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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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五感の直感


「やぁああああぁああっ!」


 赤黒い血のような色をした蝙蝠の羽根が羽ばたく。飛翔した勢いを乗せて放つ、魔力を帯びた一閃は飛翔個体をたやすく引き裂いた。

 子供とは言え吸血鬼。その戦闘能力の高さは、飛翔個体の戦闘水準を上回っている。

 しかし、上回っているのはそれだけだ。引き裂けた部分から肉体は修復され、瞬く間に完治した。ただの強力な一撃では飛翔個体をどうにもできない。


「メイッ」


 反撃にと、握られた刀が振り下ろされる。

 力任せの乱暴な一撃だ。


「大丈夫っ」


 けれど、メイに慌てた様子はない。吸血鬼としての優れた五感がそうさせるのか、冷静な判断能力を保ったまま対処を行った。

 身を大きく仰け反らせ、裸足の右足を振り上げる。その場で一回転するサマーソルト、その蹴りによって刀を柄頭から弾いてみせた。


「ていっ」


 同時に蝙蝠の羽根を羽ばたいて推進力を生み出し、その勢いのまま赤黒い魔力を帯びた拳で飛翔個体を殴打する。その衝撃は非常に大きく、すぐに壁に叩き付けられた鈍い音がした。


「流石は吸血鬼……」


 肉体的に大人まで成長しているとはいえ、子供がこの戦闘能力を有しているとは。


「っと、感心してる場合じゃないか」


 メイの攻撃は普通なら致命傷だ。でも、オチューから独立した個体は普通ではない。使い切りではあるものの、本体に負けず劣らずの再生能力を有している。壁に叩き付けた程度では、また襲ってくるに違いない。

 次々に繰り出される黒刃を躱しつつ、メイのもとまで羽ばたいた。


「メイ。気をつけろ。あいつはまだ動けるぞ」


 周囲の飛翔個体に注意を払いつつ、注意を促したところ。


「ううん。もう動けないよ」


 そんな返事が帰ってきた。


「動けないって――」


 壁に叩き付けられた飛翔個体に目をやる。

 すると、たしかにその個体は動けなくなっていた。

 内側から突き破るように、棘の数々が身体中のいたるところに生えている。まだ息があり、動こうとはしているものの、棘に動きを阻害され、壁に縫い付けられ、動けなくなっていた。

 それでも無理矢理に拘束から逃れようと、身を引きちぎり、血を流しながら飛翔個体は起き上がる。けれど、そこでついに再生能力が底をつき、ばたりと倒れてしまった。


「ね?」


 メイは嬉しそうに、そう言った。


「あぁ、そうみたいだな」


 メイに返事を返しつつ、その背後から放たれた黒刃に風刃をぶつけて相殺する。

 更に、立て続けに放たれた黒刃を振り向きざまの薙ぎ払いで斬り捨てた。


「本当は頼っちゃいけないないんだろうけど……手伝ってくれるか? メイ」

「――うん! 任せて!」


 背中合わせになって、襲いくる飛翔個体たちを迎え打つ。

 ヒントは得た。メイと同じことをすれば、飛翔個体はどうにかなる。

 その考えのもと、左腕をジャックフロストのそれに変換し、左手に白銀刀を構築する。

 風と氷の二刀流。黒刃とともに迫る飛翔個体に向けて、浅葱刀で風刃を放つ。それで飛翔個体は倒せないが、黒刃の処理はできる。

 単身、一体のみで近づいて来たそいつに向けて、今度は白銀刀を突き放った。


「ギィイィイイィイイ」


 白銀の鋒は冷たく胴体を貫いた。そして、すかさず内部へと冷気を送り込み、いくつものつららを生成する。血で赤く染まった赤氷に皮膚を突き破らせれば、メイと同じように再生能力を奪いながら拘束できる。


「これなら」


 いくつものつららに貫かれ、地に落ちた飛翔個体は藻掻き苦しみながら息絶える。

 恐らくは、生命維持に必要な臓器系を大きく損傷し、それを治すために膨大な魔力を消費するため、なのだろう。

 俺が人間の身体を取り戻すために大量の魔力が必要になるのと同じ原理だ。


「でも……」


 メイと俺で空中を舞い、次々に飛翔個体を落としていく中で思う。

 オチュー本体には力業が通用しない。再生を司る臓器を破壊しないことには、無際限に再生してしまう。長期戦になればこちらが不利だ。飛翔個体の処理もそこそこに、本体への攻撃を再開しなければ。


「メイ! 飛んでる奴は頼んだ。俺は本体を倒しにいく!」

「わかった!」


 飛翔個体の処理を任せ、俺自身はオチューの本体へと舵を切る。

 当然、本体からの攻撃が繰り出されるが、そのどれも対処は可能だ。伸びる触手も、吐き出される酸も、背中の翼に氷の魔力を流し込めば、完璧に対処が叶う。

 氷翼を広げ、巻き起こした凍てつく風は、触手を酸を一瞬にして凍らせて無効化する。

 酸も凍れば溶かせまい。

 そのまま本体への肉薄しながら精霊に改めて問う。


「精霊、臓器の位置はどこだ!?」

「前方、左方向を移動中――」


 逐一、精霊の言葉に耳を傾けつつ、体内で移動を繰り返す臓器を追う。

 そうして何度か臓器潰しを試みるも――


「くそっ、また外した」


 やはりというべきか、外してしまう。

 精霊の言葉を聞いてから攻撃をするのでは遅いのか。

 いや、それを考えてもしようがない。とにかく、攻撃を続けなければ。

 魔力の残量に焦りを覚えながらも、今できることをしようと右手の浅葱刀に魔力を込める。

 そうして精霊の言葉に従い、狙いを定めていく。

 その最中のこと。


「もうちょっと右だよ!」


 精霊ではない、メイの声。

 集中していたこともあって、咄嗟にその指示に従い、浅葱刀を薙ぐ。

 その直後になって――


「――右方向に一メートル移動しました」


 遅れて精霊の言葉が飛ぶ。その内容は奇しくも同じ。

 メイの言葉によって、精霊の判断より一瞬だけ速く動けていた。

 そんな一撃がオチューの体内を貫通した瞬間。


「ギィイイイイイィイヤァァァアァアアアアアァアアアアッ!?」


 明らかに以前とは違う反応が返ってきた。


「まさか?」

「――オチューが有する臓器の一つが消滅しました」


 潰せた。再生の要を一つ、取り除くことができた。


「こんなことって……あるのか」


 結果だけなんだ。精霊が教えてくれるのは常に真実の結果だけだ。

 その性質上、それを誰かに伝えるとき、必ずほんの僅かにタイムラグが起こる。

 だが、メイの吸血鬼としての五感――直感は違う。その精度は精霊ほどではないにしろ、オチューの弱点位置をぴたりと言い当て、その動きすら予知してみせた。

 精霊による確定された結果と、吸血鬼による未確定な予知。

 この場において俺が求めているのは後者のほうだ。

 この一点に限り、メイは精霊を上回っている。

 思えばメイは直感だけで、この洞窟にある分岐すべての正解を当てていた。

 メイを信じれば、オチューの臓器をすべて潰せるかも知れない。


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