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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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反魂のネクロ


「――フェニックスの再生の炎、アジダハーカの魔法、ジャバウォックの混沌の言語、そしてこれまで培ってきたすべての魔力。それらを用いて貴方の肉体を蘇らせます」

「あぁ、始めよう」


 全身を再生の炎で満たし、両手に三千の魔法を灯し、混沌の言語を呟く。

 そしてこれまでのすべてを費やしてネクロマンシーを発動する。

 瞬間、輝く淡い光の粒子が集い、この骨格から剥がれるように遺骨が落ちた。

 足下に転がったそれはゴブリンの頭蓋だった。


「――肉体の再生に伴い、これまで取り込んできたすべての遺骨が排出されます」


 ゴブリンの刀剣、コボルトの獣爪、ジャックフロストの冷気、シーサーペントの水流、サラマンダーの火炎、ヒポグリフの突風、カーバンクルの宝石、サンダーバードの稲妻、オチューの目玉、ガーゴイルの砂塵、フェンリルの速度、バジリスクの石化、ジャバウォックの言語、ヒュドラの息吹、ケルベロスの黒炎、アジダハーカの魔法、ケリュネイアの時間、そしてフェニックスの不死。

 そのすべてが脅威で、すべてが心強い武器だった。

 これまでの遺骨が排出され、これまでの能力を失い、肉体は再構築される。

 思えば長い長い道のりだった。

 これでようやく旅が終わる。

 大小様々な十八種類にも及ぶ遺骨の山に埋もれ、ネクロマンシーは完了した。

 それと同時に遺骨の山が崩れ、美鈴の前に姿を晒す。


「――それがあなたなんですね」


 大きく息を吸い込み、肺を空気で満たす。

 呼吸が出来る。目が見える。世界を肌で感じる。

 心臓が脈打つ。


「あぁ、これが俺だよ」


 最弱のスケルトンから成り上がり、フェニックスを越えて人間へと蘇った。


「ついに……成し遂げたんだ」


 いろいろな人に助けられてきた旅だった。

 すべてではなかったけれど、深く関わった人達はみんな俺の復活を願ってくれた。

 それが今ようやく叶い、両目からは流すことができなかった涙がこぼれ落ちる。

 あぁ、ちゃんと生きている。

 生きているんだ。


「着る物に困るだろう? これを着な」


 いつの間にか近くにいた美鈴の師匠から衣服を投げられ、それを受け取る。


「どうも」


 それに袖を通していると、美鈴の後ろにいる高位探求者、光弾の打ち手が訝しげにこちらをみた。


「まさか、本当に人間に戻るとはな」

「あんたは厄介な敵だったよ、本当に」


 遺骨の山を抜ける。

 下半身の衣服は、もともと身に纏っていた。

 あれはなんだったっけな。近くのロッカーから見付けたんだっけ。

 たしか上下あったはずだけど、上着のほうは長年の戦いで焼け落ちていた。

 けれど、そのお陰で今も恥ずかしい格好ではない。

 身だしなみに気を使えるのも、生きた者の特権だ。


「貴重なものを見せて貰ったよ少年。死んだ人間が生き返る光景なんてもう二度と見られないだろうからね」

「本当におめでとうございます。私も自分のことのように嬉しいです」

「ありがとう、本当に感謝してる」


 二人には世話になった。

 あとでなにかお礼をしないとな。


「さぁ、それじゃあ帰るとしようか。ここは危険過ぎる。ほかの探求者にも連絡を入れて引き上げさせないとね」

「ならば、私が連絡しておきましょう。お二人は彼を地上まで送り届けてください。そのほうが彼にとってもいいでしょう」

「やけに協力的じゃないか」

「私の仕事は魔物を仕留めること。人を殺すことではありませんので」


 そう言って、光弾の探求者はこの場から去って行く。

 彼女には彼女の線引きがあり、俺はその内側に入ることが出来たのだろう。

 俺はもう人々にとって脅威ではないと、暗にそう言ってくれているような、そんな気がした。


「では、行きましょう。道中の魔物はこちらで対処します……主に師匠が」

「はっはー、そうだね。この辺の魔物は美鈴にはまだ早い」

「世話になります」


 生き返ったことで俺はすべての能力を失った。

 本当にただの人間に戻ることが出来た。

 今の俺じゃスケルトンに勝てるかどうかもわからない。

 歩き出した二人の後を追うように俺も一歩を踏み出す。


「――ついに成し遂げましたね、音無透」

「精霊」


 心なしか、精霊の声が聞き取り辛い。


「あぁ、そうか」

「――はい、直に私の声は聞こえなくなるでしょう」


 本来、精霊と会話をするにはエルフの長のように自らを死に近づけなくてはならない。

 剥き出しの魂があったからこそ、俺は精霊と意思疎通を図ることができた。

 でも、今はもう違う。魂は肉体に守られ、剥き出しではなくなった。

 今はその名残で会話が出来ているが、それも直になくなってしまう。


「――最後に貴方に伝えておきたかった。私の聞き手はほんの僅かしかいません。真実を語るだけの私と会話をしてくれたのは貴方だけ。私は貴方に感謝しています」


 感謝しているのはこちらのほうなのに。

 精霊がいなければ俺はただのスケルトンで終わっていた。

 すぐにべつの魔物の餌食になるか、冒険者に殺されていたことだろう。

 この旅での一番の恩人は精霊にほかならない。


「――貴方との旅は楽しかった」

「ありがとう、精霊。元気でな」

「――はい、貴方もお元気で」


 その言葉を最後に精霊の声は聞こえなくなった。

 これが今生の別れになることは言うまでもない。

 長年付き添った相棒を失ったようで、すこし寂しい気もしたが前を向くことにした。


「行くか」


 足を動かし、今度こそこの場を後にした。


§


「今後の話だが、私が少年の身元保証人になってあげよう。自分で言うのもなんだが、私は高位探求者の中でも地位が高い。上層部も私の意見を無碍にはできないから、安全は保証できるはずだ。まぁ、多少の監視はつくだろうけれどね」

「人間として扱って貰えるだけで十分です」

「困ったことがあれば何でも言ってください。力になります」

「あぁ、しばらくは頼りっきりになると思う。感謝しても仕切れないよ」


 人間に戻った後のことを、そう言えばなにも考えていなかった。

 ただ約束を果たしたくて――特に一番果たしたい約束がある。


「すこし寄り道してもいいですか?」

「寄り道? どこに行こうってんだい?」


 美鈴の師匠が軽く魔物を薙ぎ倒しながら問う。


「色んなところで色んな約束があるんですが、一番に会いたい人がいて」


 人間に戻ったら会いに行くと色んな場所で約束をしてきた。

 そのどれもが大切だけれど、やはり一番に交わした約束を果たすべきだろう。

 いや、果たしたいというべきか。


「この先なんですけど」


 通路の先は水没していて、微かに波打っている。


「では、私が魔法を掛けましょう。会いたい人がいるということなので、翻訳魔法や諸々の魔法を掛けておきます」

「ありがと、助かる」


 美鈴に魔法を掛けてもらい、水没した通路を進む。

 仄暗い道を通り、水底を目指して歩き続ける。

 そうすると次第に明かりが見えて来て、誘魚珊瑚の光に照らされた。

 ここは水没した大規模空間の底。

 色取り取りの魚が群れをなし、虹のように泳いでいるのが見える。

 それを眺めながら歩いていると、虹を貫いて何かがこちらに迫った。

 流星の如く落ちて俺の足下を穿ったのは、一本の矢。

 見上げるとそこには一人の人影があった。


「二度目はありません」


 矢を射ったのは、半身が魚の人間。


「ここから立ち去りなさい」


 人魚だった。


「あぁ、懐かしいな。このやり取りは」

「懐かしい? なにを言って――」


 目と目を合わせ、言葉を交わし、そして理解する。

 彼女は目を見開き、大粒の涙を浮かべると、勢いよくこちらへと泳ぐ。


「透さん!」


 そのまま迎え入れて、互いに抱き締め合った。


「迎えにきたよ、セリア」

「はい! ずっと! ずっと待っていました! 透さん!」


 ずっと果たしたかった約束が、いま叶う。

 死んでから生き返るまでの長い道のりは、この時のためだった。

 いま感じているすべてのことが幸せだ。

長い間、お付き合いいただき本当にありがとうございました。

反魂のネクロはこれにて完結です。

この後、透たちは幸せに暮らしていくことでしょう。

続編は考えていませんが新作は書くので、この下から読んでいただけると幸いです。

本当にお疲れ様でした。



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新作を始めました。こちらからどうぞ。魔法学園の隠れスピードスターを生徒たちは誰も知らない
― 新着の感想 ―
主人公が甘いと言ってる人いるがこれはしゃーない。 人間に戻ることが目的である以上、最後は人の社会に入る訳で、その後の確執を抑えることを考えると殺人は避けるべき。
[良い点] は??? ふざけるな なんて良い作品なんだよ。 最後の締めくくり、最高でした。
[一言] 面白かったです。 良い物語をありがとうございました。
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