黒銀の遺物
イーエスを目指しての進軍は常に攻められる側だった。
けれど、今回はこちらが攻める側だ。
そのこともあって俺の雷弓による奇襲をもって開幕の合図とすることとなった。
相手は遺物であり、機械である。
たとえ奇襲を成功させたとして、それほど効果は見込めない。
地上軍の正面突破を援護するためにも、航空戦力はできるだけ早く殲滅しなければならなかった。
責任は重大だが、これまで通りにすれば奇襲は成功するはずだ。
「いよいよね」
奪還作戦の開始時刻が迫る中でリーゼは言う。
流石に緊張しているようで普段よりも声がすこしだけ高い。
「通信機は持った?」
「あぁ、いつでも使えるようにしてある」
今回の作戦は連携が重要だ。
たとえ乗っ取られる危険があったとしても使用せざるを得ない。
あまり長くは使えないので、要所要所で手短に使うことになる。
「いいか、お前ら! 雷鳴が合図だ! 一息にイーエスに乗り込むぞ!」
ラシルドの力強い言葉に、戦士たちは雄叫びを上げる。
士気は十分。操雷で操る遺物たちにも問題はない。
準備は整い、そして時はくる。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
両翼を広げて飛翔し、俺たちを隠していた丘陵を越える。
視界に広がるのは、映像で何度もみた光景。
朽ち果てた廃拠点イーエスと、そこをねぐらとする数多の遺物たち。
上空にまで舞い上がった俺は、携えた雷弓を構えて魔力の矢をつがえる。
定める照準は、イーエス上空を旋回している機械鳥の群れ。
雷弓から色が失われ、雷の魔力が矢に集う。
「開幕だ!」
雷鳴が轟き、放たれた矢は一条の雷となって馳せた。
無数に枝分かれした雷撃が機械鳥を射抜き、残骸が黒煙を引いて落ちていく。
これでイーエスの航空戦力は壊滅的な打撃を受けた。
地上にいるラシルドたちも、雷鳴を聞いて軍を動かしている。
丘陵の影から身を晒し、一直線にイーエスへと進行を開始した。
しかし。
「――なっ!?」
俺は思いいたるべきだった。
サンダーバードがイーエス防衛のために万全を期しているのなら、行軍の最中に幾度も見せた雷弓の対策をしている違いない。
その結論に到達しているべきだったんだ。
「――カカカ――カカ――」
黒煙を斬り裂くように馳せる閃。
人工太陽の光を浴びて輝く装甲は黒。
黒銀を身に纏う機械鳥が、こちらに向かって飛翔した。
「昨日まであんな奴っ!」
改造機械鳥による偵察には映っていなかった。
装甲が黒銀だから見逃した、なんて間抜けなことはしていないはず。
予め隠されていたか、もしくは朝方にでも到着したのか。
とにかく、雷撃を受けても活動可能な機械鳥が数多くいる。
「リーゼ!」
通信機に向かい、叫ぶ。
「えぇ、見ていたわ! あんな遺物は私も見たことがない!」
通信機から聞こえる声には焦りが見える。
「でも、今更、止められないわ。地上は私たちだけでどうにかするから、なんとかしてあの黒いのを倒して!」
「……そうするしか、ないみたいだな」
通信を切り、黒銀の機械鳥を見据える。
見た限りでは十数体ほど。
リーゼも見たことがない新型で、数はあまり多くない。
恐らくは急ごしらえで纏まった数が用意できなかったのだろう。
俺というイレギュラーに対抗するべく、あの黒銀は急遽造られたのかも知れない。
まったく、この土壇場で厄介なことをしてくれる。
「お陰で出鼻を挫かれた!」
両翼を羽ばたいて、迫りくる黒銀の群れへとこちらから肉薄する。
対して黒銀の機械鳥は嘴を開いて砲門を輝かせる。
その予備動作は間違いなく虹霓砲。
単属性の攻撃では意味がないと、予め学習しているみたいだった。
「面倒な……」
放たれる虹霓砲の数々を、ヒポグリフの機動力で回避する。
すべてを紙一重で躱し、速度を緩めることなく突き進む。
瞬く間に間合いは埋まり、そこはすでに刃が届く位置。
役目を終えた弓を刀へと変更し、透明の刃をもって斬り掛かる。
不可視の一閃は黒銀の機械鳥を捉え、電磁バリアの魔力を吸い取って防御を破る。
同時に刀身が紫紺に染まり、黒銀の装甲を断ち斬った。
「――」
明らかに斬った際の感触が違う。
通常の機械鳥よりもはるかに硬い。
しかも。
「くそっ、一体だけか」
味方がやられるや否や、ほかの機械鳥たちは即座に間合いから離脱した。
その速度も通常の機械鳥とはかけ離れたものだ。
お陰で次いで繰り出した二の太刀が空振りに終わってしまった。
はやく殲滅して地上の援護に向かわなくてはならないと言うのに。
「ホントに、性能が上がりすぎだろ」
硬く、速く、賢い。
まさに虎の子といった感じだ。
「一体ずつ、確実に仕留めていくしかなさそうだな」
欲張っては逆に効率を悪くする。
急がば回れ。
一体、一体、確実に潰していくほうが早い。
「なんとか持ちこたえてくれよ、みんな」
紫紺刀を携えて黒銀の機械鳥へと肉薄する。
弾幕の如く撃ち放たれる虹霓砲を躱し続け、最寄りの機械鳥へと斬り掛かる。
紫紺の残光を引いた一刀が黒銀の装甲を目がけて馳せた。
しかし。
「なっ!?」
紫紺の刃が通らない。
黒銀の装甲に届くことなく阻まれた。
「――」
なぜだ? なぜ斬れない?
先はたしかに斬れたのに。
どうして突然、斬れなくなった。
どうしてバリアに阻まれる。
「――そうか」
一瞬の時を費やして答えにたどり着く。
だが、その一瞬の隙をついて別の機械鳥が繰り出した攻撃がくる。
虚空を引き裂いた鋼鉄の鉤爪がこの身に迫った。
「チッ」
攻撃を認識した時にはすでに鉤爪は回避不可能な位置にあった。
しようなく左腕を盾として差し出し、ヒポグリフ・フェザーに鉤爪が食い込む。
そのままの勢いで押さえつけられ、墜落するようにこの身は地上へと落ちていく。
その最中、導き出した答えをたしかめるべく、紫紺刀から色を抜いて紅蓮へと染め上げた。
その際、刀身に亀裂が走る。
「お前……炎の魔力で、バリアを張ってるだろ」
左腕をへし折らんとする機械鳥にそう告げる。
反応は返ってこない。
だが、この至近距離だからこそ感じ取れる正確な魔力が物語っている。
いま共に落下している機械鳥が纏っているのは炎の魔力で造られたバリアだ。
黒銀の機械鳥はそれぞれ異なる属性の魔力でバリアを張っている。
遺物が張るバリアは同属性の宝石刀でしか破れない。
だからこそ、雷撃から身を守ることができた。
「種がわかれば、こっちのものだ!」
紅蓮刀を突き放ち、その鋒が炎のバリアを打ち破る。
紅蓮の刀身はたしかに黒銀の装甲へと届く。
その赤熱を持って焼き切り、内部の精密機械を貫いた。
「カッカ――カカ――カ」
黒銀の機械鳥は機能を停止し、押さえつける者はいなくなった。
落下の勢いを相殺するように羽ばたいて滞空し、貫いた黒銀の塊を捨て去る。
そうして見据えるのは、上空にて旋回する機械鳥たちだ。
「どれがどの属性のバリアを張ってるのか、ここからじゃわからないな」
かなり距離を詰めなければ判別は難しい。
「けど……ならっ」
空中に造り上げるのは、いくつもの日本刀。
宝石の魔力でつくる空の透明刀を展開し、それぞれに異なる属性の魔力を流す。
白銀刀。群青刀。紅蓮刀。浅葱刀。紫紺刀。
五色の刀を造り上げた。
透明刀を量産したほうが手っ取り早く済むことはわかっている。
だが、透明刀を十数本造るよりも、属性刀を五本造ったほうが魔力消費が少なくて済む。
今後のことを考えると、出来るだけ魔力は温存しておきたい。
だから。
「虱潰しだ」
いまからこの五色の刀で奴らを順番に斬りつけてやる。




