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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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雷翼の出立


「じゃあ、いくぞ」


 沈黙した施設の暗闇に紫電がかける。

 機器に命を吹き込んだ雷撃は照明の明かりとなって暗闇を払う。

 クローン施設は再起動した。


「よーし! いくわよ!」


 リーゼは即座に目の前にある機械端末に術式を描く。

 それはこのクローン施設を制御するためのもの――だと思われるもの。それらしいものが、これしか見つからなかった。


「どれくらい掛かりそうだ?」

「流石にっ、ちょっと複雑かも……結構かかっちゃうわね」


 忙しなく術式を描き上げては制御端末の操作を試みている。

 手に握られた銀のペンはまるで踊っているようだった。


「わかった。クローンは俺に任せてくれ」

「お願いっ!」


 リーゼの返事と時を同じくして、遠くから魔物の遠吠えが響く。

 大きな音のように木霊する幾つもの足跡も振動とともに聞こえてきた。

 ここが見つかるのも時間の問題だ。

 しかし、俺も無策でここに立っているわけじゃない。

 俺は改めて紫電を放っていた。

 周囲に並べた無数の遺物たちに命を吹き込んでいた。


「――ギギ――ギギ――ギギギ」


 一斉に再起動した遺物たちが、壁越しにクローンの存在を検知し、自動で迎撃に向かう。

 紫電による遺物操作は上手くいったようだ。これで制御端末も操れればよかったのだが、雷撃は大味なもので繊細な作業は向いていない。壊してしまうリスクが高くて、結局リーゼに任せることになった。

 俺は遺物を操って迫りくるクローンを相手する係りだ。


「うまくいきそうか?」

「うまくやって見せるわ。ドワーフの今後が左右されかねないんだから!」


 クローン施設。それは短い間隔で大量の魔物クローンを生み出す古代の遺物だ。

 仕組みはリーゼでも解析不能、というか見当も付かないそうだ。

 紫電によって無理矢理再起動した所為か、暴走したようにクローンを生み出し続けているが、これの再設定を行うことが出来れば優秀な食糧源になる。

 サンダーバードが倒れた今、食糧事情を脅かす存在はいない。

 クローン施設の運用が可能となれば、これまでの食糧危機を一気に解消できる。

 だからこうしてリーゼは必死になって術式を描き、クローン施設をドワーフの制御下に置こうとしていた。


「おっと、お出ましか」


 この空間の鉄扉が乱暴にこじ開けられ、クローンが何体も雪崩れ込んでいる。

 それを護衛用に残しておいた遺物たちが迎え打ち、周囲は一気に血なまぐさくなる。

 基本的には遺物が優性にクローンを狩れている。銀色の装甲と電磁バリアには牙も爪も通らない。

 しかし、数が数だ。際限なく湧いてでてくるクローンすべてを対処するには、絶対的な数の差があって難しい。

 案の定、隙間をすり抜けて何体かのクローンがこちらに迫る。


「なるべく、はやく頼むぞ」

「わかってる。なるべくね、なるべく!」


 あれは相当かかりそうだ。


「よし、こい!」


 左手に貯めた魔力を紫電として放ち、クローンを感電させる。

 麻痺して動けなくなったところを紫紺刀の雷刃で仕留めにかかる。

 動けない相手を一方的に攻撃するのは気が引けるが、後ろのリーゼを守るためだ。手段は選ばず、効率的に処理をしていこう。


「指示リストの再設定……生産量を調整して……速度にも……あぁ、でも、こうするとこっちが……種族設定!? えーっとぉ……」

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫よっ! 順調よ、順調!」


 とてもそんな風には見えないが、まだしばらく掛かりそうだった。

 それからしばらくが経ち、クローンの死体の山が積み上がったころ。


「――お、終わったわ……」


 ようやく銀のペンが動きを止めた。


「これで設定完了よ!」


 再設定された内容が過去のデータを上書きし、クローン施設は正常に停止して周囲が暗闇に包まれる。そして直後に再起動して再び照明が明るい光をはなった。

 これでクローン施設は完全にドワーフの支配下、管理下に落ちた。


「ずいぶん遅かったんじゃないか?」

「そ、そんなことないわよぉ。すっごく急いだんだから」


 リーゼは頬を膨らませた。


「はは、悪かったよ。さぁ、あとは残党狩りだけだ。ちゃちゃっと終わらせちまおう」


 大量の遺物たちを動員し、虱潰しに施設内を巡らせる。

 総出を上げての大掃除に、クローンの残党はみるみるうちに姿を消した。

 これで当面の大きな問題は解決したと言っていいはずだ。


「お疲れさまぁ」

「あぁ、お疲れ」


 俺たちはハイタッチを交わす。

 まぁ、身長差の関係で低めの位置にリーゼが跳ぶような形になりはしたが、ぱちんと乾いた音が施設内に木霊した。


「これで俺もお役御免だな」


 ここでやり残したことはもうない。

 リーゼをイーエスまで送り届けたら、そのままさようならだ。

 ドワーフの街に戻る理由もないことだしな。戻ったら戻ったで、俺はまた魔物として住民に不安を与えてしまうだろうし。


「もう行っちゃうの? 残念ね。まだ何もわかってないのに。あなたのこと」

「まぁ、複雑で説明しづらいことも多いからな」


 かなりややこしいことになっている。

 幾つもの魔物の特性を有しているスケルトンなんて、そうそういないはずだ。

 加えて、人間にも目をつけられている。


「サンダーバードを倒した英雄がスケルトンでした、なんて街の皆は信じるかしら?」

「さぁな……というか、英雄は止めてくれ」

「あら、いいじゃない。事実なんだし」


 なんか、このやり取りを前にもやった気がする。


「まぁ、でも流石にスケルトンが、とは言えないわね。どうしたものかしら」

「あー……じゃあさ。俺のことは人間ってことにしておいてくれ。ドワーフに協力した人間ってな。いつかはそうなる予定だからさ」

「そうなの? へぇ……」


 意味深な言葉を言って、リーゼはゆっくりと俺の回りを歩く。


「人間だったころのあなたは――いいえ、人間に戻ったあなたは、ね。いったいどんな姿なのかしら? 興味深いわね」

「それなら人間に戻ったらここにもう一度、立ち寄るよ」


 リーゼには世話になったしな。


「それはいいわね! じゃあ、その時は街を上げて歓迎するわ。英雄の凱旋ってね」

「また……」

「ふふふっ」


 どこか楽しげに笑みを浮かべるリーゼに毒気を抜かれてしまう。

 セリアの時も結局、英雄ということにされてしまったし、今回もなし崩し的にそうなるんだろうな、というのがたやすく想像できてしまう。

 過分な評価をいただいて、当人としては気が重い限りだ。


「じゃあ、戻りましょうか。頼んだわよ」

「あぁ、しっかり捕まっていてくれ」


 リーゼを抱え上げて飛翔する。施設内を優雅に飛び回り、外へと抜け出すとそのままイーエスへと向かう。歩きでは丸二日ほどかかる距離でも、空から向かえばひとっ飛びだ。

 リーゼと他愛もない話をしていればいつの間にかたどり着いている。


「――おお、戻ったか。どうだった?」


 まだほんのりと酒の匂いがするラシルドは、けれど至極真面目な顔つきでリーゼに問う。


「ばっちりよ。クローン施設は制御可能! これで輸送方法さえどうにかすれば食糧問題は解決よ!」

「でかした! でかしたぞ、リーゼ!」


 吉報を聞いて、ラシルドを含めたドワーフたちが歓喜する。

 それこそまた宴でもはじめてしまいかねない大騒ぎだった。


「……」


 そんな光景を見て、一歩後ろへと身を引いた。

 俺の役目はもうない。


「トオルくん?」


 そんな俺にリーゼは気がついてくれた。


「……そう、行っちゃうのね」

「あぁ、次に進まないといけないからさ。ここでさよならだ」


 そう伝えると、さっきまで騒いでいたドワーフたちが静まり変える。


「そうか、これでお別れか」

「また来いよ! 待ってるぜ!」

「今度、うまい飯を食わせてやっからな」

「サンダーバードを倒した時のこと、聞かせてくれよな」

「あんたと一緒に戦えたことを誇りに思う」

「子供にあんたのことを話そうと思うんだ。ちょっとだけ改変してな」


 口々に明るい別れの言葉が告げられる。


「まさかこういうことになるとはなぁ」


 最後にラシルドが口を開く。


「あの時、トオルに助けられてなきゃどうなってたことか。いやはや、人生ってのはわからねぇもんだなぁ! あっはっは!」


 いつも通りに盛大にラシルドは笑った。


「約束、忘れないでよね」

「あぁ、人間に戻ったらまた顔を見せにくる。楽しみにしててくれ」


 そう言って雷翼を伸ばして飛翔する。

 舞い上がり、見下ろした地上ではみんなが手を振ってくれていた。


「ははっ」


 それに手を振り返し、勢いよく雷翼を羽ばたいてイーエスをあとにした。

 別れはいつも寂しいものだ。ドワーフは特に賑やかだったから、よけいに。

 でも、俺は次に進まなくちゃいけない。

 またリーゼたちに会えるように次の獲物を狩りに行こう。

 新たな力を身に宿して。

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