表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/164

独立の人型


「分かれ道か……」


 オチューの触手を焼き払い、撤退に追い込んでからしばらく歩いていると、分岐点に差し掛かる。右か左か、先は当然ながら闇で満たされていて、手元の光源だけでは照らせない。


「さて、どっちに行こうか」


 こういう時は精霊に尋ねるのが一番だけれど――


「こっち! こっちだよ、騎士様!」


 自信満々と言った様子で、メイは左のほうを指差した。


「どうしてそっち?」

「そんな気がする!」

「気がするのかー……」


 勘。身体が大人になった子供の勘と言えば信憑性は皆無だが、メイは子供でも吸血鬼だ。人間より五感に優れたヴァンパイアの勘なら、意外と信憑性があるのかも。


「ふーむ」


 そう呟きつつ、左手のジャックフロストに変換。

 足元に小さな魔氷を生やす。


「これなに? わー! つめたーい」


 メイが魔氷に気を取られている隙に、精霊へと言葉を投げる。


「正解のルートを教えてくれ」


 メイに聞こえないように小さな声で。


「――左であっています」

「本当にあってたのか」


 いや、でもたまたまって可能性も。


「騎士様? どうかした?」

「いや、なんでも」


 取り繕い、爪先を左側へと向ける。


「さぁ、行こう。メイが言う通り、左に」

「うん! 分かれ道があったらメイに任せて!」


 メイの勘を頼りにして、洞窟内を進んで行く。


「えーっとねぇ……こっち!」


 分岐点に差し掛かるたびに、メイは勘を働かせた。


「次はぁ……こっち!」


 分岐が三つ四つになっても勘は鈍らず。


「すごいな……」


 すべての分岐路において、メイは正しい道を選んでいた。

 逐一、精霊に確認をしたから間違いない。

 深く考える様子もなく、混じりっけの無い直感で、正解を引き当てている。

 人間の五感では拾いきれない情報を無意識かで処理し、勘という形で現れている。そういうことでいいのだろうか? もしそうなら、恐るべし吸血鬼。


「ふんふんふーん……あっ」


 鼻歌を歌い、大手を振っていたメイがぴたりと止まる。

 それに釣られて俺も足を止めた。


「どうしたんだ?」

「……いる」

「――オチューか」


 しばらく出てこないと思っていたら仕掛けてきたか。


「いっぱいいる。こっちに来てる。前からも、後ろからも」

「挟み打ちか」


 俺にも気配が感じ取れた。

 闇の先で蠢く無数の気配。これらすべてがオチューの触手。想像するだけでおぞましい。それに数が多すぎる。焼き払うにも時間を取られる。挟み打ちとなると、焼けるのは片方だけだな。


「見えた」


 光源に照らされて、無数の触手が現れる。

 それぞれが牙を剥き、奇声を発しながらうねる。

 ミミズの集合体かのような動きには怖気が走った。


「後ろは塞いでおこう」


 左手を後方に向けて翳し、魔氷の壁を迫り上げる。

 洞窟の形に合わせて遮断し、侵攻を防ぐ。

 同時に前方に向けて火の息吹を吹き付けた。


「ギィィイイィィイィイイイイイッ」


 不気味な悲鳴が響き、触手たちは焼き爛れる。

 しかし、やはり数が多い。しかも、今度はオチューも引いてくれない。

 完全に焼却しなければ。


「騎士様! にゅるにゅるが生えてる!」


 にゅるにゅる? と、一瞬、思考が鈍ったが、すぐに触手のことだと理解する。

 目を向ければ足元から、左右の壁から、天井から、新しく触手が伸びようとしていた。

 後方の触手たちが魔氷を迂回してきているのか? ともかく――


「作戦変更っ」

「わっ」


 火の息を止め、メイを抱き抱える。

 そして、全身をジャックフロスト・ボディに変換。

 全方位に向けて冷気を放ち、地面も壁も天井も、焼け爛れた触手たちも、すべてを一瞬にして凍てつかせる。炎で追い払えないのなら、氷で止めてしまうのが一番だ。


「こんなこともできちゃうんだ……」


 氷漬けの世界を見て、メイはぽかんと口を開けていた。

 まぁ、こんな景色を見る機会なんて、そうそうないだろうしな。


「ほら、下ろすぞ」

「あ、はーい」


 ゆっくりとメイを下ろす。


「ひゃー、つめたいっ」


 魔氷の上に立ち、メイははしゃいでいた。


「しかし、どうしたもんか」


 洞窟内ならどこからでも攻撃を仕掛けられるというのは厄介だ。

 オチューは俺たちの居場所を正確に感知しているようだし、末端をいくら削ったところで本体を殺すことはできない。長期戦になると消耗が激しくなるのはこちらのほうだ。

 出来れば早期に決着を付けたいところだけれど。


「――」


 不意に硝子を撃ち砕いたかのような音が鳴る。

 伏せていた視線を持ち上げて正面に向けると、触手の氷像が粉々に打ち砕かれていた。

 撃ち砕いたのはメイではない。氷像の向こう側にいた何者か。

 そう、その誰かは人型をしていた。


「キィイイィィィイイイィィヤァアァアアアァアアアア!」


 四腕に得物を携え、二つ頭が交互に叫ぶ。その身体は爛れたように赤黒く、顔と呼べるほど上等な面相はない。溶けきっていて大小不揃いな牙の並びが露出しているのみだ。全身を覆う皮膚からは血が滲み、歩くたびに耳障りな水音が鳴る。

 その登場はさながらホラーゲームのようだった。


「な、なにあれっ、こわい」


 活発なメイもあの魔物には怖じ気づくようで、身を隠すように俺の背後へと回る。

 無理もない。俺だってあんな奴の相手はしたくない。


「いったいなんなんだ、あれは」

「――オチューの捕食器官の一種です。本体と完全に独立し、エサとなる得物を仕留めて本体に回帰します。戦闘能力は中位相当です」

「もはや、なんでもありだな」


 どういう進化の過程を経ればそうなるのか。

 いや、今更か。


「騎士様?」


 不安そうな声が後ろから届く。


「大丈夫だ。俺がなんとかする」

「うん……」


 背後は魔氷で封じてある。目の前のあの人型を通さなければ、メイは一先ず安心だ。


「さて、どう戦ったもんかな」


 白銀刀を構築し、構えをとる。有効な属性は火と氷が確定、ほかにもあるだろうか。

 オチューから――その末端や独立個体から受ける印象は、ひたすらに不気味だということ。得体が知れず、気味が悪い。次になにをしでかしてくるか、正直見当がつかない。

 それでも人型が俺の前に立ち塞がるなら、斬り伏せて押し通るしかない。

 力尽くになろうとも、道を開けてもらおう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作を始めました。こちらからどうぞ。魔法学園の隠れスピードスターを生徒たちは誰も知らない
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ