雷撃の魔弓
「一つ、二つ、三つッ!」
舞うように踊るように機械鳥の脇をすり抜ける。
すれ違い様に紫紺刀の一閃が的確に胴を捉え、真っ二つに斬り裂かれた機械鳥が流星の如く落ちていく。
とにかく数が多い。
出鱈目に紫紺刀を振るったとしても、何体かは落とせてしまいそうなほどだ。
「――くっ」
それだけ数的不利がつくと、綻びが出てくるもので。
機械鳥が放つ虹霓砲の偏差射撃が、目と鼻の先を過ぎていく。
思わず逆方向に両翼をはためかせ、推進力を柔らかく相殺する。
だが、これで動きを止めてしまった。
隙ありとばかりに機械鳥たちは虹霓砲を一斉に放つ。
殺した推進力を再び得たとしても、完全に避けきるのは難しい。
だから。
「四方城壁」
無詠唱で魔法を顕現させ、自身の四方を光の壁で囲む。
四角い防御を敷き、迫りくる虹霓砲を受け止めた。
しかし、ぱきりと鏡が割れたような音がして四方城壁が砕け散る。
無詠唱の発言によって、強度が半減していたからだ。
けれど、それも織り込み済み。
「今だ」
光の壁が砕け散るのと時を同じくして舞い上がる。
一息に包囲を突き抜けて、すべての機械鳥を見下ろした。
「減った気がしないな」
眼下にはまだまだ機械鳥が蠢いている。
すでに何体も撃墜しているはずなのに、すこしも実感が湧かなかった。
その更に下では、すでに機械兵とドワーフたちが激戦を繰り広げている。
遠くて戦況のほどは窺えないが、優勢であることを祈ろう。
「はやいところ、決着を付けないとな」
地上のことは気にしなくていいとリーゼは言っていた。
撃墜した残骸のことはこちらで対処するとも。
だから、撃墜することになんの憂いもないが、ちまちまとやっていては日が暮れる。
早期に決着を付けるためにも、前々から考えていた奥の手を試すことにしよう。
うまくいけば一網打尽だ。
「雷の魔力を……」
手元の紫紺刀の形状を変化させる。
形作るのは紫紺弓。
番えるのは雷の魔力。
引き絞ることで紫紺弓から色が失せて透明と化す。
その分の雷の魔力が矢となり、鏃となった。
あとは機械鳥の群れに照準を合わせて指を離すだけ。
「また頼るぞ、セリア」
愛しい人を思い浮かべながら矢を射る。
瞬間、けたたましい雷鳴が轟いた。
鳴り止むのは一瞬。
その刹那の間に無数に枝分かれした雷撃は、ほぼすべての機械鳥を貫いていた。
視界いっぱいに蠢いていた機械鳥だった残骸が、黒煙を上げて無数に落ちていく。
「我ながら凄い威力だな……」
しかも、消費するのは奪った雷の魔力が大半だ。
あとは少量の宝石の魔力のみ。
魔力の補充が食事からしか行えない現状、この低燃費でこの高威力はかなり役に立つ。
セリアには頭が上がらないな。
「おっと」
雷撃の威力に感心していると、残骸のいくつかがドワーフたちに落ちていくのが見えた。
けれど、黒煙を引く雨の一群は地上に届くことなく、その過程において阻まれる。
ドワーフの一群を覆うように電磁バリアが張られていたからだ。
「こんなものまで用意してたのか」
流石は長年に渡ってサンダーバードに苦しめられていただけのことはある。
上空からの集中砲火にも実用的な対策がすでに出来上がっていたようだ。
本当に、あとは機械鳥をどう処理するかだけだった。
電磁バリアを張って集中砲火に耐えられても、結局のところ機械鳥には手が出せない。
だが、その機械鳥はすべて俺が処理し終えた。
もうドワーフに負ける要素はない。
「――あっ、やべっ」
ふと思い出して焦る。
「一体、鹵獲しないといけないんだっけ」
いまさら思い出しても後の祭りだ。
あれだけいた機械鳥は今や黒煙に紛れて姿が見えない。
「……いるかな、生き残り」
敵対した者の生存を願うのは、朽金を除けば初めてのことだった。
祈りのようなもの胸に抱きながら、黒煙を上げて落ちていく残骸を見つめる。
果たして、祈りが天に通じたのか。
雷撃を逃れた個体が黒煙から飛びだした。
一体だけ、まだ無事だった。
「危ないところだった……」
生き残りがいたことに安堵しつつ、両翼で羽ばたいて急下降する。
機械鳥との距離はすぐに埋まり、仕舞っておいたダガーを取り出す。
そうして、その銀色の背中に操雷の刀身を突き立てた。
「ガ――ガガ――」
機械鳥は苦しそうな悲鳴のようなものを上げて沈黙する。
同時に浮力を失ったように落下した。
「あっとっ!?」
すぐに追いつこうとしたが、その必要はなくなった。
落下するかに見えた機械鳥は、再起動して再び空を飛んだからだ。
「これでよしっと」
リーゼからの頼まれ事もこなしたし、これで俺の役目は全うした。
「あとは、地上の援護だな」
透明刀を握り直し、狙いを地上の機械兵に移す。
羽ばたいて、地上の援護に向かった。
「――気合い入れろっ! ドワーフの意地って奴を見せつけてやれっ!」
地上ではドワーフの戦士たちが奮戦していた。
新兵器であり奪還作戦の要である操雷槍を駆使し、戦況は有利に進められている。
しかし、リーゼが展開した電磁バリアは同じ電磁バリアを有する遺物には無力らしい。
電磁バリア同士で干渉し合うのか。
それを持たない遺物は決して通さないが、次々と大型の遺物がすり抜けていく。
遺物の種類は豊富であり、電磁バリアをもつ遺物も多種多様。
その巨体が地面を揺らすように暴れ、後続が次々に肉薄していく。
けれど、それらがいかに厄介であろうとも、巨大であろうとも、操雷に穿たれれば心強い味方と化す。
屈強で無骨な大脚が小型の遺物を踏み潰す。
鋭い牙と爪が銀色の装甲を引き裂く。
虹霓砲の一閃が軌道上のすべてを融解させる。
ドワーフ側に数的不利はすでになく、遺物たちの数は半数近くにまでなっていた。
「それでも戦うのを止めないか」
これがただの戦だったなら、兵力が半数も削れる前に敵は撤退を選んでいる。
だが、今回の相手は意思のない機械たちだ。
恐れを感じず、後先も考えていない。
常に捨て身で、自身を顧みることがない
仲間が隣で何体壊れようがお構いなし。
最後の一体になっても戦うのを止めない。
本当に、本当に、厄介なものだ。
「ラシルドっ! 援護する!」
そう声を掛けてラシルドの上空を通過する。
「おぉ! 空は制したかっ!」
その返事を聞きながら銀色の群れへと突っ込む。
リーゼが展開した電磁バリアに群がる小型の遺物を、サラマンダーの火炎で焼き尽くす。
電磁バリアを持つ大型の遺物には、透明刀を紫紺に染めて斬り掛かる。
元々、数が半減していたことと、操雷による戦力増強によって、瞬く間に遺物たちは数を減らしていく。
そして、最後の一体となる遺物がラシルドの大斧によって両断された。
「勝ち鬨を上げろ! 俺たちはついに! 大いなる一歩を踏み出した!」
ラシルドの天を振るわせるような大声に呼応して戦士たちの勝ち鬨が上がる。
俺はいつかの人魚たちを思い出しつつ、地上へと降り立った。
夕日で赤く染まった荒野に異形の影が伸びる。
もうすぐ日が暮れてしまう。
鹵獲した遺物の調整や、負傷兵の手当、休息、食事などを考えると、今日の進軍はここまでのようだ。
「なんとか、なるもんだな」
初めてまともに行った空中戦。
自分が思ったよりも、よく動けていた。
その事実はたしかな手応えとなって自信に変わっていく。
これなら役目をまっとう出来そうだ。
みんなを守れそうだ。
「おーい、トオルくーん!」
遠くでリーゼの声がする。
見てみれば子供のようにぴょんぴょんと跳ねている姿が見えた。
それがすこし可笑しくて、バレないように笑いつつ、そちらへと歩いていった。




