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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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機械の魔獣


「トオルくん!」


 岩肌の空を見上げることしばらく、遠くからリーゼの声が聞こえてくる。

 次第に馬の蹄が石畳を蹴る音もして、その小柄な姿が見えてきた。

 たった一人、操雷槍を背負い、駆け寄ってくる。

 護衛のいない単身なのは、槍の名手としての実力からか、もしくは護衛に人が割けないほど戦況が悪いのか。

 ともかく、リーゼは俺のもとへとやってきた。


「本当に鹵獲できたのね。それも……ほとんど損傷がない」


 馬上から地を這う機械獣を見て、地上へと下りる。

 その足で俺の側にまで駆け寄り――


「ありがとう! よくやってくれたわ! 愛してる!」


 そう言って、リーゼは俺に抱きついた。


「お、おう。どう致しまして」


 日本人には馴染みのない、オーバーな感謝の仕方にすこし戸惑う。

 気軽に愛してるなんて言葉が出てくるあたり、国民性というか、界民性というか、そういったものの違いを如実に感じてしまう。

 そんな俺の様子など意にも介さず、リーゼは次に機械獣へと近づいた。


「ふんふん……なるほど」


 沈黙した機械獣を眺め、何度か頷く。


「うん……これなら……」


 そうしてリーゼの中で確信が抱かれた。


「あとは私に任せて! 必ず、動かしてみせるから!」


 力強い言葉での宣言がなされ、リーゼはすぐに調整に取りかかる。

 まずは最寄りの右前脚から。

 腰に提げた雑嚢からいくつかの器具を取り出し、操雷を調整していく。

 その眼差しは真剣そのもので、すでに周囲のことは目に入っていないのだろう。

 この中央広場に押し寄せる銀色の一団にも無反応だ。


「次の役目は、敵を近づけさせないことだな」


 機械獣が沈黙したからか。

 はたまたリーゼを追ってきたからか。

 ラシルドが張った防衛線をすり抜けて、幾体かの遺物が中央広場にたどり着いている。

 まだ数は少数だ。

 ラシルドもまだどうにか戦線を維持していることだろう。

 それが崩壊する前に、調整を終わらせなくてはならない。

 俺にできることは、リーゼの邪魔をさせないことだ。


「あとすこしだけ、持ちこたえてくれ」


 そう祈りながら、右手に透明刀を握る。


「包囲、構築、展開、始動」


 詠唱し、魔法を顕現する。


「四方結界」


 迫り上がる光の壁が、機械獣の四方を取り囲む。

 これで遠距離からの虹霓砲にも対処できる。

 四方結界は物理的な衝撃に弱いが、なら近づけさせなければいい。

 有象無象の遺物たちに実弾兵器など実装されてはいない。

 俺自身が下手を打たない限り、四方結界は砕けないはずだ。


「責任重大だ」


 今に限った話ではないが。


「来るなら来い。片っ端からスクラップにしてやる」


 この言葉を真に受けたわけではないだろう。

 だが、挑発に乗るように遺物たちは砲門を輝かせ、虹色の閃光を撃ち放つ。

 四方八方から迫る虹色は、その大半が四方結界に阻まれ、少数が石畳を融解させる。

 この身には掠りもしていない。

 軌道を読み、躱しきり、駆け抜けて、遺物たちへと透明刀を振り上げる。


「まず一つ」


 電磁バリアも持たない機械兵を、透明の一刀が真っ二つに斬り裂いた。

 二つに分かたれた遺物は火花を散らし、悲鳴のようなノイズを叫んで倒れ伏す。

 機能が停止し鉄の塊となったそれを一瞥し、視線を正面へと向ける。


「次はどいつだ」


 ヒポグリフの強靱な脚力と飛翔能力から生み出される機動力は、遺物の追随を許さない。

 広場を縦横無尽に駆け巡り、次々と遺物を排除していく。

 鹵獲を前提としない戦いは、気を遣わなくて言い分、随分とやりやすくて気が楽だ。

 一刀一殺。

 リーゼに近寄る遺物たちを一太刀で斬り伏せながら時は流れ。

 そうして――


「これで、よし! 完成よ!」


 紫紺刀の一閃が数十体目となる機械兵を両断したころ、時はきた。

 そのためだけに特別に調整された操雷が紫電を迸らせ、指揮系統を掌握する。

 サンダーバードの支配下から脱し、リーゼの手に落ちた機械獣は、ゆっくりと物々しく立ち上がる。

 その背にいるリーゼは、随分と満足そうな表情をしていた。


「なら、こいつはもう必要ないな」


 指を弾いて、四方結界を解除した。

 細かな破片となって光の壁は砕け散り、機械獣は自由の身となる。

 鋼鉄の猛獣が、いま檻より解き放たれた。


「よっと」


 機械獣から降りたリーゼが、足早にこちらへと駆けよってくる。


「トオルくん! 私を空まで連れてって!」


 そのまま飛びつき、魔力の羽毛にその小さな身体を埋めた。


「あ、あぁ」


 意図はよくわからないが、リーゼを抱えて飛翔する。

 中央広場の上空に立ち、俯瞰視点から機械獣を見下ろした。


「うんうん、よく見えるわ。じゃあ、早速、あの子に働いてもらおうかしら!」


 腕の中で、リーゼは魔導器を操作する。

 直後、機械獣は指令を受け取ったように天へと吼えた。

 そうして左右のブレードを広げ、中央の一振りを突きに構える。

 駆け出し、広間にまだ残る遺物たちへと襲い掛かった。


「――」

「キキ――キ――」


 雄大なる大地を駆け抜ける獣のごとく、機械獣は馳せた。

 標的を見定め、ひた走り、ブレードをもって確実に対象を両断する。

 当然、機械獣の攻撃はこれだけに終わらない。

 身体中に装備された銃口、砲門が火を噴いて周囲にいるすべての遺物を破壊した。

 中央広場は瞬く間に火の海と化し、数多の遺物が残骸となって火色に染まる。

 その最中にあって機械獣は高らかに吼えた。

 その様はさながら百獣の王であった。


「凄いわ! 圧倒的じゃない!」


 機械獣の性能にリーゼはご満悦な様子だった。

 見たところ、挙動に不自然な点も見当たらない。

 流石はリーゼと言ったところで、操雷の調整にも問題はないようだ。


「これで戦況は覆るわ! 頑張ってるお父さんも助けられる!」


 恐らく、このイーエスに機械獣より優れた遺物は存在しない。

 航空戦力もすでに壊滅済みだ。

 あとはこの機械獣に任せておけばイーエスは奪還できる。


「さぁ! 反撃開始と行こうじゃない!」


 リーゼが魔導器を操作し、三度、機械獣が吼える。

 その巨躯と馬力を生かし残骸を華麗に躱しながら中央広場を後にする。

 まるで銀色の風のように駆け抜ける機械獣が向かう先は、ラシルドが張った防衛線。

 瞬く間に機械獣は前線へ。

 陣形を組んで押し寄せる遺物をはね除けているドワーフたちの上空を――


「な、なんだっ!」

「獣が……跳んでる……」


 その強靱な脚力をもって飛び越えた。

 着地と同時に鋼鉄の爪が虚空を引き裂いて落ちる。

 着地地点にいた不幸な遺物を叩ききった。

 五等分に引き裂けた銀色の装甲が爆ぜ、機械獣は己の存在をドワーフたちに知らしめた。


「やったのか、トオル!」


 駆ける。駆ける。

 一度として止まることなく、ブレードが遺物たちを両断する。

 鋼鉄の爪が機械竜の喉元を食い千切り、同じく鋼鉄の爪が機械熊を貫いた。

 鉛玉の弾幕は銀色の装甲を粉々になるまで撃ち砕き、弾頭の雨は蠢く銀色の群れを更地に変える。

 向かうところ敵無し。

 まさに一騎当千の働きで、防衛線にべっとりと貼り付いた遺物を排除していく。


「面白いくらい……減っていくな」


 機械獣の快進撃を上空から見下ろして唖然とする。

 元々、ほかの遺物とは一線を画すと推測していたけれど。

 まさかこれほど他とスペックに差があるとは思わなかった。


「よくあれを完璧な状態で鹵獲できたわね……トオルくん」

「まぁ……それなりに苦労したからな」


 そんな会話をしているうちに、機械獣は中央広場の周囲をぐるりと一周する。

 イーエスに斬り込んだドワーフ軍を襲っていた遺物の主力は、たった一体の機械獣によって壊滅に追いやられた。

 防衛戦の陣形を取っていたドワーフたちの前には、もの言わぬ鉄くずと化した遺物が積み上がっている。

 先ほどまでの劣勢は嘘のように消えてなくなり、そして勝利は揺るぎのないものへと変わった。

 残すはイーエスの内部にちらほらと点在する僅かな残党のみ。

 もはやここから負ける要素など何一つありはしなかった。


「――全軍、突撃! このイーエスから遺物どもを叩き出せ! 俺たちのイーエスを取り戻せ!」


 空が割れるかのような雄叫びが轟き、ドワーフたちは突撃する。

 波状に広がる戦線はイーエスから敵の姿を消していく。

 その勢いは留まることなく果てまで届き、すべての遺物が掃討された。

 打ち捨てられた銀色のスクラップが、人工太陽の光を反射して煌めいている。

 その絢爛な光景は、ドワーフの勝利を祝福しているかのようだった。


「勝ち鬨をあげろ! 今までにないくらい、盛大な奴をだ!」


 揺るぎのない勝利は戦士たちの勝ち鬨に乗って訪れた。


「なんだか……まだ実感が湧かないわ」


 勝ち鬨に耳を傾けながらリーゼは呟くように言う。

 長年の願いが、積年の執念が、一部ではあれど成就した。

 イーエスの奪還は大きな足がかりとなり、次の一歩は確実にサンダーバードを捉える。

 頓挫していた計画が軌道に乗って破竹の勢いで進んでいる。

 現時点でその実感がわかないのも、しようがないことだった。


「私たち……やったのよね。何度も失敗したイーエスの奪還を……成し遂げたのよね。ようやく……」


 奪還したイーエスを見下ろして、リーゼは万感の思いを込めて言葉を紡ぐ。

 遅れてじわじわとやってくる実感を噛み締めるように、その拳が強く握り締められる。

 ドワーフの悲願。

 サンダーバードの討伐。

 すぐそこまで迫った成就にあらゆる感情が錯綜していることだろう。

 そして――


「こうしちゃいられないわ!」


 いつも通りのリーゼに戻った。


「私を下ろして、トオルくん! 壊れた遺物の修理に操雷のメンテ。機械獣の改造に、やることは山ほどあるわ!」

「大変そうだな、やることがたくさんあって」

「えぇ、そうね。でも、やりがいのあることよ。私の手でドワーフの未来を切り開くんだから!」


 腕の中から届く声には煌めいたものを感じる。

 ドワーフとして、技術者として、なすべきことを見据えられている証拠だ。

 地上に降りて、ラシルドのもとへと行こう。

 きっとラシルドは今頃、大喜びを――


「そうだ」

「え? どうかしたの? トオルくん」

「いや、ちょっとな」


 閃いたちょっとした悪戯心。

 それを隠すように曖昧な返事をして、両翼を大きく広げる。


「よーし! しっかり捕まってろよ!」


 そして力強く羽ばたいて地上へと急下降する。


「ちょっ、ちょっとぉおお!」


 さながらジェットコースターだ。

 恐らくは未体験であろう感覚に、リーゼは魔力の羽毛を握り締める。

 自らを襲う浮遊感を堪えるように、目を閉じて歯を噛み締めている。

 その様子を悪趣味ながら面白く思いつつ、一息に地上まで降り立った。


「っと――とと。な、なかなかスリリングだったわね」


 地上に降りたリーゼは、繕うように大人びた言動をとる。

 しかしてその両足はがくがくと震えていた。

 だからこそ――リーゼは避けられなかったのだ。


「リーゼ! トオル! よくやったぞ!」


 ラシルドによる、熱い抱擁を。


「く、くるしいわ! お父さん!」

「よくやってくれたなぁ! 流石は俺の娘だ!」

「き、聞いてないし!」


 こうなることを予知していた俺は、ラシルドの逞しい腕から逃れていた。

 空で俺が思い描いていた通り、親子の微笑ましい一場面を見ることが出来た。


「ふー……」


 ほっと息をはく。

 抱擁から逃れられたことに――では、ない。

 すべてが終わったわけではないにしろ、大きく前進できたことに、だ。

 次はいよいよサンダーバードにまで足を進める。

 ドワーフの悲願のため、なにより俺自身の目的のため。

 最後までドワーフたちに付き合おう。

 いや、俺に付き合ってもらう、かな。


「ちょっと、トオルくん! 見てないで助けなさいよ! もー!」


 リーゼの悲鳴が聞こえてくる。

 そろそろ助け船を出そうかな。

 もうすこし見ていたい気もするが、まぁ助けにいこうか。

 そう決めて、くすくすと笑いながらラシルドへと近づく。

 そのあと無事にリーゼはラシルドの抱擁から解放された。

 あの時のちょっとした仕返しは無事に成功した。

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