拠点の中央
五色の閃が虚空を引き裂いて馳せる。
過程にある黒銀の機械鳥にそのうちの四つが止められた。
だが、残りの一つ。
白銀の閃だけがバリアを引き裂いて本体を断つ。
黒銀が凍てついて、黒煙を噴くこともなく落ちていく。
あと十体。
「次だ」
次の獲物をへと向かおうとした刹那、視界の端で虹色が光る。
反射的に手に握っていた紅蓮刀を薙ぎ払い、虹霓砲の射撃にぶつけた。
「――くっ」
もともと、この紅蓮刀には亀裂が走っている。
入れ物となる宝石の魔力が、属性を染め直したことで劣化しているからだ。
同じ属性ならまだしも、まったくことなる属性にした負荷が亀裂を生んでいる。
ゆえに耐久性が落ち、振り抜いて虹霓砲を弾いた瞬間、紅蓮刀も砕け散ってしまう。
「まだ慣れないな」
魔法ではなく刀を振ってしまった。
無詠唱の二天城壁なら砕け散る末路は同じでも、紅蓮刀を残せたのに。
今後の課題が浮き彫りになった。
「反省は生かさないとっ」
視界の各所で光る虹色を認識して、無詠唱で魔法を発現する。
斜線上に光の壁を配置し、その隙間を縫うように飛ぶ。
虹霓砲のことごとくは光の壁とともに砕け散り、すり抜けた俺はすでに次の標的を間合いに捉えていた。
「これで一桁っ」
獣爪を薙ぐ感覚で片手を振るい、それに五色の閃が追従する。
直接、手で握ってはおらず、宙に浮かぶ五閃。
それが生み出すリーチははるかに長く、それを振るえば確実に機械鳥を断ち斬った。
白銀刀が機能を凍結させ、群青刀が回路をショートさせ、紅蓮刀が装甲を融かし、浅葱刀が内部をズタズタにし、紫紺刀が行動を狂わせる。
雷撃を放ってから十数分。
地上への援護が遅れて十数分。
五色の太刀筋が閃いて最後の一体を撃墜する。
「――くそっ、手間取ったっ」
十数分の遅れはかなり痛い。
「地上は――」
航空戦力の殲滅を確認して、すぐに地上へと目を向ける。
まず目に入るのがリーゼが展開する電磁バリアだ。
撃墜した機械鳥の残骸も、あれに弾かれて被害は出ていない。
しかし、流石は重要拠点イーエスと言うべきか、電磁バリアを持った遺物が多い。
ただの機械兵が電磁バリアの周囲に群がっているが、その内部も混戦を極めている。
操雷で操る遺物と、サンダーバードに操られた遺物。
双方が互いを破壊し合い、その隙間をドワーフが埋めている。
けれど、押し負けてはいない。
ドワーフの戦士が放つ操雷手裏剣がデカブツに突き刺さり、僅かにだが動きが止まる。
その隙に味方の遺物が攻め入って薙ぎ倒し、すかさず操雷槍が突き放たれている。
操雷の消費は激しいが、イーエスに切り込めてはいた。
「急がないとっ」
力強く羽ばたいて急降下。
隕石になったような気分で風を切る。
ぐんぐん近くなる地上。
銀色の蠢きだった機械兵の群れが、一つ一つ輪郭を帯びてくる。
黒銀個体は見受けられない。
やはり急造品であの十数体しかいないみたいだ。
「まずはこいつらからだっ」
電磁バリアの周囲に群がる機械兵たち。
彼らに向けてサラマンダーの火炎を吐く。
草原に燃え広がる火のごとく、それは機械兵たちを呑んだ。
爆発音が連鎖的に鳴り響き、次々に機能を停止していく。
一網打尽。
ようやく成し遂げられたそれに思わず安堵の息を吐く。
「――トオルくん! 空は終わったの!」
そうしているとリーゼから通信が入った。
爆発音が耳に入ったみたいだ
「あぁ、なんとかなった」
「よかった! なら、早速だけどこっちを手伝ってもらうわよ!」
その言葉と共にドワーフを守っていた電磁バリアが解かれる。
多くの遺物たちの脅威に晒されることになるが、これで俺からも手が出せるようになった。
「任せとけ!」
大きく翼を広げて羽ばたき、道を切り開くべく紫紺刀を振るう。
すれ違い様に機械竜の首を刎ね、旋回して次の獲物に刃を向ける。
電磁バリアをもつ遺物は、どれも大きいのが特徴だ。
お陰で的を絞りやすくて戦いやすい。
「デカいのはトオルに任せろ! 俺たちは向かってくる奴らを叩くぞ!」
ラシルドの指示が響き渡り、ドワーフの戦士たちは標的を変える。
居場所は敵拠点のど真ん中。掃いて捨てるほど遺物がいる。
まだまだ戦いは終わらない。
近場の遺物を殲滅し終えると、ドワーフたちは直ぐさま進軍を再開した。
「もうすこしで中央広場だ! このまま斬り込め!」
怒濤のごとく押し寄せる遺物たちを引き裂いてイーエスを駆け抜ける。
上空からの雷撃が遺物たちを貫き、撃ち漏らしをドワーフたちが叩く。
操雷を突き刺し、大斧で切断し、大鎚で打ち砕く。
操られた機械竜の虹霓砲が血路を拓くように触れるものすべてを融解させる。
全力を持って切り開かれた道は、まっすぐに中央にまで続いていた。
そうして俺たちは目的地である中央広場にたどり着く。
「――いた!」
イーエスの中央。
朽ち果てた石畳の広場。
瓦礫がいたるところに散乱し、所々には深い亀裂が走っている。
機械獣はその中央に座していた。
数多の砲門、巨大なブレード、ほかにも数多の武装を施された特別個体。
サンダーバードが用意した、イーエスの守護者。
奴は俺たちの存在を感知すると、ゆっくりと立ち上がる。
鋼鉄の爪が石畳に食い込み、しなる尾が瓦礫を粉々に打ち壊す。
そして天に向かい、高らかに吼える。
「――」
その様は獅子のようにも、虎のようにも見えた。
「ここからは――」
リーゼから通信が入る。
「いいえ、ここからも、あなたが頼りよ」
「……あぁ、頼りにしてくれ」
あの機械獣に操雷を五つ突き立てる。
そのための操雷もヒポグリフ・フェザーにしまってある。
隙を見て各所に突き立てれば、機械獣は機能を停止するはずだ。
そこからはリーゼの仕事。
まずは俺がそこまで状況を持っていく。
今後のことを考えると機械獣を下手に傷つけることもできないが、まぁなんとかしよう。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
両翼で羽ばたいて、機械獣へと突貫する。
「ここからが本番だ! いいか! この広場にネズミ一匹通すんじゃねーぞ!」
後方でラシルドの大声が響き、それに背中を押されるように前進する。
数秒と掛からず、距離は縮み、間合いが埋まる。
機械獣は飛来する俺に向けて、背負ったブレードの一本を差し向ける。
鋭い一振りが迫る中、こちらも自慢の一刀を振るう。
銀色の刃と紫紺の刃が交差し、銅鑼が打ち鳴らされた。




