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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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森林の住人


 魔物の死体から溢れ出た魔力の塊を喰らう。


「――ヒポグリフ・スケルトンが有する潜在魔力の上限値に達しました」


 これにて潜在魔力の底上げは終了した。


「さて、これで準備は整ったな」


 これで次を目指せる。


「なぁ、いまの俺でも勝てそうな中位の魔物はいるか?」


 倒木に腰掛けながら精霊に問う。


「――カーバンクルが該当しました」

「それは聞いたことがあるな」


 カーバンクル。

 たしか額に赤い宝石がある獣だったか。


「――カーバンクル。大人しい性格をしていますが、外敵と見做した相手には容赦がありません。なお、あらゆる攻撃に対する高い耐性を有しています」

「高い耐性……」


 攻撃が通りにくいってことか。

 厄介そうな相手だな。


「ま、悩んでいてもしようがないか。そいつの生息域は?」

「――こことはまた別の森林空間に生息しています」


 また森か。

 しばらく緑色には困らないな。


「よし、行くか」


 腰を下ろしていた倒木から立ち上がり、両翼で羽ばたいて飛翔する。

 蛇行しながら木々の間をすり抜けてこの空間を後にした。

 仄暗い通路でも飛ぶのは止めない。

 地上にいる魔物たちをすべて無視して天井すれすれを飛行する。

 そうしていればあっと言う間に目的にたどり着けた。


「っと、ここか」


 周囲に魔物の気配がしないことを確認しつつ着地する。

 視線の先にはすでにカーバンクルが棲む森林が見えていた。


「ずいぶんと静かだな」


 先ほどの森林とは打って変わってこの空間は静かだった。

 まるで森のすべてが眠っているようだ。

 虫の鳴き声一つしない。


「それにこの光は……」


 通路を抜けて、静寂の森に足を踏み入れる。

 そこは満月の夜のような場所だった。

 天から優しい光が射していて、釣られるように視線が上をいく。

 俺はそうしてこのダンジョンの中で夜空の星々を目にした。


「プラネタリウム……」


 この森林の木々はそれほど広く枝葉を広げていない。

 だからこそ、はっきり見えた。

 まるで月のない星空のように天井が瞬いている様子が。


「これは太陽石……じゃないよな?」

「――夜光石。その表面に触れた大気中の魔力を柔らかな光に変換します」


 太陽石と対になるような鉱石か。

 太陽石の鉱脈は真昼の星々に見えたけれど。

 夜光石の鉱脈は天の川に見える。

 静かで、優しくて、幻想的だ。


「セリアにも見せてやりたいな」


 きっと見とれてしまうことだろう。


「まぁ、本物の夜空のほうがいいかな」


 そんな独り言を呟きつつ、足を森の奥地へと進ませる。

 草木が生い茂る道なき道を切り開きながら歩いて行く。

 そうすると、ふとなにかの気配を感じ取った。


「何かいるな」


 周囲、木々の上に何体かいる。

 魔物だろうか? こちらの様子を窺っているみたいだ。

 鋭い視線を感じる。

 朽金たちに襲撃されたこともあって、いまの俺は奇襲に敏感だ。

 その成果がいまここで発揮されたようだ。


「見ているだけか、それとも……」


 そう呟きながら更に一歩、足をまえに進める。

 その直後のこと。

 鋭く風を切る音がして足下に矢が突き刺さる。

 これ以上、先に進むなと警告するように。

 矢を射られたほうへ視線を向けても撃ち手の姿は見えない。


「弓が使えるなら知性があるってことだよな」


 恐らくは人魚のような亜人がいる。

 縄張りに俺が入らないように見張っている、と言ったところか。

 話が通じるなら無用な戦闘を回避できるかも知れない。


「よう。俺はスケルトンだが言葉が話せる。会話に応じてくれないか?」


 すこし大きめの声で言う。

 森を包む静寂を破った声は、たしかに何者かの耳に届いたのだろう。

 風によって枝葉が揺れて音を奏でるように周囲からざわめきが起こる。

 そのノイズはすでに聞き慣れたものになっていた。


「やっぱり驚かれるのな」


 けれど、驚くということは言葉が通じている証拠だ。

 魂からなる発声が対象の魂と共鳴して意思が伝わる。

 その逆もしかりで相手の言葉と意思が言語を越えて俺にも伝わる。

 人魚と会話が成り立ったのだ。

 誰だかは知らないが彼らとも意思疎通はとれて然るべきだ。


「スケルトン」


 その一言によってざわめきが静まる。

 俺は声がしたほうへと目を向けた。


「私の言葉が聞こえるか」


 姿を現したのは容姿が整った耳の長い女性だった。

 太い木の枝の上に立っている。

 その姿から連想するのは御伽噺の住人、エルフ。

 いま俺の視線の先にエルフが立っている。


「あ、あぁ……聞こえている」


 エルフの登場に面を喰らったものの。

 なんとか返事をした。

 まさか本物のエルフに出会うことになるとはな。

 まぁ、人魚のときも同じことを思ったけど。


「我らの森に何用だ。貴様が意思を持つのなら何か目的があるのだろう」


 凜としたその声は聞いているとなぜだか叱られている気分になる。


「カーバンクルって魔物を知っているか?」

「カーバンクルだと?」


 知っているみたいだな。

 また周囲の木々からざわめきが聞こえる。

 よほどエルフに周知された魔物みたいだな、カーバンクルは。


「俺はそのカーバンクルを――」

「どこで知った」


 言葉を遮られた。


「はい?」

「カーバンクルの名をどこで知ったかと聞いている」


 その声音は低く、問い質すような口調だった。

 いつの間にかざわめきも止んでいる。

 この静寂に早く答えろと急かされている気分がした。

 ただならぬ雰囲気が漂っている。

 返答を間違えると厄介なことになりそうだ。

 ここは下手に嘘を吐かず正直に答えるべきか。


「……精霊に聞いた」

「精霊だと!」


 そう言った直後、周囲の木々から何人かのエルフが降りてくる。

 剣先と鏃が俺へと向けられ、周囲を取り囲まれた。

 これは返答の仕方を間違えたかも知れない。


「貴様、魔物の分際で精霊様を騙ったな」

「事実だ。嘘なんてついてない。俺は精霊と会話ができる」

「戯れ言を」


 エルフたちの敵意が更に高まるのを感じた。


「精霊様は我らエルフとて、たやすく対話できるものではない。それは限られた極一部のエルフが祭事において全霊を持って為すもの。それも二言三言が限界だ。それを会話ができるだと?」


 精霊ってそんなに凄い存在だったのか?

 いや、真実を司る精霊だし、凄い存在なのは疑いようがないけれど。

 対話がそんなに困難なものだとは思わなかった。


「ま、待ってくれ。本当なんだ。なんだったら、いまから精霊と会話してもいい」

「……ほう」


 彼女は木の枝から飛び降りて着地する。


「ならば、やって見せるがいい。だが、もし出来なければ我らの矢と刃が貴様を貫く」


 また一段、敵意が増すのを感じる。


「わかった。じゃあ、いくぞ」


 問いの内容はどうしようか。

 そうだな。


「精霊、いま俺の目の前にいるエルフの名前を教えてくれ」

「――エルフ、シンシアを確認しました」

「わかった」


 この声はエルフに聞こえているのか?


「精霊様はなんと言っていた? まぁ、貴様に聞こえるはずもないが」


 聞こえてないみたいだな。


「シンシア」

「なっ――」

「あんたの名前はシンシアだ」


 そう名前を告げると、彼女はひどく驚愕した。

 その反応からして精霊の言葉に間違いはないらしい。

 彼女――シンシアは後ずさるように一歩ほど足を後退させる。

 俺を取り囲んでいるエルフたちも同様の反応を示していた。


「ど、どうやって私の名を調べた」

「だから、精霊に聞いたんだって」

「そんな馬鹿なことがあるかっ!」


 どうしても信じられないか。


「わかった。なら、この場にいる全員の名前を今から聞いてやる。一人でも間違えたら俺を刺していい」


 そう宣言して周囲にいるエルフたちを指さす。

 そうして精霊に名前を教えてもらい、それを告げることを繰り返した。

 精霊の言葉は真実であり百発百中だ。

 瞬く間にすべてのエルフの名前を言い当てた。


「これで証明できたか?」

「そんな……まさか……」


 狼狽えるばかりのエルフたちは、数人が集まって話し合いを行っていた。

 その他のエルフたちは相変わらず俺に得物を向けている。

 けれど、その剣先や鏃はすでにやや下がり気味だ。

 とりあえず、攻撃される心配はなさそうだとほっと一息をつく。

 それからすこしばかりの時が経ち、エルフたちの話し合いに一区切りがつく。


「我々だけでは判断がつかない。あのスケルトンを捕らえろ。長老様のもとへ連れて行く」


 そのような決定が下された。


「また捕まるのか。前にも似たようなことがあったなぁ」


 そう思いつつも抵抗しようとは思わなかった。

 近づいてくるエルフたちに大人しく従って縄にかかる。

 ここで暴れてもいいことなんて一つもないからだ。

 そうして俺はエルフに捕らえられ、森の奥地へと連行されたのだった。

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