三重の毛皮
視界を埋めるのはネームレスからの攻撃、水弾の弾幕だった。
「くそッ」
ケルベロスの黒炎で迫り来る水弾の雨を蒸発させる。
だが、一つの属性をしのいだかと思えば、また別の属性が放たれる。
水蒸気の幕を突き抜けて雷が迫り、即座に紫電の翼で回避した。
攻撃されるたびに体の一部、時には全身を変換して立ち回るも、代わる代わる繰り出される別属性の攻撃に翻弄され、どうしても後手に回ってしまう。
圧倒的な手数の多さに加えて、攻撃の一つ一つが高位の魔物以上の火力を誇っている。
まともに相手をしていたら押し切られるのはこちらのほうだ。
「ならッ」
個別の対応を諦め、全身をヒュドラのそれに変換。
背から龍頭を生やし、各属性のブレスを放つ。
繰り出された他属性の攻撃を六束のブレスで押し切って薙ぎ払う。
視界を覆っていた攻撃を一掃して、どうにか一息を付く。
だが、それも一時しのぎ。
すぐにまた攻撃は再開され、決して当たってはならない火炎の礫も放たれる。
「このままじゃジリ貧だ」
回避に専念しつつ、攻撃の隙間を縫ってネームレスを攻撃してもすぐに再生されてしまう。
半端な攻撃じゃ意味がない。
ただただ魔力が消費されていくだけで、本体のフェニックスにすら近づけない。
「出し惜しみはなしにしたほうがよさそうだ」
身に纏う魔力を変換し、ケルベロス、フェンリル、コボルトの魔力を混淆させる。
三重に羽織った毛並みが燃え上がり、冥界の黒い炎が身を包む。
同様の黒炎を握り締めれば、それが刃として伸びて大剣を構築する。
翼を畳んで地に落ち、舞い上がった無数の骨が灰となって消えていく。
「――複合特性、狼装を獲得しました」
黒炎の大剣を担ぎ、骨の足場を蹴る。
弾き出されるように駆け、その速度はフェンリル以上。
降り注ぐ雷も、水弾も、火炎の礫もいまの俺には追い付けない。
一度として止まることなく駆け抜け、すべて躱してネームレスの懐へ。
得物を握り締め、黒炎を盛らせ、骨の地面に鋒を埋めながら振り上げる。
駆け上がった黒の一閃は、軌道上のすべてを焼き切り天へと昇った。
ネームレスは下顎から顔面を二つに割られ、夥しい量の血液を流す。
ただ、それでも、フェニックスに届いた訳じゃない。
「これでも、まだ駄目か」
フェニックスの再生の炎は、どのような致命傷であってもなかったことにしてしまう。
死を覆すほどの再生力を付与する火炎だ。
どんな攻撃で負傷させてもたちまちに治されてしまう。
さながら時間が巻き戻る如くだ。
「時間を加速させても無駄だろうな」
ケリュネイアの能力を駆使しても状況はあまり変わらない。
かつては忘却の彼方へとネームレスを追いやった時の流れでも止められない。
死と再生のサイクルが早まるだけで、ネームレスにも効果がないだろう。
風化して塵になる前に元の状態まで戻されるだけだ。
「でも」
降り注ぐ攻撃を素早く躱し、周囲を駆けて思考を巡らせる。
「まだ手はある」
俺は再び身に纏う魔力を変換させた。
ここから反撃だ
また新作を書いたのでよければ下から読んでいただけると嬉しいです。




