人工の太陽
今回の魔法の訓練も有意義なものだった。
魔法の上達を実感でき、充足を感じている。
そうしていると、ふと思い出したことがあった。
「そう言えば美鈴は知っているのか? エルフのこと」
「エルフ、ですか?」
その反応を見るに知らないみたいだ。
「実は――」
エルフの里で中位探求者と鉢合わせたことを美鈴に告げた。
「初耳です。そのようなことがあったのですね」
「ふーむ」
探求者と鉢合わせたのがカーバンクルに挑む直前のことだった。
時期的に見て探求者組合に伝わっていると判断するべきだ。
だが、仮免とはいえ探求者である美鈴にその話が伝わっていない。
「箝口令が敷かれているのかも知れません」
美鈴は言う。
「これ以上、あなたを討伐しづらくなる情報を知られたくないから」
「そうか……ん? これ以上ってのは?」
「あぁ、それはですね」
美鈴は詳しい話をしてくれた。
俺が朽金を見逃したことで、探求者組合は足踏みせざるを得なくなったらしい。
将来的な脅威より、目先の危険を優先しなければならないから、だそうだ。
探求者組合も俺一人に固執できるほど暇じゃないということだ。
まぁ、それでも俺は魔物で、いつ爆ぜるとも知れない爆弾だ。
手が出しづらくなっただけで、討伐を諦めることはないだろう。
地雷原にたまたま一つだけ不発弾が埋まっているだけのことだ。
ほかの地雷の処理を優先しているだけで、いずれ俺にも手は掛けられる。
そうなる前に人間に戻らなくては。
「しかし、朽金がな」
低位探求者に降格か。
話を聞く限り、再戦はなさそうだ。
一つ肩の荷が下りた感じがするな。
「では、私はこれで。次に会うときにはもっとネクロマンシーのことを調べておきます」
「助かる。でも、無理はしないようにな」
「えぇ」
そう言って美鈴はフードを被ろうと手をやった。
「あっ、ちょっと待ってくれ」
「はい?」
消える前に声を掛けて呼び止める。
「こいつを持っていってくれ」
そう言いながら手の平に宝石の魔力を集める。
魔力を結晶化させて形作るのは虹色の短剣だ。
俺が持つ数種類の魔力を織り交ぜてある。
「護身用の剣だ。その辺にいる魔物なら一振りで討伐できると思う」
「いいのですか? そのようなものを頂いてしまって」
「あぁ、美鈴に持っていてほしい」
美鈴は危険を冒して会いに来てくれている。
ロストシリーズによって魔物に感知されないとはいえ、それでも危険だ。
万が一の時に備えて、俺の力を持っていてもらおうと思う。
「ありがとうございます……綺麗です、とても」
宝石剣を鞘から抜いた美鈴は呆けるように刃を見つめていた。
「美鈴?」
「はっ……な、なんでもありません」
慌てたように我に返った。
「大切にします」
そうして宝石剣を鞘に納めて仕舞い込んだ。
「では」
「あぁ、気をつけてな」
「はい。また会いましょう」
美鈴の姿が見えなくなり、魔力が俺から遠ざかっていく。
それが感知できなくなるまで俺は美鈴を見送った。
「さて、と。精霊」
なんとなく視線を持ち上げて問う。
「次に狙うのはどの魔物がいいと思う?」
俺が次に戦うべき相手を。
「――サンダーバードを推奨します」
「えらくシンプルな名前だな」
雷の鳥。
まぁ、それを言えばシーサーペントも海の蛇だが。
「どんな魔物なんだ?」
「――サンダーバードは中位の魔物です。紫電を伴い、落雷を引き起こし、得物を仕留めます。全長は約五メートルほどで、紫色の鮮やかな羽色をしています」
「その名の通りって感じか」
特性も雷に由来するもの。
カーバンクルのように特殊なものではない。
だが単純であるがゆえにその特性は強力だ。
雷、電気の偉大さは俺もよく知るところだしな。
「よし、じゃあサンダーバードのところまで案内してくれ」
精霊の道案内に従って、ダンジョン内を歩く。
道中、現れた魔物を狩っていると潜在魔力の上限値に達することができた。
これで徒歩で目的地に向かうのは終わり。
そこからは両翼で飛翔して戦闘のすべてを省略した。
そうして目的地である大規模空間に足を降ろす。
「ここが……」
岩と砂の地面が荒野を思わせる。
植物と言えば枯れ木のようなものが点在しているのみ。
見渡す限りに緑色がない。
「けど」
なぜだか他よりも不自然に明るい。
その理由を求めて視線が持ち上がる。
そうして見つけたのは。
「……太陽?」
太陽石でも、夜光石でもない。
球体の光源。
眩しいほどの光を放つ太陽がそこに鎮座していた。
「なん……で、あんなものが……」
「――人工太陽を確認しました」
「じん……こう?」
ダンジョンが生み出した自然現象ではなく、人為的なもの。
「――非常に高度な機械技術と魔法が組み合わさったものです。光源としての機能は、地球に降り注ぐ日光とほぼ同等。古代文明の遺物だと言われています」
「オーパーツってことか……凄まじいな」
太陽よりもはるかに近い位置にある物だとはいえ。
十分に太陽の代わりを担えるほどの光量を放つ人工物。
これを造った者たちが、いかに高度な技術を持っているのか。
それを一目で理解させられた。
「遠くに街みたいなのが見えるな」
あそこに何者かが住んでいる。
人魚はエルフのような亜人だろうか?
異世界人、という可能性もある。
「とりあえず、近くまで行ってみるか」
住人に見つかったらまた捕まるかも知れない。
まず遠巻きに街の様子を窺ってみよう。
そう決めてから改めて飛翔する。
空中から最短距離で街らしきところへと羽ばたいた。
「――ん?」
その途中でのこと。
羽ばたいても羽ばたいても代わり映えしない景色の中。
ふと目に止まる出来事が流れ込んでくる。
「あれ、人か?」
進むのを止めて滞空し、よく見てみる。
そこには鎧を着た何人かの人の姿があった。
大きな武器を持ち、戦っているようだ。
「周りを囲んでいるのは」
次に彼らを包囲している相手に目を向ける。
銀色の甲殻に規則正しく動く多脚、胴体からいくつも生えた手には得物が握られていた。
身体中に紫電を迸らせる彼らの姿は。
「……機械」
まるで機械のようだった。
機械の兵が人を取り囲んで襲っている。
「どういう……ことだ?」
機械兵の存在は理解することができる。
人工太陽なんて遺物、オーパーツが存在し、利用できているのだ。
機械技術と魔法を駆使すれば機械兵くらい造れるだろう。
だが、恐らくは造った側である人と、造られた側の機械がどうして争っている?
共に戦うべき相手ではないのか?
「あの人たちが罪人、とか?」
機械兵が罪人を捕らえるために戦っている。
いや、それにしては襲われている人たちの装備が充実しすぎている。
精巧な鎧に装飾の施された得物。
とても罪に問われるような人の格好とは思えない。
あと考えられることは。
「機械兵の……暴走?」
この状況だと、それが一番しっくりくる。
襲われている人たちの格好にも、ある程度の説明がつく。
「……よくわからないけど」
正確なことは何もわからない。
だがとにかく、人が襲われているのなら助けないと。
そう決めて両翼で羽ばたいた。
急下降し、機械兵の群れへと襲い掛かる。




