武器の考案
重要拠点イーエスの奪還に向けて警備兵たちは動き出す。
出立の準備に警備兵団隊舎は右へ左へと大忙しとなった。
誰もが忙しなく準備を進めている中で、だが俺だけはのほほんとしていた。
やることが何もないからだ。
「暇だー」
俺はドワーフたちのことを良く知らない。
常識や暗黙の了解、勝手を知らない。
いや、知っていてもすぐには対応できない。
だから、仕事を手伝おうにも返って邪魔になってしまう。
なら、単純な力仕事はどうかとも考えた。
けれど、もともと屈強な肉体をもつドワーフだ。
その手の助けは必要とすらされていない。
という訳で、とてもとても暇を持て余していた。
「あぁ、いたいた」
何をするでもなくイスに腰掛けていると、会議室の扉が開く。
現れたのはリーゼだ。
「ちょっといいかしら?」
なにか用があるみたいだ。
「あぁ、ちょうど退屈してたところなんだ。どうしたんだ?」
「ちょっと知恵を貸してほしいのよ」
「知恵? 俺に?」
そんな大層な頭脳は持ち合わせていないが。
というか、脳自体がすでにないが。
「そうよ。お姉さんについてきてちょうだい」
詳細が話されることなく、リーゼに連れられて会議室をあとにする。
廊下を渡り、階段を下り、行き着くのは分厚い鉄扉。
見るからに重そうなそれをリーゼは軽々と開いて中へと案内してくれた。
「ここって」
鉄扉の向こう側には、暑苦しい光景が広がっていた。
大気が歪むような熱。焦げ付いたような匂い。方々から鳴る甲高い音。
ここはまさしく。
「そう。ここが私たちの工房よ」
鍛冶、製鉄に長けるというドワーフの真骨頂。
体格こそ違っていたものの、この特徴だけは変わっていなかった。
「リーゼもここで鉄を打ったりするのか?」
工房の中を進みながら尋ねてみる。
「まさか。私は設計士よ。武器や鎧、生活に役立つものを考案して造ってもらうの。あとは術式の構築とかも仕事のうちね」
術式か。
そう言えば会議室でもそんなことを言っていたっけ。
「その術式って言うのは魔法みたいなものなのか?」
「魔法? そうね。まぁ、そこから派生したというのが正しいけれど、その認識で問題はないわ」
魔法から派生したもの。
「ドワーフは鉄を打つのは得意だけど、魔法の扱いは昔から苦手なのよ。だから、自分たちで使いやすいように武具や道具に魔法を宿すことにしたの。」
つまり、とリーゼは結論づける。
「魔法を単純化させて誰にでも扱えるようにしたもの、ってところね」
「なるほど……」
魔法の汎用性を追求した結果が術式か。
魔法を剣とするなら、術式は銃とするべきだろう。
誰にでも扱え、一定の戦力をたやすく確保できる。
そうしてドワーフという種族は生き残ってきた。
「さぁ、ついたわ」
そう話をしていると目的地についたようで足が止まる。
工房の最奥、土が敷かれた広い空間。
その壁には完成品と思われる操雷槍が数多く立てかけられていた。
ほかにも様々な武器や防具が並んでいる。
「ここでは製造した武具の性能テストをするの。とりあえず……」
そう言って、リーゼは立てかけられた操雷槍を手に取る。
「どうかしら? よく出来てるでしょ?」
そのまま手渡された操雷槍の出来映えはとてもよいものだった。
細部まで丁寧に造り上げられていて、戦闘で傷を付けてしまうのが勿体ないほどだ。
素人目から見ても素晴らしい完成度を誇っていた。
「あぁ、まるで芸術品だな……あれ、でも」
ふと紫色の穂先から、その反対方向へと視線が向かう。
槍の名称で言えば石突に当たる部分。
穂先の反対側にもう一つの刃がある。
術式と思しき模様が刻まれた鋼色のものだ。
「これ、会議室で披露した時には付いてなかったよな?」
これは両方に刃が付いている。
だが、布に包まれていた操雷槍は片方だけだった。
「えぇ、そうよ。あれは試作品として会議のために何日もまえから用意しておいたものだから。それから更に改良を加えた物がそれよ」
改良としてもう一つ刃を取り付けたのか。
「じゃあ、こっちの刃にも意味があるのか?」
格好いいから、とかじゃなくて。
「もちろん。その紫色の刃――操雷は敵に突き刺して置いてくるものだから。それだとただの棒になっちゃうでしょ?」
「あぁ、そういうことか」
紫色の刃である操雷を突き刺して置いてくる。
操雷が食い込んでいる限り、対象の遺物はこちらの支配下だ。
この完成品はその後のことまで考えられている。
操雷を失った槍が、まだ槍として機能するように反対側にも刃を付けた。
「でも、危なくないのか?」
うっかり味方や自分を傷つけてしまいそうだ。
「その辺に抜かりはないわ。そっちの刃には術式が刻んであるでしょ?」
「この模様のこと?」
「えぇ、そう。操雷が切り離されるまで刃物として機能しないように術式で設定してあるから、安全面もばっちりよ」
「よく出来てるなぁ」
安全装置も完備ときた。
「あぁ、そうだ。それで、知恵を貸してほしいって言うのは?」
もともと、そういう話だったはず。
「それなんだけど……」
困ったような顔をしてリーゼは話を切り出した。
「操雷は対象に突き刺さないと意味がないわ。だから、槍が最適だって結論にはいたったんだけど。もっとバリエーションが欲しいのよね」
「まぁ、種類が多いことに越したことはなさそうだしな」
種類が多ければそれだけ対応できる場面が増える。
「それで護身用としてダガーを造ったまではいいんだけど……」
そう言いつつ、壁際によってテーブルの上からダガーを手に取る。
その紫色の刀身は、至近距離で相手に突き刺すには持って来いの形状をしていた。
「最低でもあと一種類は造っておきたいのよね。出来れば飛び道具がいい」
「飛び道具か……」
たしかにそれは欲しい。
投擲武器や遠距離武器の有無で、戦況はかなり違ってくる。
是非とも用意してもらいたいところだ。
「たしか弓や銃なんかには適さないんだったよな?」
「えぇ、術式の関係上、その操雷操の穂先以下のサイズにはならないのよ」
「うーん。鏃にするには大きすぎるし、銃弾にするのもな」
手の平に納まる程度まで小型化されているが、どちらにも適さない大きさだ。
「大きな弓を造るって案も出たんだけど、現実的じゃなかったわ。ドワーフの腕力でも引けないような化け物が出来上がっちゃったから」
「そいつはまた」
恐ろしい弓だな。
「引き絞りを自動化するって案もあったけど、そうするとコストの問題がね……数も容易しなくちゃいけないし」
心底、暗い顔をしていた。
どこの世界でも資金繰りに苦心するもののようだ。
「銃弾って案も現実的じゃないわね。その口径の銃を一から造らなきゃだし、時間とコストが掛かりすぎるわ。いっそ大砲の弾にしてみましょうなんてこともしてみたけど」
「けど?」
「まず持ち運びに難があるし、対象の機械を粉砕しちゃって無意味だったわ」
「んー……そうか」
ぱっと思いつくようなことは、すでにやり尽くされている。
そこから未だに出てない案をひねり出さないと行けないのか。
「あなた、元は人間なんでしょう? なら、なにか私たちが思いつかないような武器を知っているんじゃないかって、そう思ったのよ」
「だから、知恵を貸してくれって言ってたのか」
「そういうこと。ね? なにかないかしら?」
「うーん」
改めて思考を巡らせてみる。
正直、弓も銃もダメなら他にないと思うが。
とにかく相手に突き刺さなくてはならないというのがネックだ。
ただ投げて当たればいい訳じゃない。
そうなってくるとかなり選択肢が狭まってしまう。
けれど、一つだけ思い浮かんだものがあった。
「手裏剣……とか」
「しゅりけん?」
「あぁ、こういうものなんだけど」
説明も兼ねて、宝石の魔力で手裏剣を造る。
中央に穴が空いた四枚刃の馴染みのある形にした。
透明な手裏剣を二枚造り、一枚をリーゼに手渡してみる。
「これ、どうやって使うの?」
興味深そうにリーゼは手裏剣を眺めている。
「ただ投げるだけだよ。えーっと」
なにか的はないかとテスト場を見渡してみる。
そうして幾ばくもしないうちに、人型の的を壁際に見つけた。
それに狙いを定めて手裏剣を投擲する。
回転して虚空を斬り裂いた手裏剣は、見事に的の中央に突き刺さった。
「こういう感じだけど」
でも、こうして見ると硬い物に深く突き刺さるような構造じゃないな。
刃一枚分が突き刺さるだけで他の三枚は食い込まない。
刺さったとして、すぐに抜け落ちてしまいそうだ。
やっぱりダメかも。
「……いい」
「ん?」
「いいわ! これで行きましょう!」
思いの外、高評価をいただいた。
「い、いいのか?」
「もちろんよ! 盲点だったわ。構造は単純なのに、どうして思い浮かばなかったのかしら! 加工がしやすいし、誰にも簡単に扱えるし、持ち運びも簡単。なによりコストが掛からない!」
リーゼの目がらんらんとしていた。
「でも、あれを見ただろ? たぶん、すぐに抜け落ちちまうぞ」
「それでもいいのよ。戦闘中に相手の動きを止められれば十二分。その間に操雷槍でもダガーでも突き刺してやればいいんだから」
「そういうものなのか?」
「そういうものよ。さぁ、そうと決まれば早速、試作するわよ!」
ノリノリになってリーゼは設計図を引き始める。
そうして操雷手裏剣は完成した。
手裏剣は元から子供でも扱えるもので、命中率が安定しやすいもの。
なので、ちょっとした訓練をするだけで、操雷手裏剣は誰もが扱える手頃な武器となった。
めでたく正式採用となり、そうして機は熟す。
「――司令官殿より許可が下りた!」
会議室にてラシルドが叫ぶように告げる。
「明日の朝、出発だ!」
歓声が上がる。
士気は上々。
いよいよドワーフの反撃が始まる。




