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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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宝石の魔獣


 大樹から遠く放れた森の中。

 風を纏う矢が心臓を穿ち、風を伴う斬撃が首を刎ねる。

 襲い掛かる魔物のすべてが、シンシアの手によって葬られていく。


「準備って、シンシアの装備を調えるってことだったのか」


 いまのシンシアは完全武装だ。

 細かな装飾がなされた弓と剣、防具。

 ポーチには幾つかの薬品が入っている。


「カーバンクルの住処は大樹様から遠い」


 血濡れた刃を振るって払い、シンシアは剣を鞘に納めた。


「そなたを無事に送り届けるには準備が必要だった」


 俺が万全の状態で試練に挑めるように計らってくれている。

 お陰で消耗はなく、むしろ魔力が補充されていく。

 シンシアが魔物を倒すたびに、その骨を風で掻き集めて吸収しているからだ。

 それにカーバンクルについて、色々と興味深い話をしてくれた。


「――あとどのくらいだ?」

「そうだな……」


 シンシアは遠くを眺めるようにして指を差す。


「あれが見えるな?」

「あれって……ん? なんだ? あれ」


 指差された先に奇妙なものを見る。

 ある地点に境界線を引いたように、森の様子が様変わりしていたのだ。


「枝のない……木か?」


 境界線から向こう側には、枝のない木々の群れがある。

 自身の目線より上に緑がなく、視界がよく開けている。

 夜光石の輝きがよく見えているほどだ。


「すこし違う」


 近づいてみると、たしかに違っていた。


「これ……蔦か?」


 太い蔦のような植物が天に向かって逆巻いている。

 それが遠目から見て枝のない木のように見えていた。


「元々、ここはごく普通の樹木が生える森だった」

「そうなのか? じゃあ、これはいったい」

「絞め殺されたんだ。この蔦によって」

「絞め殺された?」


 だから蔦だけが残り、中が空洞になっている。

 ずいぶんと物騒な話だ。


「この蔦にはカーバンクルの魔力が宿っている。自らの縄張りを主張するように周辺の木々をこうして絞め殺すんだ」

「……つまり、ここから先が」

「あぁ、カーバンクルの住処だ」


 この奇妙な森の向こうにカーバンクルがいる。


「この時期のカーバンクルは繁殖期で獰猛だ。我々が普段、試練として挑む個体よりもはるかに強靱で素早いだろう。正直、いまの私でも討伐できるかわからない」

「そんなにか」


 厄介な時期に訪れてしまったものだな。


「私が案内できるのはここまでだ」


 そう言ってシンシアは足を止めた。

 境界線の手前に立つ。


「このたびの試練はそなた一人が挑むもの。私はこの先に進めない」

「十分だ。ありがとな、色々と」


 礼を言いながら境界線を踏み越える。

 ここはすでにカーバンクルの縄張り、戦場だ。


「待て」

「ん?」


 先に進もうとして、呼び止められる。


「まだそなたの名を聞いていなかった」

「あぁ、そう言えばそうだな」


 まだ言っていなかったっけ。


「音無透だ」

「音無透。そうか」


 復唱し、シンシアは俺を見た。


「かならず帰ってこい、透」

「もちろんだ!」


 そう返事をして今度こそ先へと進んだ。


「さーてと、どこにいる?」


 周囲に警戒の糸を張り巡らせながら歩く。

 幸いなことに視界は良好だ。

 枝葉がないだけで視認できる領域がかなり違う。

 俺が相手を見つけるのも、相手が俺を見つけるのも容易。

 そんな最中を緊張感を持って突き進む。

 そうして。


「――見つけた」


 カーバンクルと思しき魔物を発見する。

 額に赤い宝石をもつ獣。

 その姿は巨大なリスのように見えた。

 だが、決して愛らしくは感じない。

 周囲を鋭い目つきで睨み付け、苛立ったように何度も地面を掻いている。

 たしか繁殖期だったか。

 つがいが見つからなくて苛ついているのか?


「ギュルッ」


 様子を窺っていると、カーバンクルもこちらに気がつく。


「ギュル、ギュル、ギュルッ!」


 双眸でこちらを射抜き、額の宝石が輝き始める。


「まずいっ」


 それを視認してすぐに手を地面につく。

 左腕をジャックフロストに変換、即座に魔氷の防壁を張る。

 その直後のことだった。

 カーバンクルの額にある宝石から赤い閃光が放たれる。

 方向性をもつ光の一条。

 レーザービーム。

 光の速さで放たれた閃光は魔氷の防壁をたやすく貫いた。


「――」


 魔氷を撃ち抜いたことで閃光の軌道が僅かに逸れる。

 それはヒポグリフ・フェザーを削り取り、頭蓋を掠めていった。

 事前にシンシアからカーバンクルのことを聞いていてよかった。

 事前知識がない状態なら、確実にあれを喰らっていた。

 開幕で終了していたところだ。


「やってくれるなっ」


 すぐさまヒポグリフの両翼をもって飛翔する。

 空へと舞い上がり、制空権を取った。

 同時に風の魔力で浅葱刀を構築し、そのまま風刃を放つ。


「ギュルッ」


 上空からの攻撃を見据え、カーバンクルは新たな力を見せた。

 虚空より出でるは浅葱色の防壁。

 否、そうではない。

 それは宝石のように煌めく魔力の結晶だ。

 カーバンクルが造り出す結晶の壁。

 風刃はそれに傷一つ付けることなく打ち砕かれた。


「あれが……カーバンクルの特性」


 あらゆる攻撃に対する高い耐性。


「ならっ」


 右腕をサラマンダー・シェルに変換。

 紅蓮刀にて炎刃を放つ。

 続けざまに右腕をシーサーペント・スケイルに変換。

 翻した刀身が群青に染まり、水刃を放つ。

 更に畳み掛けるようにジャックフロスト・ボディに変換。

 氷刃を放つことで三撃目を繰り出した。

 異なる属性の三連撃。

 炎と水と氷の刃がカーバンクルに迫る。


「ギュル、ギュルッ」


 しかし、そのどちらも防がれてしまう。

 赤と青と白の結晶壁が立ち塞がり、決して攻撃を通さない。


「これでも……」


 カーバンクルの対応速度は魔力の変換速度とほぼ同じ。

 俺がどれだけ属性を変えて攻撃しようと、カーバンクルはそれに対応できる。

 この方法ではどの道、結晶壁を破れない。

 だが、まだ手はある。

 それを試そうと白銀刀に魔力を込めた。

 しかし、好き放題させれもらえるほど現実は甘くない。


「ギュル、ギュル、ギュル」


 カーバンクルは四色の結晶壁をいくつかに分解した。

 無数の盾となったそれらは四方に散らばるように展開される。

 視線をどこに向かわせても、結晶盾が映り込むほどに万遍なく。


「な、なんだ?」


 意図が読めないまま、カーバンクルは次の行動に移る。

 額の宝石が輝き、赤い閃光が放たれた。


「――ッ」


 閃光は光の速さに思えるが、軌道を読むことはできる。

 予備動作が明確で、放たれるまでに溜めが必要だ。

 その僅かな時間で回避行動を行えば、辛うじて躱すことが出来る。

 それでも閃光が片翼に掠ったが、それもヒポグリフ・フェザーを構築する魔力のみ。

 骨に損傷はなく、飛行に支障はない。


「なんだかわからないが」


 はやく決着を付けるに越したことはない。

 改めて白銀刀に魔力を込め直そうとした、そのとき。


「――ガッ!?」


 鋭い痛みと衝撃が生じる。

 背後から撃ち抜かれた。

 胴体に風穴が飽き、あばら骨が削り取られる。


「な……んで……」


 痛みに耐えながらも思考する。

 俺はカーバンクルと向かい合っていたはず。

 なのに、どうして背後から閃光が?

 まさか二体目がどこかに潜んでいた?

 いや、違う。

 そうじゃない。


「結晶に……反射してっ」


 視界の端で、その光景がたしかに見えた。

 カーバンクルから放たれた閃光が結晶盾に反射している。

 何度も何度も反射を繰り返し、まったく別の角度から俺を撃ち抜いた。

 反射は計算してやっているのか。 

 それとも撃ち抜かれたのは偶然によるものか。

 どちらにせよ、空中に留まるのは不味い。


「くそッ」


 両翼で羽ばたいて急下降、地面へと降り立った。

 空中ならそれこそ四方八方から閃光の危険に晒される。

 だが、地上なら少なくとも下方からの攻撃はなくなるはず。

 せっかく翼を得たというのに空中戦をさせてもらえないとはな。


「上等だ」


 白銀刀を構え、カーバンクルを見据えた。


「絶対に討伐してやる」


 風穴の空いたヒポグリフ・フェザーの修復が終わる。

 まだまだ余力はあるんだ。

 この状況をどうにかして打破して見せる。

ブックマークと評価をしていただけると幸いです。

毎日更新を続けられるように頑張ります。

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