うん!」


 そうして俺たちはオチューの死体を置いて洞窟を脱出した。

 地上に出ると、変わらない夜の街が出迎えてくれる。といっても、ここは街外れだけれど。


「これでおかーさんも助かる! 騎士様のお陰!」

「はは、どう致しまして」


 足取り軽く、メイは先を歩く。

 その後ろ姿を見ていると、こちらも嬉しくなってくる。

 けれど、そろそろお別れの時間だ。


「メイ」

「なーに? 騎士様」

「ここでお別れだ」

「え?」


 ぴたりと足が止まり、メイが振り返る。


「用事が済んだから、また別のところへ行かないと」


 いつまでもここにいる訳にはいかない。

 人間に戻るために、更に強い魔物と戦うために、俺は次へと進む。


「……そっか」


 先ほどまでの明るい表情が嘘のように暗くなる。

 一緒にいた時間はとても短いものだったけれど、それなりに懐いていてくれたみたいだ。

 けれど、我が儘を言わないあたり、偉い子だ。そして、強い子だ。


「ねぇ、騎士様。またメイと会ってくれる?」

「あぁ、すぐにとは行かないけど。いつかきっとな」

「えへへ、それならよかった!」


 メイの表情に明るさが戻った。


「じゃあ、またね! ほねほね騎士様!」


 そう言って、メイは吸血鬼の脚力で去って行く。


「ほねほね? ……もしかして、気づかれてた?」


 メイの前で結晶鎧を脱いだことはないし、溶かされた部分も見られるまえに修復していた。バレる要素なんてないはずだけれど。

 けれど、そうか。


「……直感か」


 吸血鬼の直感が、俺の正体を見抜いていた。

 街ですれ違う程度ならわからないかも知れないが、一緒に行動していれば嫌でもバレてしまう。

 メイはそれをわかっていて、ついてきていた。もしかしたら俺の目的――人間に戻ろうとしていることまで勘づいていたかも知れない。……流石に考えすぎか? いや、でも。


「……敵わないな、メイには」


 助ける側だと思っていたのに助けられたり、正体を隠せていたと思ったのに隠せていなかったり。底知れない子だ。


「さて、俺も行こうか」


 再会の約束がまた一つ増え、死ねない理由が多くなる。

 それは恐らく良いことで、だからこそ頑張れる。

 俺の命はもう俺一人の命じゃない。

 気張って、次に進むとしよう。

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