表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/164

渇望の未来


 飛沫を上げてロングソードが振るわれる。

 それを白銀刀で受けるが先ほどのように拮抗はしない。

 接触は一瞬だけ。

 氷付けにされるのを防ぐためだ。

 その代わりに手数が増えている。


「――」


 繰り出される剣撃を捌き、隙間を縫うように反撃を行う。

 白銀刀の刃を潰し、氷の棒として一刀を差し込んだ。

 しかし、それはあえなく虚空を打つ。


小雨こさめ


 彼は回避とともに名を呼んだ。

 そして、それに答えるように二人目の探求者が背後から迫る。


「任されたぞっと」


 死角から繰り出される攻撃に、尻尾をもって対応する。

 水を纏う一撃をサラマンダー・シェルが受け止めた。


「器用だねぇ」

「そいつはどうもっ!」


 すこし傷を受けたが問題なし。

 尻尾を振るうことで剣を弾き、振り返り様に白銀刀を薙ぐ。

 しかし、その瞬間に視界の端で何かが動く。

 咄嗟に地面を蹴って退避する。

 その直後、目の前を水の矢が過ぎた。


「――くっ」


 思うように攻めさせてくれない。

 そして。


「朽金ぇ!」

「わーってるよ!」


 今度は前後から同時に剣撃を振るわれた。


「――」


 着地はまだ。

 すでに二人は攻撃の予備動作を終えて剣を薙いでいる。

 ここから回避を行うのは現実的じゃない。

 サラマンダー・シェルで攻撃を受けること事態は可能だが。

 それでは現状の打破にはいたらない。

 なら、俺がすべきことは他にある。


「これなら」


 着地と同時にサラマンダー・シェルをジャックフロスト・ボディに変換。

 瞬時に地表を凍らせて魔氷を生成、俺を中心とした間合いのすべてを魔氷で埋める。

 これで二人の探求者の腕ごとロングソードを凍結させた。

 凍傷にはなるだろうが命の危険はないはずだ。


「ぐぅっ」

「参ったねぇ、こりゃ」


 水の魔力を纏っていたのが仇となった。

 これで二人を無力化できた。

 あとは四人。


「――葉隠はがくれっ!」


 しかし、そう上手くことは運ばない。


「妖精よ、彼らに炎の祝福を!」


 魔氷に拘束された二人の腕が熱を帯びる。

 それは炎となって剣を燃やす。

 その火力は魔氷をも融かすほどだった。


「それも魔法って奴かよっ」


 魔氷の中で悪態をつき、外へと脱出する。

 それと時を同じくして強度の下がった魔氷が斬り崩された。

 ごとりと分厚い氷塊が地面に落ちる。


「厄介だな……」


 水の次は炎ときた。

 的確に俺の弱点に合わせて来ている。

 サラマンダー・シェルに戻すか?

 いや、そもそもサラマンダーの火炎は威力が高すぎる。

 無力化には向かないし、また先ほどの焼き直しを演じるだけだ。

 ほかの方法で無力化を試みよう。


「小雨、腕の調子は?」

「問題ねぇ、そっちは?」

「こっちもだ」


 朽金と小雨。

 それがあの二人の名前か。

 いま確認できているのは五人。

 朽金、小雨、牙城、葉隠、そして魔法の矢を番えた魔法使い。

 あと一人、まだどこかに潜んでいる。

 先に葉隠や牙城を無力化したいところだが最後の一人が不穏だ。

 それに目の前にいる二人がそれを許さないだろう。

 居場所を見つけられても二人を倒すのが先になりそうだ。


「なら、畳み掛けるぞ」

「あぁ、今度は同時にな」


 二人が同時に地面を蹴って駆ける。

 あの炎が付与された剣は不味い。

 ジャックフロスト・ボディのままでは不利だ。


「炎には水だ」


 ジャックフロスト・ボディをシーサーペント・スケイルに変換。

 左右から流れる双撃を、この両腕が掴み取る。


「こいつっ」

「厄介だねぇッ」


 燃え盛る剣は水の魔力によって鎮火される。

 炎が消えればただの剣。

 そんなもので海の大蛇は斬り裂けない。


「没収だっ」


 剣の刃を握り締め、二振りのロングソードを剥奪する。

 得物を失えば大幅な戦力ダウンに繋がるはず。

 いまこの瞬間において二人はただの木偶と化した。

 そう確信を抱いた、その直後。


「包囲、構築」


 二人が言葉を唱え、俺を挟み込むように跳ぶ。


「展開、始動」


 周囲を取り囲むように光の線が走る。


「四方城壁」


 四方から迫り上がる光の壁。

 得物を取り上げたことで生じた一瞬の隙を突かれた。


「――まずっ」


 この光の壁は、だが結界のように外界から隔離されている訳じゃない。

 出口はある。

 自らの頭上だ。

 天井がなく、そこから脱出が叶う。

 しかし、それは探求者とて理解していることだ。


真崎まさきっ!」

「――其は天地貫く神の残光」


 天が鳴く。


「天鳴!」


 閃光が天地を貫いて落ちる。

 雷、神の残光がこの骨の身体を打つ。

 シーサーペント・スケイルを引き裂いた。


「ガァアアアアアァアアアアアッ!」


 魂に刻まれる衝撃と痛み。

 駆け巡る雷撃と圧倒的な熱量。

 それはシーサーペントの鱗を骨の身体から引き剥がす。

 神に並んだ海の大蛇も、神の残光には敵わなかった。


「ぐぅううっ」


 身体がうまく動かない。

 骨同士の接続がままならない。

 立っていられずに膝をつく。

 焼け焦げた地面に手をついた。


「決めろ、たちばなっ!」


 いつの間にか、光の壁は消えていた。

 そして、視線の先から隠れていた最後の一人が姿を見せる。

 激しい稲光を放つショートソードを携えた魔法剣士。

 真っ直ぐに駆け抜けた彼が、すこしの容赦もなく魔法剣を振るう。


「――」


 身を守る魔力を引き剥がされた以上、これを喰らえば致命傷だ。

 二度目の死。

 その死は恐らく、本当の死になる。


「死んで――」


 右手に魔力を全集中。

 通りが悪くとも無理矢理にでも流し込む。

 負荷によって骨に亀裂が走っても構わない。

 この一時をしのげれば十二分。

 骨の二三本くらい、くれてやる。


「――たまるかァ!」


 この右手に限り、シーサーペント・スケイルは復活する。

 鱗を纏い、迫る雷撃の魔法剣を受け止めた。


「なっ――」


 高密度の水の魔力が魔法剣の雷撃を完全に抑え込む。

 かつてのサラマンダーがそうであったように。

 重ねて束ねれば局所的にでも弱点を克服できる。


「やって……」


 右手から腕へ。

 腕から肩へ。

 肩から胴や左腕、頭へ。

 胴から足へ。


「……くれたな」


 シーサーペント・スケイルは再構築される。


「――橘っ、得物を離せっ!」


 朽金の言葉を受けて橘は得物から手を離す。

 それに伴い丸腰となった彼は俺から距離を取ろうとした。

 しかし、それをただで許すわけにはいかない。

 追い打ちを掛けるように俺は周囲のすべてへと水の魔力を放出する。


「こいつは――」

「不味いねぇ」


 のたうち、暴れ狂う、いくつもの水の激流。

 それは海の大蛇を形作り、全方位に向けて牙を剥く。

 土をさらい、地表を削り、木々を薙ぎ倒し、人を呑む。

 激流は結界内のすべてを破壊し尽くし、探求者を残らず押し流した。

 そうして最後には六人すべてを結界の壁に叩き付ける。


「がはっ!」

「ぐぅう」


 激流は治まり、濡れた大地の上に探求者たちが伏す。

 意識はあるし立ち上がれるだけの気力もあるらしい。

 だが、もう戦えるだけの余力はすでにない。


「……かなり魔力を持って行かれたな」


 ヒポグリフとの戦いに備えて魔力消費は抑えたかったがしようがない。

 窮地に陥ってそれどころではなくなってしまった。

 でも、なんとか探求者全員の無力化は成功できている。

 魔力を補給して出直しだな。


「さぁ、この結界を解いてくれ」


 そう告げると、立ち上がった探求者たちの目が見開く。

 驚いているように。

 そして、すぐに訝しげな表情をした。


「どういう……つもりだ?」


 そう言った朽金の声は低い。


「俺たちを皆殺しにすれば片付く話だろ。なぜ、そうしない」

「そうしてほしいのか?」


 そう聞き返すと返事が途絶えた。


「……俺は人を殺したくないんだよ。こんな姿になっても、魂はまだ人間のつもりだ。今まで魔物を何体も狩り殺してきたけど、人間を手に掛けようとは思わない」

「それが……てめぇの命を狙った相手でもか」

「てめぇの命を狙った相手でも、だよ」


 敵対しようと、剣を向けられようと、俺の意思は変わらない。


「そりゃ、あんたらを始末したほうが都合がいいのはたしかだ。また俺を殺しにくるだろうしな。でも、だからと言って、あんたらを殺そうとは欠片ほども思わない」


 思ってはならない。


「人を殺せばその代償に俺はきっと大切なものをたくさん失う。尊厳、誇り、理性、矜恃、思い――約束。そんなものは俺が望む未来じゃない」


 魔物の身体に人間の魂が入っているんだ。

 その歪さがどのような結果をもたらすかは予想がつかない。

 もしかしたら人間を殺すことで魂が人間性を失うかも知れない。

 俺の自我が消失するかも知れない。

 人の道を外れた行いをすれば、剥き出しで無防備な魂が魔物に近づく。

 そんなおぞましい悪寒がする。

 だからこそ、俺は人間であろうとしなければならないんだ。

 人間として復活し、セリアを迎えにいく。

 その約束を果たすためにも。


「人間を殺せば人間でなくなる。人でなしの殺人鬼だ。だから、あんたらを殺さない」


 それがどれだけ不利益に繋がろうとも、絶対に。

 これだけは譲れない。


「嫌だって言うならしようがない」


 左手をジャックフロスト・ボディに変換。

 すぐ後ろに魔氷のイスを造って腰掛ける。


「持久戦だ。この結界だってそう長くは維持できないだろ? いずれ魔力が枯渇する。俺はその時がくるまでじっくり待たせてもらう」


 頬杖をついて探求者たちを見据える。

 そうしていると朽金が口を開いた。


「牙城、結界を解け」

「……本気?」

「あぁ、今の俺たちが戦って敵う相手じゃない。それに奴に殺意がないのもたしかだ。いまは生きて情報を持ち帰ることが俺たちの仕事だ」

「……承知」


 牙城が返事をした直後から結界の崩壊が始まる。

 雪のように破片が舞い散り、光の壁は消失した。

 それを確認してイスから立ち上がり、この場から去ろうと足を動かす。


「――待て、最後に聞かせろ」


 しかし、呼び止められた。


「なにをだ?」


 足を止めて振り返る。

 視界の中心に朽金をとらえた。


「お前が望む未来とはなんだ?」


 一番に思い浮かんだのはセリアの顔だった。

 次に四角く縁取られた街の情景が浮かぶ。

 そう言えば不治の病でずっと病院暮らしだった。

 窓からみる街を眺めては、そこを行き交う人たちを羨ましがった。

 ついに眠りにつくまで人らしい生活はできなかったな。

 そう思うことではっきりとした未来が描かれる。


「人として暮らすことだ」


 その隣にはセリアがいてほしい。


「人として……」


 朽金は考え込むような仕草をする。


「それは――」


 そして、追加で質問をしようとした直後。


「クアァァアアアアアアアァァアアアアアアッ!」


 はるか上空から響く魔物の咆吼がそれを掻き消した。


「なんだっ!?」


 俺たちの視線は上空へと向かい、そしてその正体を見る。

 鷲の上半身に馬の下半身を持ち、飛翔する魔物。

 ヒポグリフ。

 奴は上空から飛来し、その鉤爪を俺たちに向けた。

 いや、違う。

 狙いは余力のない探求者、朽金だ。


「――退けっ!」


 その鉤爪が彼を捕らえる寸前に割って入る。

 朽金を押し出し、自身が鉤爪の餌食になった。


「――ッ」


 鋭利な爪が、右腕のシーサーペント・スケイルを貫く。

 そこは骨に亀裂の入っていた箇所。

 鉤爪は骨まで達し、俺の右腕を打ち砕く。


「クアァアアアアアアアアアァアァァアアアッ!」


 そのままヒポグリフは飛翔する。

 地面から足が遠退き、空中へと連れ去られた。


「スケルトンッ!」


 朽金が叫ぶ。

 だが、その声はすでに遠いものになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作を始めました。こちらからどうぞ。魔法学園の隠れスピードスターを生徒たちは誰も知らない
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ